第5話 未来
私は源さんに連れられて薄い金属製の壁に囲まれた場所にやってきました。
翻訳の魔法を使えば壁に「田口金属」と書かれています。
「よお、源さん。いつもより早いな」
「ええ、田口さん。おはようございます。今日は新入りを連れてきたんですわ」
「その後ろの奴か?ひっでえ顔だな。先祖返りか……源さんの昔の関係?」
「そんなようなもんです。二名分、お願いいたします」
「あいよ、源さんがついてりゃ借りパクされることはねえか。レンタル料はいつもどおり買取額から天引きだ」
「ええ、よろしくおねがいします」
そういうと田口さんと呼ばれた方はフェンスの裏からなにやら二つの車輪が直列についててその後ろに荷車を接続したものを引いてきました。
「自転車だ、奇康さん乗れるかい?」
「ええ、大丈夫だとは思います」
私がいた国にも似たような構造の乗り物はございました。ただ、全て木造で田中さんが引いてきたような車輪に柔らかな素材を巻きつけたりはされていませんでしたが。
「まあ、リアカーついてるしぶっ倒れることはないだろう」
そういうと源さんはもう一台にまたがって走り出します。
「ちょ、ちょっとまってください」
わたくしはなれない自転車という乗り物に苦戦しながらフラフラとその後をおいかけます。
しかし、アンデッドになったせいか身体能力は向上しているようですぐにコツを掴むと安定して走れるようになりました。
「このゴミ収集場にあるこのアルミ缶ってやつを集めるんだ」
源さんは道に等間隔で建てられた柱の下に積み上げられたゴミと思しき中からなにか金属の筒状のものが入った袋を取り上げました。そして自転車の後ろに繋げられた荷車に放り込みます。
「本当は窃盗行為なんだがな、市の職員も自分の仕事が減るしこれをこれを売ったからってたいして予算の足しになるわけでもない。逮捕しても微罪だから黙認されてるってわけだ」
「なるほど」
予算とか窃盗の話はよくわかりませんでしたが、私の国ではゴミの処理は奴隷階級の仕事で今の私達はそういう立場と言うことでしょう。
ゴオオオオオオオオーー
その時私達の横を鋼鉄の巨大な物体が通り過ぎていきました。
「な、なんですあれわっ!!鋼鉄の獣っ?」
「あんた車も見たことがなかったのか?空港からココまで来る間にも走ってただろう!!」
「いえ、棺桶のようなもののなかで眠らされていて、気がついたらココに」
「それ、ブローカーにむりやり密入国させられたってことか?普通に犯罪だぞ。警察に言って国に返してもらったほうがよくないか?」
「勘弁してください。元の国は多分なくなっているのです。戻る場所はもうありません」
「そ、そうか。人にはそれぞれ理由もあるもんな。悪かった」
「いえ、源さんに落ち度はありませんよ」
「そう言ってもらえると助かるよ。あれは自動車っていう乗り物だ。人が操縦してる」
「自動車……魔力で動くゴーレムのようなものでしょうか?」
「いや、もうゴーレムなんてほとんど残ってねえよ。博物館にあるぐらいだ。あれは内熱機関、科学の力で動いている」
「科学……」
「魔法の力を誰でも使える様にしたようなもんだ」
「なるほど、それでは魔術が廃れるはずです」
その後、源さんのおすすめのコースというルートを通りアルミ缶を回収していきました。
途中、自動販売機というもののそばでそのアルミ缶を購入している人間を見かけ、私が集めているものが飲み物を保管してる容器だと気付くことができました。
私と源さんは段々と繁華街のような場所に近づいて行きました。
そこでは私にとって驚愕の景色が広がっていました。
きらびやかな照明、鮮やかな看板、その看板もまるで超一流の画家が描いたような精密なものでした。それが炉端にいくつも掲げられていました。私の国ではこのような場所に野ざらしにされていいものではありませんでした。
それになにか薄い額縁のなかでまるで小さな人間が演劇をしているかのような箱。
魔術による幻影の類かと思いましたが超級の魔術師でもこのような精密なものは無理です。
「源さん、あれは?」
「あんた、本当にどんな発展途上国から来たんだ?テレビも見たことがないのか?」
「テレビ?」
「カメラっていうので撮った映像を貯めておいて後で映し出せる機械だ。遠くで撮った風景を離れた場所で映すこともできる」
これだけ文明が進んでいれば認めるしかありません。相当の年数眠っていたことを。
「また科学ですか……。ちなみに源さん、今は英雄歴の何年ですか?」
思えば最初に聞くべきでした。私が何年眠っていたのかを。
「英雄歴?その歴は知らねえが今は西暦2020年だぜ」
……いまいち西暦と英雄歴の関係がわかりませんが、どうやら最低でも2000年以上は眠っていたようです。
そして愕然とする私の前を更に驚愕の存在が通り過ぎていきました。
「げ、源さんっ!!魔族っ!!魔族ですよっ!!人間社会に魔族が紛れ込んでいますっ!!排除しないとっ」
そう、私の前には羊のような、ヤギのような角が生えた人間が歩いていました。彼は嫌そうに私の顔を一瞥するとなにか納得の行かない表情をして通り過ぎていきました。
「おいっ!!」
源さんは鬼の形相をすると私のジャージの胸ぐらを掴みました。
「魔族って言うのは差別語だ!!二度と使うんじゃねえぞ!!先祖返りだ!!お前もそうだろうがっ!!」
私が魔族?私はアンデッドであって魔族とは違いますが……。
「ほんとどんな教育受けてきたんだ。はるか昔に異種族の血が混じったんだよ。今じゃ人類全員がその因子を僅かだけど持ってる。そして極稀にだが先祖返りして異形になっちまう奴が出てくる。見た目からほとんどが差別されるがな」
なるほど、源さんはその「先祖返り」のしていたと星さんも言っていました。彼の逆鱗に触れてしまったようです。
「申し訳ありません。ご不快にさせたのなら謝ります」
私は神妙に謝りました。
「あなた達の言う”先祖返り”の中には長命のものもいるということですよ。長い間眠らされていて」
「あんた……。そうか深くは聞かねえや。おれも熱くなって悪かった」
「いえ、こちらこそ」
「そこの自販機の側にも缶が落ちてるぜ。袋に入れてまとまっていなくても一個ずつあれば拾って行けば、塵も積もればなんとやらだ」
「はい」
「明日からは一人でやんなきゃいけねえんだ。しっかり覚えろよ」
「ありがとうございます」
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