紗代子 不協和音
窓に
窓に和幸の姿が写る。
キッチンの中にいる和幸。その手元、ドリッパーから黒い液体がサーバーに落ちる。
「コーヒー、入れたよ」
差し出されたコーヒー。湯気の中で粒子が踊るのを眺めながら一口飲むと、テーブルを挟んだ目の前の和幸が微笑んだ。
「雨だね。この雨が止んだら、きっと暑くなっていくんだろうね」
遠い眼差しでベランダを見つめながら腕を組み、明るい未来に想いを巡らせているみたいな
「今年は無理だけど、来年はベランダに朝顔でも植えてみようか。きっと綺麗だよ」
昼過ぎの
夏の日差しを浴びた青紫の花が、空に向かって咲く姿は確かに綺麗だろう。しっとりとした花びらの上で
美月と、いい感じなんだ。だから、こんなにご機嫌なのか。
「そうね……、いいかもね」
「どこに行くんだ」
和幸の言葉で、場の空気が一瞬で変わった。張り詰めた空気と共に、表情が
「どこって、そんなの関係ないんじゃない? お互い好きにしましょうよ。その方が楽でしょ」
そのまま席を外す私の背後で、和幸が立ち上がった。
「行くんじゃない」
腹の底から響くような低い声。振り返って、私を
いつもより大きく見える和幸の
胸糞悪い。
和幸を無視して寝室へ向かった。ベットに着ていた服を放り投げ、クローゼットからお気に入りのワンピースを取りだす。
扉の前に立つ和幸の刺すような視線を肌で感じながら、呼吸を整えて着替えた。化粧を直すためドレッサーの前に座り、鏡越しに無言でこちらを見つめる和幸と目を合わせる。
私がどうしようと、それを止める権限など和幸にない。
「紗代子」
無視して唇にルージュを塗った。真っ赤なルージュ、女として一気に華やぐ瞬間だ。
「行くなと言ってるんだ」
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