出会い系異世界、転生して4秒で勇者爆誕!

武論斗

序章:その勇者、せっかち

プロローグ:この勇者が転生間もない癖に馴染むの早過ぎる

「ティフラクヴラ、ティフラクヴラミガメ! けィ! この合図あいず。ティフラクヴラ、ティフラクヴラミガメ! 危険きけん? あらず。

 鼓動こどう絶望ぜつぼうあらがい、畏敬いけいねんもっ永遠とわあいす! 我が心、方々ほうぼう流離さすらい、異界いかいもんいたりてとがはいす。

 ティフラクヴラ、ティフラクヴラミガメ! 召喚しょうかんおうじよ、偉大なる英霊えいれい! 我がねがいい聞きとどけ、世界をすくたまえ! <出・演・依・頼グランド・オファー>!!!」



 ドン!――



 ――バリバリッ、バリバリバリバリリッ! バリリリッ!

 仄暗ほのぐらい石造りの部屋へや、その時、稲妻いなずまほとばしり、雷光らいこうひらめき、神気かぜさんざめく。

 毒々どくどくしいむらさきえとした青い閃光イナズマ交錯こうさくし、禍々まがまがしくもれするほどあでやかな光球ひかり宙空ちゅうくう花開はなひらき、瞳孔ひとみを、あたしをめる。まるで星の誕生うぶごえさながらの神秘しんぴかれる程に、心くるわせる程に、あつく、あつく。


 穿うがつ――

 石畳いしだたみを、石壁いしかべを、あたしの意識いしきを。

 えぐる――

 空間そらを、室内へやを、ほら、其処そこほらを。

 轟音ごうおんともに現れた球状きゅうじょうの光は周囲あたり一様いちようけずり取り、空虚くうきょあなぐらを穿ち、しばとどまる。鮮烈せんれつ閃光フラッシュかがやきはやが収束おちつき、おもむろ朧気おぼろげ人影ひとかげにおい立つ。

 片膝かたひざを地にけ、もう一方いっぽうの膝はかかえるようつくなみ、片手で大地を鷲掴わしづかささえる。雄々おおしくもかよわさまは、あたしの目からしても一層いっそ神々こうごうしい。

 強烈な光にひとみがされ、はなはだ判別が付きづらいものの、まぎれもなく其処にるのはヒト無論むろん、其れ以外いがい何物なにものであろうはずもない。

 もなくして普段の視力を取り戻し、目をらす。周囲を取り巻く蒸気じょうきかすみ、汗ばむ素肌すはだが見て取れる。

 男性おとこ、か? まだ、大分だいぶわかそう。

 ――全裸はだか

 豈夫まさか――

 いや、確かにはだかしなやかに引きまったバディに無駄な脂肪あぶら一切いっさい見当みあたらない。一見いっけんほそく見えはするが均整バランスが取れているがゆえ。その本質は筋骨隆々きんこつりゅうりゅう。筋肉は切れ上がり、深い陰影いんえいたずさえ、さながら彫刻のよう。其のからだの作りみ、尋常じんじょうならざる節制せっせい鍛錬たんれんとをしたこと、想像にかたくない。


 顔を上げ、一息ひといきくと、その男はおもむろに立ち上がる。

 ずかしくはないのだろうか?

 全裸ぜんらにも関わらず、臆面おくめん堂々どうどうとしている。見ているこっちが恥ずかしい。

 野蛮人やばんじん、否、未開人みかいじん? 余程よほど、文明水準レベルの低い原始的げんしてきな世界で生活をしていたのだろうか。

 姿形すがたかたちこそ、ほぼあたしたち大差たいさない。しかし、その髪色かみいろは真っ黒。瞳までもが黒耀石こくようせきを思わす漆黒しっこくすみにでもけ込んだかのよう

 これは、――やみ眷属けんぞく、なの?

 大丈夫であろうか。属性ぞくせい迄もが邪悪じゃあくであったとしたら、混沌こんとんおかされでもしていたら、この召喚は失敗だ。

 それにしても――眉目秀麗びもくしゅうれい容姿ルックスだけなら百点満点。たんにあたしのこのみとかう話ではない。万人ばんにんが、同性が、異種族いしゅぞくから見たとしても、その風采ヴィジュアルに心うばわわれる。恰好良カッコいい!

