ファミレスでこんな客は嫌だ。

 テーブルにて呼び出し音が鳴ったので、ウェイトレスの少女は駆け付ける。席には、冬なのに白いタンクトップから貧相な体形の肩も露にした男が、尚、メニューを机上に立てかけ、覗き込むようにしていたのだが、

「ご注文、お伺いいたしまーす」

 愛想いい接客でもってウェイトレスは話しかけた。すると、ガバっと音をたてて、メニュー表は倒れると、度の強そうな黒縁メガネにバンダナを頭を巻き、何故か、鼻の下には、マジックで「肉球」と書いてある顔が現れ、キッとした表情でもってウェイトレスをまっすぐに捉えると、

「タンスに激突、タラちゃ~ん! 鼻血ブー! タンスがー! 倒れてー! ぺちゃんこタラちゃーん! みんなが泣いているー! お日様も泣いているー! ルルルルルルルー! 今日はー! お葬式ー!!」


 往年のメロディに合わせ、割れんばかりのがなり声。ウェイトレスも含め、店内は静まり返ったが、

「……あの、ご注文を……」

 戸惑いつつもウェイトレスは職務を忘れなかった。ただ、男は、そこで、フッと笑みを浮かべた顔となると、

「アディオス」

 などと、戸惑う少女の肩などをポンポンと叩き、その後は唖然とした空気のなか、悠々と店を後にするのだった。

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