第40話〜迷宮という名の地獄
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隠し部屋を出て、何日が経過しただろうか。
日のないダンジョン内では時間の経過が認識し辛い。
もしかしたらまだ歩き始めてから数時間かもしれない。
そんな訳はない。
けれど正常な判断を下せない精神状態下では時間の流れを正確には把握できない。
息を殺し、足音を殺し、気配を殺す。
モンスターの気配がする度に死が近づいて来るように感じた。
いっそ自分で自分を殺してしまいたくなるほどに、息を潜め、震える足を押さえつけ、存在そのものが希薄になれと必死に祈った。
もう転生直後の余裕などない。
ここは迷宮なんかじゃない。
地獄だ。
そう何度も何度も管理者(ベイオルフ)を呪った。
子供の体、低すぎるステータス、たった一人だという孤独。
それらがどれほど自分の命を儚いものにしていることか。
手元のナイフを見る。
いっそこれで…。
しかし今死んだところでさらに絶望的な状態に陥るだけだ。
あと何日でこの死ぬ事もできない地獄が終わるんだろうと考える。
相当精神が追い詰められていると客観的には思う。
もはや頭の中には諦めの心が大部分を占めている。
……………。
なぜ数日でここまで心が折れかけているのか。
そんな事を追憶したところで何の意味もないばかりか、さらに絶望的な精神状態に陥ってしまうだろう。
しかし一度頭を整理しないと。
後ろ向きにならないと。
これからのことを考えてしまうことから逃げないと。
疲労と痛みと不安で押し潰されておかしくなりかけている頭を正常に保つことは出来そうにない。
…………。
歩き始めて十数分。
あの小山のようなモンスターを除けば、初のモンスターとの遭遇を果たした。
そいつの姿はゴブリンほどの大きさ、つまり今の自分ほどの大きさだった。
その見た目は一言で表すと人型の悪魔。
黒いシルエットのような見た目に蝙蝠のような羽根、ツノ。
顔にあたる部分はのっぺりとしており、全体的にデフォルメされた人形のような雰囲気すらあった。
言うなれば小悪魔(プチデビル)。
動きはゆったりしていて、一体だけがのったりのったり歩いていた。
チャンスだと思った。
プチデビルはこちらに気付いていない。
距離は20メートルほど。
角に隠れたこちらに向かってきており、あと少しでナイフの射程に入る。
のた……のた……
ゆったりゆったり近づいてくる。
のた……のた……
射程に入った。
素早く角から飛び出し、同時にナイフを投擲した。
ナイフは吸い込まれるようにプチデビルの胸に突き刺さる。
パタリと倒れるプチデビル。
呆気ない結果だった。
戦いとすら言えない。
しかし楽に倒せるに越したことはない。
ナイフを回収するためにプチデビルの死体に近づく。
周りには粘着質な緑の血が広がりつつあった。
多少の嫌悪感を覚えつつ、うつ伏せのプチデビルをひっくり返そうとして
バツンッ!
左手首から先を喰い千切られた。
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