第07話 天才魔法使い、魔王とお茶会をする

 僕らは机を挟んで魔王様たちと向かい合ってソファに座っていた。サリィさんが入れて来てくれた紅茶を一口綴ってから、陛下と王女が出した結論を伝える。



「なるほど、場をあちらにすれば話は出来るのか」



 魔王様は立派なあごひげを手で撫でながら話を聞く。だがその視線は僕の膝の上に載っているリリィだ。この人ちゃんと話聞いているのだろうか。(失礼)

 ちなみに右にはアイラ、左にはルカが僕の服を掴んで座っている。魔王様と初めて会った時よりは落ち着いたようだ。シエラはアイラの向こう側で相変わらずつまらなさそうな表情で座っている。そして、エリンは僕の肩でサリィさんが紅茶と一緒に出してくれたクッキーを頬張っている。

 なんか物凄く窮屈な気がする。

 魔王様との話を終えた僕はもう一度紅茶を綴る。……美味しい。



「」ハッ



 アイラが何かに気が付いたように紅茶に手を伸ばす。



「……この紅茶はサリィ……サリィ様が?」


「うふふ、サリィでいいわよ。そう、私が淹れたの。美味しいでしょう? 素材とか入れ方とかいろいろ拘ってるからちょっと自信あるの」


「それ教えて欲しい。代わりにこれより美味しいクッキーの作り方教える」


「クッキーも自信作だったんですけどね。是非そのクッキー、一度食べさせてもらいたいものです」



 どうやらお菓子はアイラの方が上らしい。アイラが次覚えるのは紅茶か。僕としてはレパートリーが増えて嬉しい限りである。

 この部屋から出るのなら他の誰かに会うこともあるかも。そう思ってエリンに声を掛けようとしたが、その必要はないと魔王様に止められた。



「見つかったら何かと面倒でな。適当に話を付けて今日は誰も来ないようにしておいた。だからあの無駄にでかい椅子がある部屋より向こう側に行かなければ他の魔族に会う事は無いぞ」



 とのこと。なんか迷惑をかけて申し訳ない。

 アイラとサリィさんが部屋から出ていき、隣で固まっているルカとその向こうで退屈そうにしているシエラのために魔王様とリリィに街のご飯の美味しい所や景色のきれいなところを教えてもらっていると、どこからともなくチリンッチリンッというベルの音が鳴り響いた。



「悪いがリク、席を外すぞ」


「今の音は何ですか?」


「ちょーせんしゃのおと!」



 挑戦者のことかな? ということは魔王様は戦いに行かないといけないのか。



「リクも見に来るか? すぐに終わるがな」



 こんな機会そうそうないだろうし見に行こうかな。

 と、いうことで。





 例の背もたれがやけに高い椅子の横で魔王様を見送る。扉からの距離の中心にたどり着いたところで向こうから筋骨隆々の魔族が出てくる。



「ほう、中々の実力を持ってそうだな」


「あんたもな。流石魔王と言ったところか」



 なんか割と話せばわかるタイプの挑戦者だな。勝手にもっと荒々しい人たちが来るものだと思っていた。反省反省。

 それと、話を聞いたところによると魔王様に挑戦できる者も限られているらしい。その辺の詳しい事情は少し聞いたところで理解するのをやめた。王を決めるとあってかなり複雑だったのだ。そういえば、ルカは納得顔で聞いていた気がする。本当、こういうことに関しては強いな、ルカ。



「お兄ちゃん、私たちここに居て巻き込まれたりしない?」


「こんな距離あるんだし大丈夫でしょ」


「」ジーッ



 久しぶりに声を聞いたと思ったらそんなことか。というかそのジト目は何? まるでこの距離じゃ心配になる様な魔法でも見たことあるのかな?



