第18話 暴漢者の末路

 門番の所に行き、盗賊の報酬は後日冒険者ギルドで貰う事になったと説明した。


 魔物を狩に行くと話をして、ナンシーに教えて貰った林へ向かう。オークのよく出る所を教えて欲しいと言ったら、簡単な地図を書いてくれた。

 ブロードソードはシェリーに持たせ、俺は短剣を装着している。


 街を出て5分位進んでいると、後を付けられているのが分かった。林は街からは1時間程歩く事になる。

 わざと藪に入り、街道から外れた。

 間もなく現れたのは、先程ギルドを追放されたグッディだった。

 30代半ばで中肉中背。盗賊と見間違える程の粗野な面構え。髪はボサボサで、装備はチェーンメイルに篭手、脚甲と言った何の変哲も無い格好。武器はロングソード。


「てめえらのせいでギルドを追放されたじゃねえか!どうしてくれるんだ?

 落とし前付けろや!取り敢えずその女は置いてけ。俺が可愛がってやる。

 てめえは俺の靴を舐めて許しを請え。そしたら命だけは助けてやる。ぐへへへへ」



 下卑た声を出しつつ、剣を抜いてこちらに近づいてくる。俺もシェリーも身構え、一言のみ発する。



「断る」


 シェリーを後ろにやって、一応身構えた。念の為、奴に先手を打たせようと思ったのだ。


「じゃあ死ねや!お嬢ちゃんは後で俺がたっぷり可愛がってやんよ」


 叫んで俺に斬りかかってきた。

 短剣で反らし、足を引っ掛ける。

 簡単に倒れる。

 間髪入れずに威圧を発動すると、見事に掛かった。


「くそが死ねや」


 恐怖に引きつった眼で叫びながら、倒れたままやみくもに剣を振っている。来るなと言わんばかりで、後ろに下がりつつある。


 鑑定してみる。スキル名が違うが、鑑定したいと思ったらちゃんと発動したようだ。

 年齢は38

 レベル23の戦士のようだ。


 生命力 140

 魔力  20

 強さ  162

 スキル

 剣術(片手剣)2

 気配察知3

 威圧1

 身体強化2

 大して強くは無い。シェリーよりは強いが。


 称号に「粗暴な強姦魔」と出ている。犯罪者だった。

 俺に楯突きシェリーを手籠めにしようとした段階で、既に生きる価値は無い。

 生かしておいてもろくな事をせず、被害に遭う女性が出てくるだろう。

 スキルも大した事が無かった。一般冒険者ってこんな物か?


 俺はシェリーからブロードソードを受け取ると、剣を振りかぶり、右腕を肘の所で切り落とした。



「ぐああ」


 と、

 醜く醜態を晒している。

 シェリーに


「昨日話した通り、魔法が使えるようになったはずだ。こいつで試してみろ。行けるか?」


 と聞くと頷いた。シェリーは詠唱を開始した。


「歌姫たる我が願う。我が主に仇なす敵を討つ刃と成れ。ウインドカッター」


 と放った。

 見えない風の刃がグッディの両脚を切り裂く。

 威力が弱く、半分位切り裂くが、切断には至らない。


「私魔法撃てました!」


 と喜ぶシェリー。俺は


「よくやったなシェリー」


 剣を返しながら褒めると、嬉しそうにしている。

 のたうち回っているグッディに蹴りを喰らわせ、しょんべんをぶっ掛ける。トドメを刺そうと思い


「死んで悔い改めろ。何か言い残すことは無いか?」


 と言い、奴が持っていたロングソードを拾い、上段に構えると、


「ひいいだずげでええ」


 と悲鳴を上げた。

 するとシェリーが


「いけませんご主人様。こんな奴ごときに、わざわざご主人様の手を汚す事は有りません。いずれ人を殺す事になるのでしょうし良い機会です。是非私にやらせて下さい」


 と、必死な形相で懇願してきた。人を殺せないようでは捨てられると思ったのだろう。

 普通で考えたら美少女に人を殺させるのは忌避する所だが、ここはそう言った世界では無い。奇麗事じゃ生きていけない。今後、冒険者として生きる以上、いずれ通る道だ。いざと言う時に躊躇するようだと、いずれ彼女は命を落とすだろう。俺は頷いた。やっぱり壊れてるな、俺。少女に人を殺させるとは、ろくな死に方しないんだろうな、と思ってしまった。


