第19話 天才魔法使い、首脳会談の準備をする

 それから数日、リリィの案内の元、いろいろな所を回りながら、その裏でデルガンダ王国とストビー王国とを往復し、魔王様、陛下、ラエル王女の日程調整のために動き回った。そしてようやく翌日に日程が合うので集まろうということになったのだ。そんな日の昼食後の話。



「りく、わたしもりくたちのまちをみてまわりたい!」


「いや、悪いんだけど僕、会談に立ち会わないといけないから」



 各首脳の希望により、だ。話に参加するような事は多分ない。僕としては魔族と人間が仲良くしてくれるのは大歓迎なので、別に嫌と言う訳ではない。



「じゃあ、お兄ちゃんが働いている間に私たちが案内するって言うのは?」


「いや、一応護衛的な役目もあるからエリンにも付いて来てもらうんだよね。それで、もし何かあってエリンの魔法が解けたらリリィが魔族だったバレたときにすぐに魔法掛け直せないじゃん? だから正直、大人しくしていて欲しい」



 リリィがぷくーっと頬を膨らませる。何というか、その仕草をされると威圧感は全くないけれど、謎の罪悪感に苛まれる。



「でも隣の部屋でのんびりしてるのなら問題ないかな。ほら、リリィたちは人間の街の食べ物を知らない訳だし」


「ならそうするのが良いと思うのじゃ」


「それは楽しそうですね。是非私もそちら側に行きましょう」


「いや、お前は俺と一緒に他の国の王と一緒に来て欲しいのだが……。魔王の妻という立場上、顔合わせも必要だ」



 サリィさんがリリィの真似をして頬を膨らませる。こういう所を見ると、本当に似ている。



「いや、お前は大人ななんだから見逃せないぞ?」


「なら、会談が終わってお兄ちゃんが暇になってから行けばいいんじゃない?」


「陛下と魔王様の許可があればいいかな」



 今回の会談はデルガンダ王国で行われることになっている。魔族が街を歩き回るのなら、陛下の許可は必要だろう。



「おとうさん……(上目遣い)」


「会談の時にその辺も話してみるとしよう。俺も見てみたいしな」



 まぁ、会談と言っても人間の国の王に関しては戦争とはあまり関係がないから、真面目な話よりもそう言った話で親交を深めるとかになる気がする。……いや、黒い霧の件があるから真面目な話が無し、ということにはならないか。



「リク様、この間の魚を少し貰いたい。デルガンダ王国の料理長にも見せたい」


「あぁ、いいよ。そのままだと面倒だから切り分けてから持って行こうか」



 料理長の話もずいぶん久しぶりな気がする。食材の毒を検知する魔道具をくれた凄くいい人だ。旅の道中かなり頻繁に使っていたし、話に出てきている魚もその魔道具で毒を確認している。



「リク、話は変わるのだが、リクが人間と知っている者を数名連れていきたいのだが、いいだろうか?」


「いいと思いますよ。あちらも護衛無し、と言う訳でもないですし」


「あぁ、そういえばレルアの件は助かった。批判が多いから、あまり表立って手助けできなくてな……。そちらに資金を回そうとすると必ず反対する者が出て来るのだ」


「気にしないで下さい。成り行きですし」


「お兄ちゃん、何したの?」


「リク様が料理を持って行ったって話?」


「まぁ、料理も持って行ったけど色々あって――」



 僕はレルアさんと一緒に町の一角に行ってあったことを簡単に話した。



「リク様が作ったそれ、多分だけど誰にも壊せない」


「ドラゴンの体当たりぐらいでは壊れないってエリンが言ってたような……」


「魔法への耐性も付けておいたので、国を挙げてもそんな簡単に壊せないと思いますよ」


「ねぇお兄ちゃん、それ、あんまりポンポン作っていいものじゃないと思うんだけど……」



 ……確かに。よくよく考えれば、自分の国の中に難攻不落の空間が出来ると考えれば、どうしたって気味が悪い。



「気にしなくてもいいぞ。彼らの不遇を改善できていない俺にも責はあるからな」


「それにレルアも感謝していたようですしね。種族差別のせいか、あの子は少々引っ込み思案なところがあって、中々自分の望みを言いませんからね。そういった性格にしているのも周りの環境のせいなのですが……」