「主様」


「ん?」


「お腹空いたのじゃが」



 魔族の王が戦うところを見るというのにこの緊張感の無さである。まぁ、確かに少し小腹がすく時間ではある。シエラの食べる量が小腹と言えるかは別として。



「これで魔王の実力が分かりますね」



 エリンだけは真剣な表情で眺めていた。僕らは姿を変えているので実際には僕が見ているエリンの表情は、エリンの魔法によって作られたものなのだが。



「おとうさんはちからもちなの!」


「へぇ。後は何かある?」


「う~ん、はやい?」



 要は身体能力が高いってことかな? そんなことを考えていると、少し離れた所から声が掛かる。



「エリン、私にも魔法掛けて欲しい」


「分かりました」



 エリンに姿を変えてもらってからアイラもこちらへと歩いて来る。後ろにはサリィさんも付いている。



「どう? 紅茶はできそう?」


「素材さえあれば何とか。でもまだサリィみたいに上手く入れれない」


「それでも十分うまい方ですよ。それにしても、あのクッキーは美味しかったです」


「あれはストビー王国で教えてもらったものに私が少しアレンジを加えただけ」



 城で出されるお菓子にアレンジを加えて美味しくするって、かなり難易度が高い気もするけど。これもアイラの才能のなせる業か。

 そんな緊張感のない会話をしていると、魔王様のいる方向から風圧が来る。



「シエラ」


「了解じゃ」



 シエラの結界によって風圧が阻まれる。

 風圧が来た方を見ると、魔王様と挑戦者らしき魔族が拳をぶつけ合っていた。それでこの風圧とは驚いた。が、さらに驚くべき光景を目にした。いや、目にしたというよりは感知したと言った方が正しいか。魔王様は僕と同じように魔力を体に流して身体能力を強化して戦っていたのだ。そのお陰か、魔王様よりも体格の大きい挑戦者を相手に有利に戦っている。



「あれぐらいなら問題ないですね。リクが魔王と戦えば3か国制覇間違いなしです」


「本当にできそうで怖いよね」


「リク様に不可能はない」


「凄い信頼ですね。それはそうと……3か国制覇というのはどういう――」


「あぁ、いえ。何でもないです。気にしないでください」



 全く、人聞きの悪い。制覇なんてした記憶はないというのに。

 そんな無駄話をしていると戦っていた二人の戦いも落ち着く。完全に魔王様の力押しでの勝利だ。



「いい戦いだったぞ」


「よく言うぜ。かなり余裕だったくせに。次は覚えてろよ」


「はっはっは。楽しみにしているよ」



 そう言いながら魔王様はしりもちをついている対戦相手に手を差し伸べる。二人の間に男の友情みたいなものが芽生えた気がしたのは気のせいか。何かもっとギスギスしてると思ってたけれど、これはこれでありかもしれない。

 かなり離れたところに風圧が来るような肉弾戦があったにも関わらず、傷一つは言っていない床や壁に感心しながら僕らは魔王様の元へと向かった。



「流石ですね、魔王様」


「謙遜するな。俺でもリクには勝てる気がせんぞ」


「あなたから見てもそう思うのですか?」


「あぁ。リクはあれだ、一種の化け物だ」



 ひどい言われようだな。でも正直、体術のみとかじゃなければ勝てないこともない気がする。体術に関しては体がついて行ったとしても、素養が全くないので自信がない。才能を経験が上回るのはいつかの弟子同士の対決で理解している。



「実力差が分かる時点でどこかのS級何たらよりは実力者なのですね」


「あー、いたね。シエラさんにビビらされてたの」


「あやつはルカの立場に怖気づいたのではなかったか?」


「ルカの立場は見た目からじゃ分からない」



 ルカは不満そうな顔をしているが、魔族の3人は不思議そうな顔をしている。



「リク、その子は?」


「あぁ、そう言えば言ってませんでしたね。デルガンダ王国の姫君です」


「なっ!」


「まぁ!」


「りりぃといっしょ~」


「ルカの風格はどこに行っても伝わらない」


「そんなこと……ないもん……ぐすんっ」



 そんなルカのもとにリリィが近寄る。



「なんでなくの? りりぃといっしょ、いや?」


「うんうん、そんなことないよ。ありがとう、リリィちゃん」



 そう言ってリリィを優しく抱きしめる。自分の半分以下の年の女の子に慰められる姫というのはどうなのだろうか。ま、ルカだし仕方ないか。

 さてと、そろそろメノード島の街を散策しに行くとしますか。

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