昔の話です
八坂神社を後にして、次のスケジュールは南座で歌舞伎鑑賞。 日本の伝統芸能を体験した後ホテルにチェックインし、夕飯となった。
「あらた、野菜も食べなさい……って言われるぞ? 幼馴染に」
「や、やめてよ臣くん……」
ビュッフェ形式の夕飯に、野菜をあまり取らない新を揶揄う臣。
そして正面には、守の予想が二日目を待たずして的中していた。
「前より食べれるようになったもんね、野菜」
「お、お前もそういうこと言うなよっ……!」
「わっ、みやびにこんな話し方する男子初めて見た!」
「幼馴染というだけで……」
「身の程知らず」
「――ぐっ……! うぅ……」
つい逆上して普段通り話すだけで、周りにはそれが衝撃の会話に取られてしまう。 それを嫌がる新をすぐに察知したみやびは、
「揶揄わないのっ、私と新はこれが普通なんだから」
周りを鎮めて気遣う姿勢を見せるが、その胸中では―――
( 私達は、変わらない……嬉しいけど、寂しい……よ )
どうしても諦め切れない想いが胸を締め付ける。
「しっかしあらたも守も小食だなっ、そんなことだからヒョロいんだぞ?」
「臣は食べすぎー」
臣の事を呼び捨てにした女子生徒、活発そうなボブカットの彼女は#波多野瞳__はたのひとみ__#。 話し方から臣とは気の知れた仲のようだ。
「運動部だからな、身長もあと15センチは欲しいし」
「190越えちゃうじゃん、私はもういいや……」
そういう彼女も中学生の女子としては中々の高身長、夕弦と同じぐらいか少し大きくも見える。
「瞳、バスケは高身長が有利なんだぞ?」
「女で170越えはなんかモテなそうだからや~」
( へぇ、臣くんはバスケ部か。 もしかして、守くんが言ってた臣くんを好きなコって……このコ? なんか俺、最近レベルアップして鋭くなってきたんじゃないか!? )
守からの情報、そして今二人の会話を聞いていれば自然と感じる事だと思うが、確かに以前の新では素通りしていたのかも知れない。
その時、少し離れたテーブルでは―――
「鶴本さん、気にしない方がいいよ?」
「えっ?」
ちらちらと新達のテーブルを見ては辛そうにしていた凪を見兼ねたのだろう、同じ班の女子が声を掛けてくる。
「張り合っても仕方ないよ」
「そうだよ、連城さんは嫌いな訳じゃないけど、間宮くんは優柔不断っていうか……」
未だに誰とも決めない新に一部の女子達は不満があるようだ。 しかし、既にみやびを振っている事を知る凪からすれば、それは謂れのない中傷。 だが、それを言ってしまえば新から自分は嫌われてしまうだろう。 それを新は周りに伏せているのだから。
それは新自身の為でもあり、みやびの為でもある。
「……うん。 でも、あらたくんが悪い訳じゃないよ? 私が、ゆっくりでいいって言ったから……」
せめてもの擁護だったが、当然核心に触れない言葉は効果が薄い。
そして、凪ですら知らない存在。
彼女こそが今、新の心に一番近い場所に居るのかも知れない。
( この後お風呂……か。 そうだ、夕弦さんは―――あっそうか、一人部屋だから部屋で入るんだった )
「どうしたあらた、顔赤いぞ?」
「そっ、そんなことないよっ!?」
「え~、間宮くんみやびのお風呂想像したでしょ?」
「す、する訳ないだろっ!」
慌てて強く否定する新。
しかし、それが悪かった。
自分には興味が無いと言い切る新に気分を害したみやびの反撃は、
「そうだよね、昔は一緒に入ってたもん」
「――み、みやびさんッ!?」
おかしな話ではないが、思春期のクラスメイトの前では爆弾発言だ。
この後、悲鳴のような歓声が上がり、「そこうるさいっ!」という教師からの注意がホール内に響いた。
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