第20話 第……何?
「お集まりの皆様方!!
今宵もまた盛大な宴!!
魔王様の婚礼の儀を迎えることとなりました!!」
扉の向こう側から、司会と思われる女の張り上げる声が届き、続いて大歓声が上がった。
「さぁ!!
早速ですが新しい花嫁に登場して頂きましょう!!
三十路を前にした女勇者の身でありながらも魔王の妻となる道を選んでしまった、愛に生きる罪深き背徳のアラサーお一人様系女子、キャミル・アル・フィリア様です!!
いざ、ご入場を!!」
何か引っ掛かる物言いの紹介ではあったが、扉が大きく開かれ、薄暗い廊下から大量のまばゆいシャンデリアに照らされた広大な空間へといざなわれ、大歓声と拍手の波に気圧され緊張で頭が真っ白になり、
「あ……はは……どうも……よろしくです……」
などと引きつった笑みを浮かべながら、メイド二人に手を引かれキャミルは進み出た。
一体そこには何千人、いや、何万人?
どれほどの人がいるのだろう。
円形の儀式舞台を中心として階段状に観客席が取り囲んでいる、コロッセウムのような建造物で、その観客席には若い女たちがひしめき合い、それぞれに黄色い声で叫びながら舞台に上がったキャミルを見下ろしていた。
……?……女……ばっか……?
首を傾げるが、
「ご機嫌はいかがですか?キャミル様!!
何日も放っておかれて、それはそれは疼いておられたことでしょう!?
ならばお待ちかね!!
魔王アロゥ・ナヴァルニル・ギュストリアス様のご顕現ですよー!!」
鳴り響くファンファーレと共に司会の女がひときわ大きな声を張り上げたため、女の指し示す方角を振り向くと、ゆっくりと扉が開かれ真っ黒なスモークの向こうから、勇者の時とは全く異なる、まさしく王の中の王といった、金銀・宝石で飾り付けられた荘厳な礼服を身に纏い、頭上の王冠もまばゆいアロゥが歩み出てきて、キャミルに向かっていとおしげに微笑んだ。
「アロゥ!!」
やっと安心感を覚えて新郎に向かって呼び掛けるが、同時に会場の歓声が数倍に膨れ上がりその声はかき消された。
さすがはアロゥね……絶対的な支持なんだわ……。
やっぱり……本当に私なんかで大丈夫なのかしら……。
背後に引きずるマントの裾を数人の若い女が携えながら、アロゥもまた舞台へと上がり、キャミルの前へと辿り着きその手を取り、その甲に優しくくちづけをすると、
「きゃあぁぁあぁーっ!!アロゥ様ぁーっ!!私にもーっ!!」
「今、目が合ったわ!!私のこと見たのよ!!
アロゥ様!!こっちに来てぇーっ!!」
などというような絶叫が響いた。
すごいな……なんか芸能人の大スターみたい……。
うながされるままに舞台上の大きな二人がけの椅子に並んで座りながら、キャミルはうつむき加減でちらちらとアロゥや観客席の様子を伺う。
そのまま数分ほどその熱狂状態が続いていたが、やがて少しずつ落ち着きを取り戻し始めたところで、司会の女が観衆に向かって手を挙げ静まるように合図を送り、頃合いを見計らって再び満面の笑みで声を張り上げた。
「それではお集まりの皆様!!
いよいよでございます!!
今宵このめでたき日を迎えることができた悦びを皆で分かち合い、明日からのめくるめく新しき
さぁ!!
いざここに!!
魔王アロゥ・ナヴァルニル・ギュストリアス様と、第一三六五八番王妃キャミル・アル・フィリア様の、婚礼の儀を執り行います!!」
言い終えると再び会場は大歓声に包まれたが、
「…………は……?
……第…………何……?」
キャミルは女の言葉に何が何やらわけがわからずすがるようにアロゥを見ると、アロゥも振り返り、それはそれは優しく慈愛に満ち満ちた微笑みをキャミルに投げかけた。
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