第6話 新しい出会い
自室に閉じこもり、隣の男子部屋から二人が出ていった物音を聞いてから、偶然にも顔を合わせたりすることのないよう、さらに一時間ほどベッドの上で膝を抱えていたキャミルだったが、やがて涙を拭くと立ち上がり部屋を出て、階下の酒場へと降りていった。
「なんなのよもう……!
なんでいきなりこうなっちゃうのよ……!
マスター!
同じのもう一杯!」
一気に飲み干して空になったグラスを高く掲げたキャミルが声を張ると、カウンターの大柄な髭の男が無表情のまま頷き酒を作り始めた。
「どうぞ」
やがてグラスがテーブルに置かれたが、グラスを置いた手の甲に描かれたタトゥーは南方の高等魔法使いのものであり、テーブルに身を預け鬱々としていたキャミルだったが、思わず顔を上げた。
「大丈夫ですか?
お嬢さん……いえ、勇者キャミル・アル・フィリア様、ですよね?
噂通りのお美しい方だ……お会いできて光栄です。
私はウィルファム・マーリッドと申します、流れ者の一匹狼の魔法使い。
あなたといつか出会える日を夢見て旅をして参りました。
いや、本当に今夜は奇跡だ、感激です」
そう言って男はキャミルの手を取って強く握り、満面の笑みを浮かべた。
あら……けっこうイケメン……。
一瞬ぼんやりとその白く整った歯に見とれながらも、慌てて姿勢を正すとグラスを取って目をそらし、
「そ、そう?
ま、まぁそういうこと言う人って、け、けっこう多いのよね、何しろあたしはこの辺じゃそこそこのベテラン……で……それなりに有名な女勇者だものね」
自分でベテランなどと言うとまた泣けてきて、一気に酒を飲み干した。
「いやぁ、さすがはキャミル・アル・フィリア様、飲みっぷりも素晴らしい、豪快な中にも気品と美しさが隠しおおせません」
「な、何言ってんのよ……。
そんな上手いことばっか言って、あたしをどうにかする気じゃないでしょうね……?」
「いえいえ、私はただ事実を申したまでのことです」
「もう……そんなこと言ったって何も出てきやしないけど……、ま、一杯ぐらいならおごってあげるわ。
ちょうどツレもいなくなって一人で退屈だったし、そこ座りなさいよ。
マスター!
同じのもう二つ!」
長身で整った顔立ちに、小奇麗な身なりの好青年は、魔法使いというよりどちらかと言えば騎士か貴族のようだった。
魔法使いってたいがい小汚くてうじうじじめじめしてて苦手だけど、そうじゃない人もいるみたいね、
と、その容姿から勝手にキャミルは好感度を上げ、突然に仲間全員を失った寂しさも手伝い、珍しく自分から男の同席を誘った。
「ありがとうございます、キャミル・アル・フィリア様」
「もう、めんどうだからキャミルでいいわよ」
「はい、キャミル様」
「『様』もいいよ、なんか恥ずかしいって」
「そうですか……キャミル」
魔法使いウィルファム・マーリッドは、その青く透き通るような瞳でキャミルの黒い瞳を真っ直ぐに見詰めて優しげに微笑んだ。
やがて運ばれてきた酒で二人は盃を合わせ、キャミルは今までの冒険や故郷のことや、ついさっき急に仲間がみんな出ていった愚痴や、将来の夢などを楽しげに赤裸々に語り、ウィルファムは時折同意や質問、大きなリアクションなどをはさみながら、微笑みを絶やすこと無くキャミルの話を聞いていた。
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