 不遇過ぎる。戦争相手に対して過剰に敵対心を抱くのは仕方ない……というか必然的なのか。そんなことを考えていると、ふとした疑問が頭をよぎる。いや、ずっと思っていたけれど口には出さなかっただけか。



「そういえば、戦争って何がきっかけ何ですか?」


「それは先代の魔王が勇者に打ち取られて――」


「それっていつ頃の話ですか?」


「いつ頃と言われてもなぁ。俺もそこまで詳しいことは知らないな」



 昔過ぎて分からないとかかな? そんな結論で僕がこの話を切ろうとしたとき、待ったをかけたのがルカだった。



「私は昔魔族に多くの人が殺されて……みたいな話を聞いたんだけど。それに、勇者が魔王を倒せる存在みたいな話は聞いたことあるけど、魔王を倒したなんて話聞いたことないよ?」


「ちょっと待て、俺たち魔族がそちらの島に侵攻したという話は聞いたことがないぞ」


「……ん?」



 駄目だ、頭が回らなくなってきた。



「リク様、甘いものを食べると頭が働くって聞く」


「あぁ、ありがとう」



 アイラがくれたチョコレートを口に運びながら頭をひねる。

 魔族は先代の魔王が勇者に殺されたからその腹いせに人間と対立をしている。が、人間側にそんな話は伝えられていないと。

 対する人間は魔族に同族を殺されたからその腹いせに魔族と対立している。が、魔族側にそんな話は伝えられていないと。

 


「……ん?(2回目)」





 その後も皆で色々考えてみたが結局、矛盾しているという事実しか分からなかった。なので、きっと時代の荒波により葬り去られたのだろう。そんな結論で話を終えた。そんな時、レルアさんがこちらへとやってきた。



「魔王様! 例の集団のことについて分かったことがあるのでご足労願えますか?」


「分かった。すぐ行こう」



 レルアさんの顔色は別に悪くない。これはギルドマスターが必死になりすぎているのか、魔族の体が人間のそれよりも頑丈に出来ているのか、どちらなのだろうか。……いや、ギルドマスターは高齢だから(失礼)この判断をするのは早計か。

 そんなどうでもいいことを考えていた時、予想外の声が掛かる。



「リクも来てくれないか? それで分かることもあるかもしれん」


「分かりました」



 まぁ、僕が言って分かることなんてたかが知れているのだが。と、いうことで。



「エリンも付き合ってくれる?」


「分かりました」



 そんな感じで話が纏まってから、不満を言ったのはリリィだ。



「りりぃはりくとあそびたい!」



 僕が少し困った表情を見せると、ルカが任せてとでも言わんばかりの顔でリリィに声を掛ける。



「リリィちゃん、私と遊ぼう? トランプとかどう?」


「でもりりぃ、とらんぷのあそびかたしらないよ?」


「それは私が教えてあげる。覚えたら後でお兄ちゃんが遊んでくれるよ?」


「ほんとう⁉」



 まぁ、別にそのぐらいならと思って頷いておいた。



「悪いけどアイラも付き合ってあげてくれる?」


「分かった」


「後シエラも。シエラがいないとルカ泣いちゃうだろうし」


「ちょっと待て主様。それはどういう意味じゃ?」


「ちょっと待ってお兄ちゃん。それどういう意味?」



 いやだってシエラがいないとずっとルカの一人負けじゃん。……いや、リリィみたいな純粋な子がポーカーフェイスが出来るとは思えない。まぁ、いいか。アイラの一人勝ちになるだけである。

 そんなことを考えていると、ルカから声が掛かる。



「ねぇ、お兄ちゃん。私がいつまでも負け続けるとでも思っているの?」



 何かその言い方、少し腹が立つ気がするがそれはルカじゃなかった場合である。こんなことを言ってもルカならずっと負け続けるとかありそうなので、その姿を想像するだけで何とも悲しい気持ちになる。



「ちょっと待ってお兄ちゃん! なんでそんな目で私を見るの⁉ あのね、トランプで出来るゲームは何もババ抜きだけじゃないの。ババ抜きじゃなければ私負けないもん!」



 それは確かにあるかもしれない。でもそれはババ抜きでは勝てないということを自覚していることに他ならない。やはり温かい目では見守れない。

 それでもリリィがやる気になっているので、その場はルカに任せることにして僕とエリンは魔王様と共にレルアさんについて行くことになった。

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