インタビュー

 


 玄関先で会話する新とみやびの様子を遠目に見る人影。 二人が別れ、みやびが家に戻るとそれは動き出した。


( 連城先輩、間宮先輩が家から出るのを待ってたのか? いつ出て来るかも知れないのに? この暑さでよくやるよ……人の事言えないけど…… )


 黒いキャップを被り、適度な距離を取って新の後を追う怪しい少年。


( やっぱり連城先輩は白か……。 もしかしたらフラれたのはブラフで、こっそり付き合ってる可能性も考えたけど……あの感じは無いな )


 何やら分析しながら尾行を続けるのは、この夏休みを凪の為に捧げる決意をした俊哉だ。

 凪からは止められたが、新に迷惑をかけないという約束の元、想い人の断ち切れない恋を終わらせる為、新の “好きな相手” を突き止めるべく行動している。



 暫くついて行くと、両側に背の高い木が植えられた遊歩道に入った。 その途中―――



( ――っ……おいおい、まさか初日で? )



 木に身を隠して息を潜める俊哉が見たのは、新と待ち合わせていたと思われる一人の女性。


( 小柄だけど、年上だよな? ……意外だ、あの間宮先輩が年上の女性と……どこでどう知り合ったんだろう…… )


 新の交友関係が狭いと予想していた俊哉は、薄い線だと考えていた “学校外” に訝しんだ顔をしながらも携帯を取り出す。


( この距離じゃ顔がわかるように撮れるか微妙だけど……―――ん? )


 動画ボタンを押そうとした時、二人に合流するもう一人の少年が現れる。


( ……どういう事だ? )


 少年の合流により、初日から新の “好きな相手” を突き止めたと思った俊哉に待ったが掛かる。 その真相とは―――





 ◆





「あっ、おはようございます。 来てくれたんですね」


「間宮新……この私を呼び出すとはいい度胸だ」


 にこやかに挨拶をする新に、その女性は顔を顰め敵意を剥き出しに応える。


「な、なんで怒ってるんです?」


「怒ってない、寧ろ成長したと喜んでさえいるよ」


「……と、言いますと」


 成長したと言われながらも変わらず向けられる敵意。 新はその理由を弱々しく尋ねる。 するとその女性は腕組みをし、大きな胸を張って仰け反るように口を開いた。


「いよいよお嬢様をモノにしようとこの沙也香様に挑んできたのだろう。 面白い……その想いが本物か試してやる」


 どうやら沙也香は、自らが夕弦に近付く障害としての自覚があるらしい。 つまり、その障害である自分に夕弦との仲を認めて貰うために、新に呼び出されたと思っているようだ。



( ……当たらずも遠からず、だけどさ……



 どこからでも掛かってこい、そんな顔で見てくる沙也香から目を逸らすが、当然そんなつもりは無い。


「違いますよ、今日は沙也香さんに紹介したい友達がいるんです」


「は? 何それ?」


「――あっ、きたきた、守くーん」


 手を挙げて呼び寄せる新の視線の先には、修学旅行で仲良くなった班員、守が居た。 小走りにやって来た守は、「ど、どうも……」と聞き取れない程小さな声で挨拶すると、おどおどと新の後ろに隠れてしまう。



「……間宮くん。 ―――何ソレ?」



 事情が呑み込めない沙也香は、やって来るなり早々と身を隠す少年に目を細めている。


「か、彼は蘇我守くんと言ってですね、沙也香さんのような素敵な年上の女性とお話してみたいと……」


「……いや、どう見ても話したいようには見えんわな」


「こ、これはちょっと緊張してるだけで……ねぇ、守くん?」


 呆れた様子の沙也香に焦る新は、未だ自分の後ろに隠れる守に声を掛ける。 小柄な守は新の耳元に背伸びをして、


「こ、こんなの無理だよ……」


「え……やっぱり?」


 まだ沙也香をよく知りもしない守に『やっぱり』と言ってしまうのは、悲しいかな今まで新が経験した沙也香の破天荒な行動からだろう。



「……おい、おまんらまとめてヤったろか?」



 ひそひそと話す少年達の会話は、地獄耳のお姉様には筒抜けだったようだ。 怒りの闘志を燃やす沙也香は腕組みを解き、指を鳴らして地味系男子二人を葬る準備を始める。


 その殺気に気付いた新は―――


「まっ、守くんっ!? 沙也香さんはそのっ、キュートで明るく……――――なんだっけ!?」


 大分前の事で思い出せないようだが、恐らく新が言いたかったのは――― “キュートで明るく可憐で優しい奇跡のお色気Fカップ19歳女子大生使用人” というあれだろう。


「せめて言い切れれば命だけは助かったものを……まあ、大学全然行ってないけど……」


「あ、やっぱり」


 修学旅行までついてきた事実から、恐らくまともに大学に通ってないと思っていた新は納得の表情だ。


「呼び出しておいて何と無礼な……まあいい、こっちが紹介してやろう―――閻魔大王をさぁ……」


「こんなの聞いてないよ新くん……っ!」

「ご、ごめん、ちょっと無謀だった……!」


 年上と言っても色々だ。 新が友達に死神を紹介してしまった事を後悔し詫びていると―――



「僕―――こんな可愛いヒトと話せないって……!」



 それは、新にとって沙也香を総称する上で選択肢に無い言葉だった。



「……えっと……―――何が?」


「何がって、僕には可愛すぎるし……め、目のやり場に困るぐらい魅力的だし……」



 真っ赤な顔で沙也香を褒め囁く守に、新は数年前に死んだ魚の目をしている。


 確かに、喋らなくて動かなければ沙也香は童顔で可愛らしいかも知れない。 小柄ではあるが豊満な胸に引き締まった腰……と言えなくも無い。 だが、今まで沙也香を体験してきた被害者としては容易に受け入れられない台詞だった。



「……いや、あのさ守くん。 この人は誘拐犯で女コマンドーで舞妓さんと花魁を間違える清掃員だよ?」


「……どういうコト?」


「だからさ―――ん?」


 首を傾げる守に、紹介しておいてちぐはぐだがこの人物は君が言うような、そんないいモノではないと解説する新の肩に手が置かれる。


「コラ、使用人本業が抜けとる」


「――グハッ……」



 振り向く新の額に火花が散る。



「す、すごいッ! デコピンで顎と首が直線になる程の威力!?」



 新は蹲り、額を押さえて痛みを堪え呻き声を上げる。


 そして沙也香は―――



「……守、と言ったな」


「は、はい!」



「私と、話がしたいって?」


「是非ッ……インタビューさせてくださいっ!!」



 年上の女性と和やかにお話する筈が、守曰く可愛くて魅力的な女傑へのインタビューという形になったようだ。



 未だ蹲る新は、額を押さえていた手を見て驚愕する。



「――えっ…… “血” ……?」



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