腹の内、聞かせます
柄にも無く場を仕切り始めた新。 慣れない役目になってしまったが、求める答えを聞く為に臣が、聞いて欲しいと言われた守もまた耳を傾けてくれている。
「まず凪ちゃんの事だけど」
「凪ちゃん……」
「守、そこは流そう」
今重要なのはそこじゃない、話の腰を折るなと守を制する。
「お風呂から出てきた時、凪ちゃんの服が乱れてたんだ。 それを皆に見られたら可哀想だと思って連れて行った」
「……気づかなかったな」
「そりゃ皆連城さんに注目してたから」
「その場で伝えるのも恥ずかしいだろうと思ってさ」
凪の名誉の為に詳しくは言えないが、大体の事情は伝わったようだ。 だが、臣の表情はまだ解決というまでには至らない様子に見える。
「そうか、わかった。 でも連城さんが傷ついたのは間違いないんだ。 誤解は解いてやれよ」
今も恐らく気にしているだろうみやびを気遣う。 それに対して新は、二人に伝えたい事と言った本題を話し始めた。
「みやびが嫌な思いをしたのはわかるけど、それも二人に聞いてもらいたい話と関係があるんだ」
臣の言った内容とこれからする話が関係している。 その台詞に二人は怪訝な表情で顔を見合わせ、その話を聞くべく新に視線を向ける。
「皆の修学旅行なのに、みやびや凪ちゃんのことで気を遣わせてごめん。 だから、二人には伝えなくちゃと思って」
夜の会議もそう、どう動くかは新目当ての二人の班とどう行動するかが大きな議題になる。
「あのね、俺は………みやびとは付き合えないってもう本人に言ってあるんだ」
「――っ! ま、マジか……」
「ほ、本人から語られる真実……! 僕、興奮が止まらないよ……!」
連城みやびは既に振られている。 振ることはあっても振られるなど想像も出来ない、その存在に起きた事実に二人は震える。
「それ……い、いつの話なんだ?」
「中間テスト初日だったよ」
( 確かに……そのぐらいからなんかカラ元気に見えた…… )
「それを言うと俺が女子から反感を買うと思って、みやびはまだ言わないみたいだけど」
「森永ファンは連城みやびの復帰を望んでないからね」
流石に守は理解が早い。 勝手に普段から今後の流れを想像していた節もある程だ。
「俺は……単純にフったのを周りに言うのは良くないと思った。 けど、事情を知らないと二人もやりにくいと思ったんだ。 さっきのことも、誤解を解くのがみやびにとって良いとは思えない。 期待させるようなことになったら……」
新にとってみやびは大事な幼馴染、辛い思いをさせたくはないが、悪戯に希望を持たせてまた傷を増やしたくはない。
本音を包み隠さず吐露した新を見て、臣は目を瞑り、様々な感情が混じりに混じった溜息を吐く。
「そっか。 あらた、何も知らずに問い詰めて悪かった」
「……ううん、いいよ」
新もまた、自分と同じようにみやびを気遣っていた。 それが解った臣は、どこか吹っ切れた顔で口を開く。
「んじゃ俺も言うけど、俺、最近連城さんにフラれたんだ」
「「――ええっ!?」」
「なんだよ、守も気づかなかったのか?」
「いや……連城さんが好きなのは知ってたけど、フラれてたとまでは……」
既に振られているのなら、臣の振る舞いに多少疑問が湧いてくる。 新を厳しく問い詰めたのもそうだ。 しかし、臣には振られてから決めた目的がある。 だからこそ守には悟られなかったのかも知れない。
「そ、そうだったんだ」
「まあな。 しっかし、その状況でもフラれたのか俺は。 とんだ三枚目だな」
「そっ、そんなことないよっ! 臣くんはカッコいいってみやびも言ってたし!」
臣にとって新は届かない存在だが、それは新にとってもそうだ。 普通に比べて見れば勝てる要素が殆ど無い存在なのだから。
「……期待を持たせるのも良くない、だろ?」
「いや……俺とみやびの関係と違うから、良くわからないけど……」
応援するなどと偉そうには言えないが、みやびも含め、振られたからと言って諦めないのは自分の意志であり、自らが決めて良いものだろう。
「冗談だよ、ありがとな。 ……でもなぁ、連城さんをフるなんてとんでもねぇ奴だ」
「うっ……それも周りに言わなかった理由の一つなんだよね……」
「うん、男子からはそうなるよね。 新くんは結局八方塞がりって訳だ」
「はは……」
冷静に状況を捉える守に苦笑いの新。
臣もまた苦笑し、その後―――
「よし、新も腹の内さらけだしてくれたんだ。 守、これはここだけの話だ、他言無用だぞ」
「うん、わかった」
結局話のまとめ役は臣になったが、新はその心遣いが嬉しくて、気恥しそうに下を向いていた。
「で、じゃあ結局新が好きなのは鶴本なんだな?」
「えっ?」
凪を気遣って連れ出した、そして周りの見解は二人の争いだったのだから、臣がそう思うのも自然だ。
だが―――
「そ、それがね……違うんだ……」
「――は? 違う……って……守?」
予想外の返答に臣は守を頼る。
その守は期待に応えそうな顔で、
「うん。 それはきっと…………―――なんでっ!?」
情報通の守でも分からない、分かる筈のない三人目。
修学旅行一日目の夜、会議はまだ終わりそうもない。
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