 ――しゅき、かも?


 あっ――

 こっちあたしを、見た。



―――...1秒、


「――おう。キミが、オレ召喚んだのか?」


 色気いろけ――

 なんとも不思議な声色こわいろみょうつややかな声質こえしつ

 低いようで高いようで、矢鱈やたらひびみ渡りとおる。それでいて落ち着いてやさしく、鼓膜みみ吐息といきでも吹きけられたかのようなな、愛撫あいぶでもされたかのごとくすぐり、意識をあたたかく包み込む。あまく、でも、決して甘過ぎない声調トーン。この声をなが寂然ひっそりと眠りにつきたい、それ程。

 一言ひとこと子宮おなかまでずしんと響き、うずく。


―――...2秒、


「は、はひぃ、貴方あなたを“勇者ゆうしゃ”として召喚したのは、あたしれす」


 動揺どうよう――

 少し……ほんの少しだけ、声が上擦うわずった、きゃも。気付かれては~……いないはず

 あの黒い瞳。闇夜やみよように真っ黒なのに燦々キラキラと輝いている。目力めぢからしゅごい。吸い込まれそう。飲み込まれそう。

 その肌理きめこまやかなはだほんのりとわずかに紅潮こうちょうし、言わずもがな、綺麗ふつくしい。桜色さくらいろした小さなくちびるもぷるんとして可愛かわいい。

 ちらほらと時折ときおりのぞかげがある感じがまた格別かくべつ。凄く若いだろうに、その落ち着き具合ぐあいたるや、不合理ミスマッチさがたまらなく魅力的。しぶ過ぎず、とがり過ぎず、それでいて神秘的ミステリアス雰囲気ふんいきただう。

 なんか、――なんか、い!


―――...3秒、


「――指名んでくれた君は幸運ラッキーだ。いいだろう、の世界を救おう」


 キャーッ!

 ちょっと待って。声、超恰好良ちょーカッコいい!!

 好物声イケボ過ぐる!

 それにっ! ……顔、どストライクタイプ過ぎる!男前イケメンにも程があんだろ、っーの! れちゃうよ? いやいや、もう、軽~く、惚れちゃってるんですけどー。ちちゃうよ? もう、落ちちゃうよ? 落っこっちゃうよ? 堕天だてんしちゃうよ?

 あー、ダメ。

 脳味噌のうみそとろけりゅぅぅぅぅン。

 一応いちおう、さ? 女神めがみだからさぁ? 気ぃ~って緊張感キンチョーかん描写びょうしゃし続けてサ? ぐぁンばって説明しよーとしてたけど、もォ~ムリ!

 ――って、……ン?


―――...4秒、


「よ、良かったぁ、かってもらえて…………って、えっ!? エエーッッ!!?」


 え゛っ!?――

 勇者になってくれんの? この世界、救ってくれんの? 了解、って事? えっ? えっ? えーっ!?

 本気マジですか? 真剣ガチですか??

 ――早くね? 超早チョーはやくね? 超音速マッハ過ぎね?

 あたし、なんの説明せつめーもしてなくね?

 物分ものわかり、良過よすぎじゃね?

 あれ?

 もしかして、あたし――

 どっかで説明してた?

 ……いやいやいやいや!

 やっぱ、してない!!

 なんも話してない。抑々そもそも、今、ったばっかだし! 名前も知らないし!

 ってか、誰? ダレなの? いや、呼んだのはあたしのほうなんだけど、、ドコのダレなんですかー?



―――5秒、6秒、7秒...


「すまない、自己紹介が遅れた。俺の名は桐生きりゅう風雅ふうが。通りすがりのただのイケメン。無論むろん、今からは勇者だ。よろしく」

「……あっ、はい。あたしは女神ラヴクラフティ。えーと……いきなり、女神、ってっても信じられないとは思うんだけど……」

「いや、君が女神だって事は理解かっていた」

「えっ!?」

「俺の前に現れる女性はみな、女神。正確には、俺の前に立った瞬間しゅんかん、女性は皆、女神に転生る」


 ……――

 はいぃぃぃ~~~???

