第9話 やっぱり一人はスキだらけ
すっかり夜の闇に包まれた森で、光の精を召喚し自分の周囲を照らしながら、キャミルは黙々と価値のある植物や昆虫や小動物を採取していく。
欲しいものがどういう場所で見つかりやすいか、どういうものが価値が高いか、そういったことは完全に把握しているため、想像以上に効率は良さそうだった。
「よし、徹夜で集めればしばらく寝食には困らなそうね。
でもさすがに今日は疲れてきたな……。
もうこれ以上入らなそうだし、明日の朝にいったん換金してからもう一度来た方がいいかも」
一定数ならば大きさに関係無くいかなる物でも封じ込め持ち運ぶことができるという「盗賊の棺」と称される小箱が役に立っていたが、そろそろ収納限度数に到達する。
「ていうか荷物も最初からこれに入れて運べば良かったのよね。
色々あり過ぎて気が動転してたのかしら、あんなシーツで大荷物背負ったりして……。
それにあいつも、泥棒ならむしろ最初にこれを盗みそうなものだったのに、意外と間抜けだったのかしらね。
ま、盗賊の棺だってバレないように超デコってたから、普通に女子グッズか何かだと思ったんだろうけど」
思いながら、ふぅ、とため息をつき周囲を見回した。
心の奥では歯噛みも止まらぬ悔しい思いでいっぱいだったが、感情的になればキリが無いため、できるだけ、何でも無い、大したこと無い、と言い聞かせて目先の作業に集中していたが、そのせいか、いつの間にか自分がどの辺りにいるのかを見失ってしまっていた。
「あ……れ……?
なんか景色の感じがちょっと違う気が……。
どこだろ、ここ……」
と思った矢先に、遠目に見えていた大岩が木々をなぎ倒しながら猛烈な速さでこちらへ突き進んで来るのが月明かりの中に確認された。
「な……!?」
大岩はキャミルの目の前まで辿り着くと瞬時にその姿を変貌させ、それは数メートルはありそうな巨大なクマのように見えた、と思った時には、鉤爪が振り降ろされた。
「わっ!?」
反射的に攻撃を防ごうと左腕で顔を覆うが、
「しまった!
盗まれて今着けてないんだった……!!」
敵の攻撃を弾き返す防具が無いことに気付き、慌てて後ろへと飛び退く。
が、
「ぅあっ!!」
直撃は免れたものの鉤爪が腕を叩きつけ、裂傷から鮮血がほとばしる。
「くそっ……ヤバいな……。
なんだこいつ……巨大な……ネズミ……か……?」
暗闇にそびえ立ちこちらに向き直ったそれは、確かに巨大なネズミのような何か、だった。
しかしだとしたら、ますますまずい。
ネズミ系のモンスターはたいがい……。
「腕が……痺れる……動かない……!
やはり……毒……!?」
痺れは左腕の傷からじわじわと左半身へと広がっていく。
必死に堪えるが、意に反して左足は力を失い膝をついた。
「くっ……!
反撃……いや、逃げるか……!?
くそっ、こんなことならアズナに任せっきりにしないで瞬間移動魔法ぐらい覚えとくんだった……!」
荒くなる呼吸を必死に抑えながら剣に手をかけ体制を整えようとするが、思うように体が動かない。
そうする間にも大ネズミは再びキャミルに向かって腕を振り上げ、大きな口を開き鋭い牙をのぞかせながら甲高い呼吸音を響かせた。
「くそっ……!
こんなところでこんなことで……!
…………いやっ!!」
自分がもしも伝説の勇者とかで、隠された血や能力があるのなら今まさにそれが覚醒すべき時なのに、何事も起こらずその兆しすら感じないまま、朦朧とする意識の中で振り下ろされる鉤爪を睨み付けた。
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