第03話 デルガンダ王国
最後に残ったデルガンダ王国は、リントブル聖王国、ストビー王国の二手から同時に到着するように出立した。前者を率いるのが陛下、後者を率いるのがマルクス王子だ。正直同じタイミングで着くのだから二手に分かれる意味なくない? とも思ったのだが――。
「こういった経験は簡単には出来ないのじゃ。出来ればマルクスに経験を積ませたくてな……」
そんな陛下の言葉で二手に分かれることになった。僕が見た時は互いに何匹魔物を倒すか競おうとしていた。それも率いた群ではなく自分が倒した数でだ。僕は陛下の言う経験とは人を率いて指示を出したりすることだと思っていたのだが、違うのだろうか。陛下の性格からして単純に勝負を楽しみたかったという可能性も無くはない。
そして、2人の指揮の高さが影響したのか率いる軍勢の指揮も異常に高かった。普通に引くレベルだったが、顔には出さなかった……つもりだ。そのせいか制圧までの時間は予定していた日数の3分の1という異常な速度で成された。
☆
「はっはっは。流石に儂には敵わぬか」
「くっ! つ、次こそは――」
僕がデルガンダ王国奪還の報告を聞いて移動してくるとそんな会話が耳に入った。王国が随分ボロボロになっているにも拘らず賑やかなものだ。
「言ってもお兄ちゃんのお陰で被害は建物ぐらいだったからね」
「おぉ、ルカ、リク殿。来ておったのか」
今回はルカだけ連れて来ている。今まで何か起こるかもしれないと言う理由で誰も連れてこなかったのだが、自分の生まれ育った国と言うこともありルカは譲らなかった。
「本当に転移魔法は便利だな。僕にもリリィのような魔力があれば……」
こう言うのもなんだが、マルクス王子が魔法を使っている姿が想像できない。どちらかと言えば剣を使って颯爽と魔物を倒していく方が容易に想像できるし、事実そちらの方が本人も得意だろう。
さて、そんな話はともかく。
「魔法陣はどこに描けばいいですか?」
「城の地下には空間があるのじゃが……」
「そこに描いてくれれば父上や僕としてはベストだと思っている。だが、王都の中央と言う訳では……」
「エリンさん、どうにかならない?」
どうにかなるのならストビー王国の時に、あんな目立つ位置に作ったりはしない。……はずだったのだが――。
「どうにかやってみます。少し時間は掛かると思いますけど」
ラエル王女がこの会話を聞いたら何ていうだろう。……いや、精霊大好きなあの人が精霊王に何かを言えるはずないか。
そんなこんなで久しぶりに地下へと入った。この場所へ来たのはドラゴンの死骸を持ってきたとき以来だったっけな。自分もエリンが魔法陣を描くところを見たいと、陛下とマルクス王子もついてきた。
「陛下」
「なんじゃ?」
「あの扉は何ですか?」
「少し処理に困っているものがあってな。いつかリクが持ってきた――」
「……ドラゴンですか?」
「あれほどの大きさの死骸、保管する場所も無ければ事情が事情なだけに適当に処分するわけにもいかなかったからな。人間と魔族のものは土葬したのだが……」
まあ、確かに。黒い霧の正体が分かっていなかった当時、処理に困るのも無理はない。が、解析をするためにも処分をする訳には行かなかったのだろう。だが、死骸が状態を維持できるはずも無い。
「あれ、使い道あるんですか?」
「いや、黒霧の正体も分かって問題も解決した今、儂らがあれを保管する意味は無い」
とのことなので、エリンに手伝ってもらって火葬した。かなり酷い臭いがしたが、ほぼ閉鎖空間だったせいかそれ以上の事にはなっていなかった。閉鎖空間でなければ……というか虫が入ってこれたりしていたらと考えるとぞっとする。それを考えれば臭いだけで済んだだけまだましだったのだろう。
その後、それよりも深い所の広い空間に案内された。
「ここならそう簡単に人も入れんじゃろう」
「来れるとしても僕か父上、それか僕らに許可をもらった人間ぐらいでしょうね」
「ねえ、お父さん。私こんな場所知らなかったんだけど。……仲間外れにしてない?」
「ここは国の資金を置いておく金庫じゃからな。ルカがもう少し大きくなったら教えるつもりだったんじゃが、リク殿と共に旅に出てしまったからな」
そうか、金庫か。どうりで頑丈な扉だった訳だ。……ってそうじゃない。それよりも気になることが――。
「陛下、金庫が空なのは一体――」
「国全体がこの状態じゃからな。ここにあった資金は資材を買い集めるのに使うべきじゃろう? 幸いメノード島は被害が少ないから、そちらから購入しようと思ってな。通貨も同じようじゃし。そういえばラエル王女も同じようにすると言っておったな。ここにあっても取り出しにくい。じゃから今は別の場所に保管してある」
魔王様ならそれぐらい無償でしてくれそうなものだが、国同士の事情に僕が首を突っ込むのはあれなので黙っておこう。
「別の場所?」
「それは一応伏せさせてもらうが、リク殿の一番弟子が守ってくれておるはずじゃ」
……なんか不安になってきたな。いや、戦力的な意味でなく。ゼル達とお金の話を聞くと、この国で孤児院に寄付した金額を聞いて気絶したゼルたちを思い出してしまう。まあ、お金の重要性を理解してはいるだろうから緊張感は持てていいのかもしれないけれど。
そんなことを考えていると、首を傾げながら魔法陣を組んでいたエリンから声が掛かった。
「こちらはどうにかなりそうです。少し時間は掛かりますが……」
「すまんなエリン殿、助かる」
「お礼はリクに言って下さい。私がここに存在できているのもリクがいての事ですし」
「それもそうじゃな。リク殿、何から何まで助かった」
「僕からも礼を言わせてくれ。ありがとう、リク」
面と向かってそんなことを言われるとなんだか恥ずかしい。
「別に気にしないで下さい。僕は出来ることをしただけなので」
「お兄ちゃん照れてるの?」
「まさかルカにからかわれる日が来るとは……」
おっと、思った事が口に出てしまった。
「……お兄ちゃん、今ワザと口に出したよね? ね?」
「相変わらずルカは楽しそうだな。これもリク殿のお陰じゃ」
「お父さん、今の会話ちゃんと聞いてた? それとも本当に楽しそうに聞こえたの?」
「僕にも楽しそうに見えるぞ。兄としては微笑ましい限りだ」
「待って待って、なんで私がおかしいみたいになってるの? え? 本当に私がおかしいの?」
やはりルカには人をからかうという行為は向いていない……というか似合っていない。きっとからかわれるのが性分なのだろう。そんな会話をしている間にもエリンは魔法陣を完成させ、それから数時間後にはデルガンダ王国の住民全てが故郷へと帰還した。
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