………イイ
( なんていうか、どうしたらいいかわかんないな。最近のみやび…… )
恋人にはなれない。今まで通り仲の良い幼馴染でいようと断ったが、今日を見てもまだ向こうは切り替えられていないのが解る。
( 俺なんかに拘らないで、みやびならもっと………て、そんなの余計なお世話だよな。好きになった事もない俺の言える台詞じゃない )
今みやびが辛いのは解る。 それは大事な幼馴染として新もどうにかしたいのだが、その原因が自分ではどうしようも無いのだ。
助けたくても助けられない、その葛藤に苛まれていると、
「……夕弦さん?」
『今日はとても楽しかったです。 女の子として会えない私に気配りしてくださった新さんが、もっと好きになりました。』
確かに気にはしていた。 だが、それを気遣って何か出来たかと言えばどうだろう。 皐月や愛花の私服を褒めたりはしなかったが、そもそも気の利いた事を言える男ではないだけだ。
「なんのことだろ? ……ん? ―――ぉおっ!?」
続いて送られて来たメッセージに食い付く新が見た物は―――
「こ、これは……」
携帯を持つ手が震える。
「………イイ」
それは、新が選んだパールピンクのパジャマを来た夕弦の写メだった。
「足、長っ……」
ショートパンツから伸びる白く細い足に見とれ、感嘆の言葉を漏らす。
(これは、一回帰って沙也香さんに頼んで車出したってこと?)
『選んでもらったので、どうしても欲しくて』
「か、可愛ッ……!」
そのいじらしさに急いで返事を作る新は、『私に感謝しろよ』という使用人からのメッセージが届いたがこれを無視。 感想を待っているだろう雇い主を優先する事にした。
『完璧に似合ってます!』
力の込もった『いいね』を送ると、
『ありがとうございます。 女物は修学旅行には持って行けませんが、自宅で愛用しますね。』
流石に泰樹として持って行く訳にはいかない。 ここで新は、丁度話題に出た修学旅行の事で気になっていた疑問を訊いてみる事にした。
『修学旅行どうするの? まさか男子と同室?』
すると、夕弦から返事が来る前に、
『んな訳ないでしょ、その部屋血の海にしたろか』
物騒なメッセージが届くがこれもスルー。
『私は持病があるという事にして一人部屋です。ご心配頂きありがとうございます。』
「ああ、やっぱり」
どうやら一部事情を知る人間が配慮したようだが、教師や生徒達も多少の違和感は感じてしまいそうだ。
「あっ」
何か思い立った顔の新が夕弦に送ったメッセージは、
『まさか、沙也香さんは来ませんよね?』
修学旅行まで監視付きは無いだろうとは思うが、相手が相手だ。 一応確認の為訊いておく必要があると新は判断した。
『はい。 沙也香さんも学校がありますので。』
それを見た新は安堵の息を吐く。
「ふぅ……そりゃそうだよな。 一応女子大生だし」
トラブルメーカーは不参加。
それでなくても同じクラスにはみやびと凪が居る、どんな修学旅行になるか知れないのだ。 これに沙也香までは御免被りたいのが本音だろう。
それから少し夕弦とやり取りをして、新は床に就く事にした。
( てことは、夕弦さんは部屋のお風呂入るのか。 旅行先なのに勿体ないよな。 ……でも、自宅のお風呂大っきそうだからいいか。 大っきいお風呂に、夕弦さんが………―――な、なにを想像してんだ俺は……っ! ………もう、寝よう )
煩悩を振り払い、何とか気持ちを鎮めて眠りについた新。
だが目覚めた時、『私、舞妓に興味あるんだよね』という沙也香のメッセージを見て、青褪めた彼は戦慄の朝を迎えたらしい。
◇◆◇
新が夕弦とやり取りをしていた時、自宅で荷物を整理していた凪は―――
「修学旅行、か……」
呟くその表情に焦りは無かった。
みやびが脱落したのを知る唯一の存在は、焦る必要が無いのかも知れない。 寧ろ、
( 期待しちゃうけど、焦っちゃダメだよね。 あらたくんは、ゆっくりが良いから。 じゃないと―――私もフラれちゃう…… )
自分なりに解釈した結果、みやびが振られたのが急ぎ過ぎたと判断したようだ。
確かに間違いではないが、理由は決してそれだけでは無い。 それを恐れ、更に新が恋愛し難い体質なのも知っている凪は急ぐ事を危険視している。
だが、果たしてそうだろうか。
新本人も気付いていない事だが、少なくとも今彼は―――会っていない時も考えている相手がいる。
それが以前俊哉が言っていた『好き』なら、新の初恋はもう――――始まっているのかも知れない。
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