「我が主に対する狼藉は万死に値します。我が主に仇なす者よ、命をもってその罪を償いなさい。さようなら」


 と言い放つと、剣を喉元に躊躇なく突き立てた。


 彼女を見ると涙を浮かべていた。やはり殺しはきつかったのだろう。


「ラベルアップしました」


 と聞こえてきた。彼女を見ると彼女もレベルが上がったようだ。残念ながら、奴隷が殺した相手のスキルは強奪出来ないようだ。

 俺は彼女を抱き寄せ、


「ごめんな。君にやらせるべきじゃ無かった。許してくれ」


 泣きじゃくる彼女を暫く抱きしめた。

 しばらくしてシェリーが落ち着いてから、生活魔法のクリーンを唱え、自分とシェリーに使用し返り血を綺麗にした。先程ナンシーに生活魔法について聞いてみたら、冒険者に人気なのが汚れを落とすクリーンと着火のファイアー、指から魔力を若干帯びた水を出すウォーターだと教えてくれた。これでかなり旅の荷物が減らせれるんだそうだ。ウォーターでは水はちょろちょろとしか出ないが、飲み水と洗い物程度なら困らない。宮廷魔道師くらいになると、ホットという温水を出す魔法で浴槽にお湯を貯めることが出来る、とのことだ。


 クリーンも、これがあれば替えの下着が不要になるし、生活魔法は冒険者に人気の魔法なんだそうだ。属性魔法が使えなくても、魔力さえ有れば修行で身に付くらしい。しかし普通は、早くても3ヶ月ほど習得に掛かるので、覚えるのは中々難しいようだ。後は特殊な使い方が有ると、恥ずかしそうにゴニョゴニョ言っていたが聞きそびれてしまった。

 自分のスキルをちゃんと見てなかったのが悔やまれる。洗濯が不要なのだ。昨日シェリーにさせてしまった苦労は、必要なかったようだ。


 グッディを見ると、カードが出て来ていて犯罪者となっていた。関わった事が分かるとやっかいなので、鎧はそのままにした。荷物を漁ると、金貨が20枚、銀貨と銅貨が数枚づつ有った。他には特に、これと言った物が無かったので、剣とお金だけ頂いて、遺体は茂みに突っ込んでおいた。いずれ獣の餌になるだろう。犯罪者の末路はそんな物だろう。自分とシェリーの称号をチェックしても、犯罪者にはなっていなくてほっとした。


 気を取り直して出発する。1時間位歩くと目的の林が見えてきた。

 躊躇せずに林に入っていく。

 帰りの事を考えると、2時間位で引き揚げないといけない。

 この林はゴブリンとオークが多く、それより強い魔物は滅多に出ないらしい。

 今回は、シェリーのパワーレベリングと、戦闘に慣れて貰うのが目的なので、無理の無い方向でやりたい。

 スキルを見つつ、俺が倒すかシェリーが倒すのか決めた。1時間位中に入った所だが、これまでにゴブリンは8匹、オークは4匹だった。その内ゴブリン1匹は、シェリーが単独で対応した。剣術は舞姫のごとく流麗な動き。力が足りないのか俺のように首ちょんぱとは行かず、手数で弱らせて、トドメはウインドカッターで行った。


 引き上げ始めた直後に異変があった。

 後ろから2匹の魔物が現れた。シェリーが俺の後ろを歩いて居た為に、そいつらにまともに対峙してしまった。どうやらオーガのようだ。本来、王都の近くで出る魔物では無い。

 振りかざされた剣を、シェリーはかろうじて躱すが転んでしまった。そこへもう一匹が剣を振り上げた。シェリーは恐怖で動けなくなり、失禁してしまった。『あぁぁあ』と声がでて呻いていた。

