シングルナイトキャップ

椎名香夜

1

「……こんな日なのにお一人様を入れてくれるなんて親切なのね」



赤ワインの注がれたグラスを口許に運びながら、私は言った。

お世辞にも広いとは言えないカウンターの向こうでは、私の寂しい皮肉を受け取ったマスターがトニックウォーターのキャップを開けながら唇の端を曲げる。



「こんな日だからこそ、ですよ」



言い終えてから彼は、私が持つグラスを掌で示した。


「でなければ其方にあるのはきっとワイングラスではなく、いつものロックグラスでしょう?」


「たまにはワインだって良いじゃない」


「ええ、黒いお召し物にワインの赤が映えて美しいと思いますよ。……そうですね、ライムでも添えたら完璧かも」



トニックウォーターを冷蔵庫へと仕舞うマスターの後ろ姿が、小刻みに揺れている。

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