第72話 襲来の爪痕
「おお、オモイスゴシ老!」
「ヒトリゴトさーん!」
犬神と四匹の猫叉は座敷の隅に集まった。
猫詩人と猫占術師はいそいそと天井から降りてくる。
「心配かけたようじゃのう」
「なあに
犬神にはすっかり赤岩山の猫たちに仲間意識が芽生えていた。
「掠り傷ひとつ負っていないよ。危機一髪ではあったがね」
ヒトリゴトが羽織ったチョッキを撫でながら答える。そんな彼に数センチの間隔を保ちつつショウリンが寄り添った。
「一体、わたくしたちの留守に何があったんですの?」
「検討はついているがな。オモイスゴシ、昨日あんたに運勢を診てもらったとおりのことが起きた。まだまだ占い師の看板を下ろす必要はないぞ」
「うむ、ここへも狐が現れおったのよ」
やっぱり……と一同がため息をつく。
「三光さんから戻ってきたヒトリゴトと
「コベニといったかい? ここの主から招待を受けていると言っても、あの獰猛な娘が畜生を入れるなどまかりならぬとけんもほろろの態度でね。とうとう刀まで抜いたのでいったん退散しようとした矢先のことさ」
突如、彼らの後ろで妖風が吹いて、古寺を覆う霧を裂いて鬼火が現れた。それが実体化して二匹の狐になったという。
「一匹は見事な金毛、もう一匹は銀毛であったな」
「どちらも尻尾は五本」
「──金狐と銀狐!」
しかも五本尻尾と聞いて、清丸は珍しく戦慄を覚えた。
「わしらには目もくれず、この古寺に高い霊格を持つ者がおるはずじゃから会わせろと娘に取り次ぎを命じてのう」
「半ばケンカ腰の高圧的な態度でね」
「わかった。その先はゆっくり茶でも飲みながら聞かせてもらおう」
「飛び入りの客人もおりますので」
ささっと繁が屋内の片づけとお茶の準備に走った。
「よくもやりやがったな腐れ猫叉どもォ!」
「んだよ、ケンカ売るような真似してきたのが
虎縞猫と細身の白狐が憤怒に燃えてガンを飛ばし合う。
背後からの奇襲を受けて、見るも無残な屍を晒す一歩手前まで追い込まれた二匹の狐は、目を覚ますや否や猫叉たちに食ってかかった。
もちろん繁と松竹梅の三匹も最初は平身低頭。しかし、木幡狐の怒りも土下座ひとつで冷却できるほど生易しいものではなく、なかんずくオイコミからは執拗に罵られ、あばずれ猫と酷評され、とうとう血の気の多いチクリンが逆ギレに至った。
「よさんかお竹、客人だぞ!」
「オイコミも頭を冷やせ」
清丸とサカナデが両者を引き離して座らせる。
「改めて犬神どのとご臣下を嘲弄した段、お詫びさせていただく」
サカナデが手を着くとオイコミも不承不承それに倣った。
「うむ、これで双方遺恨は消えたものと心得よ。わかったなお竹?」
「わーったよ! 不意打ちは卑怯だったよ!」
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