第18話蛇の弥五郎12

「肥前守。

 蛇の弥五郎一味の探索はどうなっておる」


「申し訳ありません。

 他の盗賊は捕縛できるのですが、蛇の弥五郎一味は我らを恐れているのか、全く足取りがつかめません」


 老中に呼びだされた南町奉行の根岸肥前守鎮衛は、正直に話した。


「うむ。

 盗賊共が幕府の御意向を恐れるのは当然だが、他の盗賊は隠れ潜んでいても捕縛で来ているのに、何故蛇の弥五郎だけ捕まえる事ができないのだ」


「他の盗賊は、盗賊同士の横の繋がりがあるのですが、蛇の弥五郎一味は盗賊同士の繋がりが全くありません。

 探索を初めて三百人近い盗賊を捕えましたが、誰一人蛇の弥五郎一味の事を知りません」


 肥前守も逮捕できるものなら蛇の弥五郎一味を逮捕したかった。

 だが見込みのない事を大言壮語できるはずもない。


「う~む。

 それでは逮捕の見込みはないのだな」


「残念ではございますが、今のところ全く足取りがつかめません。

 今できる事は、非常見回りを続け、蛇の弥五郎一味を抑え込むだけでございます」


 そこでこれからも盗みをさせない提言を行った。

 捕縛するのが最善だが、捕縛できなければ抑え込むしかない。

 それに全く足取りがつかめないので、江戸から逃げ出したと言うことも考えられた。


「このまま火付け盗賊改め方六組体制を続けろと申すのだな」


「はい。

 一時は幕府の威信が揺らぎかねない状態でございましたが、今では江戸市中の治安が著しくよくなり、庶民の幕府に対する信頼が揺るぎないものとなっております。

 御先手組の負担が強くないのなら、続けるべきだと思います」


 だが負担になっているのは明らかだった。

 町奉行所も疲弊しているが、勝手向き苦しい火付け盗賊改めは、長官が経済的に破綻する可能性が高かった。


「う~む。

 盗賊を逮捕するためには、多くの手先を抱える必要がある。

 あの者が手柄を立てるので、火付け盗賊改めも躍起となり、勝手向きが苦しくなっておるのだ」


「ですが、何も捕縛する必要などありません。

 南町奉行所でも、盗賊を捕縛しているのはあの者だけでございます。

 北町奉行所では、一人の盗賊も捕縛しておりません。

 手柄を焦るあまり、無実の者を逮捕するなど、二度とあってはならないのです」


 老中は苦虫を噛み潰したような表情となった。

 先月の事だが、手柄を焦る火付け盗賊改めの同心が、性質の悪い御用聞きの言い成りと成り、何の罪もない職人を誤って捕え、激しい拷問を行い、一生残る障害を与えてしまっていたのだ。


 七右衛門の活躍で真犯人が捕えられ、無実の人間が仕置きされる事は防げたが、幕府にとっては痛恨の事態だった。

 その事もあって、肥前守はある提案をしようとしていた。

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