 ――……なに云っちゃってんの、

 なーんか今、軽くイラッとしたんですけどぉ~。気障キザ過ぎんでしょ?

 ちょっとカッコイイからってさ~? 調子ちょーしに乗ってない?

 この世界の事知ったら、腰抜こしぬかすわよ、


「え~と……この世界には“魔王エルケーニヒ”という脅威きょうい存在そんざいしているの。貴方が住んでいる元の世界とは大きく違っていて、たとえるのであれば、人格じんかくを持った災害、それが魔王なの」

「ああ、理解かっている。君が俺を勇者として呼んだのであれば、当然、魔王が存在いるってのはさっしがつく。後はその魔王を倒すだけだ」


 あ~……――

 確かに、勇者として召喚した、とは云ったけど。

 そんなに淡々あっさりと受け入れられるわけ

 ゲーム脳? ゲーム脳なの? ゆとっちゃってんの?


「……そ、その通りなんだけど~、魔王っていうのは強大な力を持っていて、ね? その~、凄く大変なの!

 例えるのであれば、世界中が全滅ぜんめつする程の巨大な隕石いんせき間近まぢかに迄せまって来ていたとして、その隕石そのものが人格、よう意志いしを持っていたとしたら、これを回避するのって、すっごくすご~く難しいの!」

「――だろうな」

「……だろうな、って」

「だが、問題ない。君は女神。女神の前に立つ俺は、いつだって勇者。勝利の女神はただ、俺に優しく微笑ほほえみかけてくれさえすれば、それでいい」


 あらっ、ヤダ! ステキ……、とか思ってる場合じゃ~、ない!

 はいィィィ?

 ――本当、どういうつもり??

 なんでそんなに自信満々じしんまんまんな訳?

 って云うか、さ?

 さっき、の前に立つ女は女神になるって云ったよね? その女神の前に立つは勇者って、どういう事? 恒常的こうじょうてきって勇者な訳?

 が勇者だからあたしが女神なの? 違う違う、違いますからっ! あたし、女神!! あたしが勇者として召喚したからが来たの! にわとりタマゴじゃないっつーの! あたしがさきィ!

 それからぁ~……

 ――あたし、勝利の女神、とかじゃないし。

 新米しんまい女神……――だから、“勝利”とかいうような、ナニか特別な属性をつかさどってる訳じゃないし……


「えーと、ね……この世界“ナグルマンティ”をおびやかしている魔王っていうのは並大抵なみたいていじゃないの。本当に、本当ぉ~に怖ろしい魔王で、過去、おびただしい数の勇者達がいどみ、散っていったの」

「魔王には2種類しかいない。俺に倒された魔王。そして、これから俺に倒される魔王。この2つだけ」

「……えーと、云っても分からないと思うけど、ここの魔王って脅度レベルフォー恐怖ホラー>に区分されるの。別世界べっせかいから召喚した勇者も数多く散っていったの。だから、慢心まんしんしないで欲しいの」

「俺は慢心などしない。安心させるだけ、君を」


 ……――ち、ちょっとぉ~!

 、マジなに云ってんの!

 チョ~上から目線めせんじゃん?

 なんか、……なんか、さぁ――ちょっと、ほんのちょっとだけ、イケるんじゃないかって思っちゃうくらいの自信……

 うーん……けてみるかなァ~、に。

 もう、手持ちの聖召石せいしょうせき使い切っちゃったからしばら召喚ガチャ出来できないし。

 よしっ、決~めた!


「うん、分かったわ。それじゃ~、あたしの事は、女神様ぁ~、とか堅苦かたっくるしい呼び方じゃなくって、気軽きがるにラヴって呼んでね」

理解かった。では、俺の事は風雅フーガさまと呼んでもらってかまわない」

「は~い、風雅様ぁ~♪ ……って、なんで、女神のあたしが様付さまづけしなきゃいけないのよっ!!」

「――おこった顔も、悪くない」


 ……――ん~~。

 大丈夫かな~、コレ?

 もしかして、召喚、失敗だったのかな~?

 ま、いっか――だって、……

 ちょ~~~イケメンだしぃ~~~wwwww

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