勇者大戦 ~英雄Aくんの災難 勇者12人のバトルロワイヤル~

田中よしたろう

鋼神勇者

???勇者 第1話


 いつものようにバックパックにノートPCと着替を入れ、派手なオレンジ色をしたダウンコートを着込むと自分の部屋から一階へと降りていく。


 「家には居づらいから、また漫画喫茶で時間を潰すか」と玄関に向かったところで母親に捕まった。

 廊下から覗くリビングには出来立ての朝食が湯気をあげていた。

 

 父はしばらく出張で家にいない。

 律儀に俺の分も作っていてくれたのだろう。しばらく家で朝食を出されても無視して食べていないのに。


 少しだけ胸にチクリと痛みがさすが素直になれない。


「どこ行くの!? 学校はどうするの!?」

「うるせえっババアッ!! 俺がどこにいこうが関係ねえだろっ!!」


「関係あるわよ!!あなたの母親だもの。ねえ、お願いだから学校に行って!!このままじゃ退学になっちゃうわよ!!あれだけ頑張って受験勉強をしたんじゃない。全部無駄になるわ」


「あんなとこもう行けるかよっ!!最初から間違いだったんだ。それより金寄越せよ」


「だめ。それはお父さんから預かった生活費」


「うるせえっ」


 ドンッ!!


「きゃあっ」


 戸棚にしまってある母親の財布から金を抜く俺を止めようする母。

 揉み合いになった結果少し突き飛ばす形になってしまった。


 尻餅をついて目に涙を浮かべる母。


「……」


 しばらく俺はそれを無言で眺めると逃げるように家を飛び出した。

 

…………

………


 俺は市街地へと続く川の土手をイライラとした心持のまま歩いていた。


 反対側から女子高生らしき集団が歩いてくる。

 あの制服には覚えがある。俺が通っている高校に近い女子高だ。

 きゃいきゃいと笑い合いながら楽しそうだ。リア充っぽい雰囲気がある。


 こんな時間に?俺と同じさぼりか?


 そのまま集団とすれ違った。


「うっわ何あの色?」

「キモッ」

「ブサッ!!イケメンが着るならまだしもねー」

「キャハはハハハハハ!!」

「ねえねえ写真撮ってさらそうか?」


 すれ違った直後に聞こえたその声に俺はピタリと足を止めた。


 ブチっ!!

 頭に血が上る音がする。


「スゥゥゥゥーーーーーーッ」


 深呼吸をするとピンっと背を反らせて周りを見渡す。

 

 良し。周りには人家も店もない。よって監視カメラも無い。

 川の水位を監視するカメラも市の河川課の予算が無いのか壊れたままだ。

 というか少し前、深夜に俺が壊した。


 俺はクルリと振り返ると、ダッダッダッダダダダと集団に向かってダッシュした。


「お・ま・え・ら・ご・と・き・に馬鹿にされる云われはねぇぇえぇぇぇぇえ!!このクソビッチどもがぁあっぁぁぁっぁあぁああっぁぁ!!」


 そしてダッシュの勢いそのままに集団の一人にドロップキックを、放った。

 

 ドカッ!!


「痛っ!!何っ?え?何っ」


 キックを喰らって倒れた女子高生……もといクソビッチの顔に追撃で踵を何度も振り下ろす。


「痛い。やめっ!!痛っ!!」


 鼻や顎から血が飛び散りこのビッチがぐったりする。


「キャアアアアアアアアアアアアアア」

「な、なんなのこいつっ」

「警察、警察呼んでっ!!」


 通報しようとしたビッチからスマホを取り上げる。ついでに指をへし折ってやった。


「ぎゃああああああああ」


 そのままバキリとスマホを折り曲げると川の中に捨てた。

 そしてそのビッチの顔を何度も殴り付ける。


 自分より圧倒的に強い奴に力で押さえつけられるならまだ我慢が出来るが、こんな非力な連中に馬鹿にされるのは我慢がならない。

 あ~、でも街の不良達に馬鹿にされて突っかかって半殺しの目にあったこともあるから相手が強いか弱いかは関係ないかも、俺。


 他のビッチがまたスマホを取り出そうとするので奪った。

 今度は通報をあきらめて証拠写真を撮ろうとしているところだった。


「ちょっと、返してよっ」


 再び、川の流れに捨てる。

 そしてバックパックで殴り付けた。

 ノートPCが入っているので固くて重い。

 それを頭部に受けたビッチはバタンと倒れて動かなくなった。


 集団の他何人かにも暴行を繰り返し、全員蹲って動かなくなったころ、俺は脱兎のごとくその場を離脱した。


 ざまあみろはははははははは。

 相手がどれだけ頭のおかしいやつかも知らずに失礼な態度をとるからだ。


 ただ、一人、あの集団で気になるやつがいた。

 俺がドロップキックをしてから離脱する最後まで、目を見開いてこちらを凝視するだけでぼうっと突っ立っていた女子。

 まったく何もする気配が無かったから放って置いたが何だったのだろうか?

 叫び声も上げなかった。

 ただ動揺してただけか?


 俺は頭の中にある、監視カメラを付けた家の地図から、写らない経路を通って公園へと辿り着いた。

 そして着ていた蛍光オレンジのダウンコートをゴミ箱に叩き込んだ。


 俺の顔は本当に平凡な、印象に残らない形をしているから(自慢にならねえくそ)俺をみた人間は服装の色しか記憶に残らない。

 人は本当に嫌いな奴には興味がなくなる。憎むこともしない。

 俺に興味があるやつなどいないのだ。

 だから派手な衣装を処分してしまえば、警察が俺に辿り着くことは無かった。念のため服も遠くの町でチェーン店の量産品を購入していた。

 揉め事は大体これでやり過ごしてきた。全部ではないが。


 上着を無くしたことによって肌寒さを感じ、ブルりと身震いをしながら、市街地の行きつけの漫画喫茶に入った。

 ちなみにこの店には派手な服装で入ったことはない。


 背後で自動ドアが閉まる。

 俺以外の客の姿は無く、受付にも店員はいなかった。

 

 店員を呼ぶためにカウンターに近づいた俺の足元に突然、ピンク色の光が輝いた!!


「な、何だこりゃ?」


 その光はまず俺を中心に正円を描き、さらにその内部に複雑な図形を描いていく。

 光が通った後はその光は消えず、漫画かライトノベルで見たような魔法陣を描き切った。


「嘘だろっ!!おいっ」


 魔方陣が完成した瞬間、俺の視界を光が覆い尽くした。

 そして漫画喫茶のエントランスから俺の姿は掻き消えていた。


 誰もそれに気が付いているものはいなかった。


…………

………


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