ティアラの戦い4
「ここでご登場願おう。第二王子のレスター様だ」
場内のざわつきは、本日二度目のピークを迎えた。
当然だろう。なにせ我が国では、長男以外は軽視される傾向にあり、表舞台に立つのはローラスがほとんど。
それは能力の多寡に関わらず、だ。
レスター様の方が優秀なのは、知る人ぞ知る話。この人を味方に付けられて、心底ホッとしているよ。お陰で私は、今日を迎えるまでの間、戦闘訓練に集中することが出来た。
自身の権威を振りかざして女性に乱暴を働いた狼藉者で。
実験の失敗を隠ぺいするため、大規模の爆発魔法で証拠を残さぬよう研究者ごと焼き払った外道で。
そして、その罪を我が一族に擦り付けようとした、ローラス・フェルグラントに一矢報いるためだ。
「私の調査結果をここに挙げる。兄よ、あなたには心底失望した。王族としての権力を乱用し働いて来た悪事の数々は、王族特務の調査機関により全てが白日の下に晒されることになる。既に、私も全ての資料に目を通している。言い逃れは出来んぞ」
「レスター貴様、実の兄を謀ろうとでも言うのか。許せん、許せんぞ……」
素が出ているぞローラス。レスター様は構わず続ける。
「――罪状としては、数えきれない程の数が挙がっている。同意のない女性への性的な暴力を始めとして、それに伴う恐喝なども確認されている。しかし最も注目すべきは、領地内にて行われていた人体実験が挙げられる」
ここまでローラスの横にいる最後の仲間である側近のメイセルは、動きを見せていない。
この先を知らなければ、彼女の考えていることなど誰も想像が出来ないだろう。そろそろだ。
これが、私の最後の戦いになる。
「聞いてくれ、諸君。我が兄ローラスは――」
ここだ!
ローラスの側近メイセルは、先の暗殺者を超えるスピードでレスター様に迫る。対応できたのは私だけだ。
こいつはここでレスター様を人質に取ることで、ローラスをこの場から逃がそうとするのだ。
その間に割り込み、ナイフでの一撃をレイピアで弾くと、素早く踏み込み突きを放つ。くっ、避けられたか。
メイセルはバックステップを踏むと、再び接近して来る。やはり、強い。一撃は重く、スピードも申し分ない。こいつはローラスの切り札だ。
「はあっ!」
鋭い連続攻撃を弾くと、左に転がるメイセル。それを見て、私は勝利を確信した。
彼女には癖があることは既に見抜いている。回避の際、左に避けることが多いのだよ、君は。
どうして、とでも言いたげなメイセルの懐に潜り込み、掌底を腹部に放つ。
そのままマウントポジションを取って絞め技で意識を落とし、気絶に留める。殺さない、殺さないよ。貴様には、ローラスと共に永久に沈んでもらう。
やったぞ、遂にやった。最後の強敵を撃破し、既に王子が闇の人間であることに気付いていた卒業生の面々も、私の勝利を祝っている。場内は拍手喝采に包まれた。レスター様にも感謝の言葉を頂いた。
ありがとう。協力してくれた全ての者に感謝する。
一方、最後の手駒を失ったローラスはガクッと肩を落とし、観念したように俯いていた。
これで貴様は、牢獄行きだ。人体実験の罪は重いぞ。女性をヒトとしてではなく利用できるモノとして扱う貴様は、最早人ではない。
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