 何とか急いでアイスアローを打ち込み、剣をシェリーに当たる直前で受け止める事が出来た。

 シェリーとオーガの間にアイスウォールを発生させてシェリーを守りつつ、もう一匹に対峙する。先程アイスアローを打ち込んだ方は、アイスウォールをばしばし叩いているが、もう傷が治ってきている。

 アイスアローに魔力を込めて撃ち込む。5発連続で撃ち込み、オーガの体の中央に穴が開いた。剣で首を刎ねようとしたが、半ばまでしか切れず、心臓に突き刺してようやく倒す事が出来た。

 もう一匹には、ファイアーアローを10発程喰らわせて表面を焦がした後、剣で打ち合った。やれると油断したところに拳が俺の体に当たり、10m程吹き込んでしまった。木に背中が強く打ち付けられる。空気が一気に抜けるような感覚がした。

 強敵だ。Bランクの魔物である。

 俺の剣技だと厳しい。ちゃんと習っていないから、スキル任せになっている。


 木が多いところなので余り使いたくは無かったが、そんなことを言ってられない。大量の魔力を込めたファイアーボールを5発程ぶち込んだ。以前よりかなり大きく、直径1m程だ。

 そのお陰でオーガの表面は焼けただれたが、かろうじて生きていた。この傷も、時間が経てばいずれ治ってしまうのだろう。時間を掛けずにトドメを刺す。首を落とし、決着した。


「肉体再生を強奪しました。スキルストックします、ラベルアップしました」


 と聞こえた。もう一匹も肉体再生だったようだ。シェリーに駆け寄り、大丈夫か確認する。呆然としているので、立たせてクリーンをかける。体のあちこちを触り、骨が折れていないことを確認する。どさくさにまぎれて胸もひと揉み。ご愛敬と言う事で。怪我が無いようなのでほっとしたら、彼女は


「申し訳有りませんでした。それとご主人様のエッチ」

 と謝罪してきた。


「シェリーが無事で良かった。それが一番だ。強敵だったんだからしょうが無いよ。可能なら、魔石と討伐証明の切り出しを頼みたいが、行けるか?」


 と確認すると、彼女は頷き、ナイフを片手に作業を開始した。


 俺はそんなシェリーを見守りつつ、周辺の警戒を行う。スキルの影響からか、徐々にダメージが回復して痛みが和らぐのを感じた。

 そして回収が終わり、帰路につくのであった。


 帰りは大変スムーズで、魔物に遭遇する事は無かった。ギルドでナンシーに、オーガが出た事を報告したら、驚いて何度も大丈夫だったのかを聞いてきた。ギルドマスターに報告をするとの事で、討伐証明を渡す。今日はかなり疲れたので、他の討伐証明の持ち込みと、オーガの分の報酬受け取りは明日にして、宿へ戻った。


 宿へ戻ると、シェリーは泣いた。怖かったと。俺は『怖い目に遭わせてごめんな』と言ったが、彼女は失禁したことを思い出したのだろう。顔を真っ赤にして


「そうじゃなくてですね、オーガは確かに怖くて醜態を曝した自分が情けないのですが、ランスロット様が死ぬかと思ったのが恐ろしかったんです」


 と語った。

 そんな彼女が愛おしくなり、抱き寄せてキスで口を塞いだ。

 改めて思った。彼女が大事だ。もはやシェリー無しでは生きていけない。

 鎧を脱ぎ捨て普段着に着替え、食堂で晩ご飯を食べる事にして部屋を出て行った。気がつくとシェリーが俺の腕に自分の腕を絡ませ腕を組んできていた。ごく自然に。嬉しかった。

 彼女の温もりを感じた。胸の感触も最高だった。ここでそれが出るのは男の子だからしょうが無いよね。おっぱいは正義だ。

 つくづく思う、不思議な少女だ。

 その日の食事はとても美味しかったと記憶している。食事も美味しかったが、シェリーの笑顔が忘れられなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る