紗代子 不協和音
「どうして言うこと
不満、そう不満だらけだ。
あれほど情熱的で行動的だった男が、今はなに? 私が何をしたいのか、何を求めてるのか考えようともしない。
釣った魚には餌をやらない——。それだけでも腹立たしいのに。
「紗代子……」
「いやだ、近寄らないで」
ソファに置いてあったクッションを投げつけた。簡単に
「あっ」と声を上げた瞬間、そのままソファへ仰向けに押し倒され、両手首を頭の上で押さえ込まれていた。
「いやっ……、触らないでって言ってるじゃないっ」
あんな
足で和幸の体を蹴ったが、びくともしない。それどころかソファに押さえ込まれる力に拍車が掛かる。やっとすり抜けた両手で和幸の顔を引っ叩こうとしたが、
「やっ……放してっ」
「もう終わりにするんだっ!」
和幸の一言でソファが
「
「言うこと聞いてくれるのか」
さらに、私を押さえつけてる指に舌打ちしそうになる。いつもなら、すんなり家を後に出来たはずなのに。淡々と、それが当たり前のように、この重苦しい家から出れたはず。なのに和幸のこんな強引なやり方、私は知らない。
「ねえ。なんで、そんなに熱くなってるのよ。私が外に出歩くの、これが初めてじゃないじゃない。いつものことでしょ」
嘘は言ってない。逆に和幸にとって、これほど良い条件はないだろう。妻が、夫の浮気を
「
和幸が胸元で組んだ手首ごと、胸を強く押してきた。肺を押され息が出来ない。うっと声を上げそうになるのを必死で
「あいつだろう。あの
和幸は他の男と比べたら割と
和幸の腕が、手が、指が、私を傷つける勢いで迫ってくる。これは今までなかったことだ。
これは無理だ。
「わかったわ、話すから……だから
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