第05話 勇者、帰郷する

 青い光を纏った聖剣がヒュドラの首を落としていく。

 それに負けじと一緒に戦っていた手慣れの冒険者達も数人で協力して確実に一匹一匹を倒していく。



「流石勇者だな」


「俺たちもそれなりの実力者のつもりだったんだが」



 そんな称賛にロイドは謙遜する。



「僕なんてまだまだですよ」


「そりゃ、上見りゃあれだけどよ……」


「俺たちからすればあんたは十分すぎるぐらい強いよ」



 そう、彼の頭の中ではリクとの実力差が離れなかったのだ。才能のあったロイドは努力なんてしなくても、リクに会うまでは誰かに負けるなんてことはなかった。さらにリントブル聖王国の性質上、その実力故に誰かに逆らわれることなんて殆ど無かったのだ。聖剣に青い光を纏わせながら空中に足場と作っているのは、そんな彼の努力のよるものだったりする。元々聖剣に魔力を流す感覚を掴んでいて、才能のあるロイドにとってはそれをマスターするのに数日しかかからなかった。

 たが、ロイドはまだリクに追い付くにはほど遠いと理解していた。





 そんなロイドは街でとある噂を聞き、その真偽を確かめるべくデルガンダ王国の城へと足を運んでいた。



「リントブル聖王国が宣戦布告を出したと言う話は本当だったのか……」



 陛下とマルクス王子に真偽を確かめ、ロイドは前例のない出来事に驚いていた。



「正確にはデルガンダ王国とストビー王国もじゃがな」


「僕らデルガンダ王国とストビー王国は全面降伏という形を取りましたが、問題はリントブル聖王国がどう動くか、ですね」


「全面降伏というのはルトイロ教皇には連絡を?」



 ルトイロ教皇とはリントブル聖王国のトップのことを指している。



「それはしたのじゃが音沙汰無しでな。それがまた不気味なのじゃよ。最も、リントブル聖王国が儂らに何かを仕掛けてくるとしても、リク殿と敵対することと比べれば大した事は無いしの。その考えはストビー王国も同じじゃろう」


「それもそうですね」



 ロイドは自分の生まれた国だからこそ、リントブル聖王国が絶対に降伏なんてしないことは分かっていた。そして、リントブル聖王国の戦力は日を重ねるごとに増していて、心配する必要などないはずだった。その相手がリクでなければ。もし、リントブル聖王国がデルガンダ王国とストビー王国に戦闘的な意味で仕掛けたとしたら、リクは十中八九リントブル聖王国に敵対する。そうなれば滅ぶのはどちらかなんて想像は付く。最も、リントブル聖王国の幹部は何か秘密兵器を隠しているような素振りをしているのをロイドは何度か見ているため、一概にそうとも言えなかったりするのだが。



「陛下、僕は本国へ戻ろうと思います。間違いなく、リクの実力を理解していないでしょうし」


「儂に勇者の動向を制限する権利はない。別に許可をとる必要はないぞ」


「そういえばそうでしたね。では、私はこれで」



 そう言ってロイドはすぐに支度を済ませ、リントブル聖王国へと急いだ。





 ロイドは馬を使わず、自分の足で最短距離を通り、ものの数日で走り抜いた。

 関所を通らなかったため連絡は取れていなかったが、ロイドの顔は勇者として広く知られていたため本国に着くと門番はすぐに扉を開いた。

 ロイドはこの国の状況を知るべく、急いで城へと向かった。

 その途中で他の二人の勇者、レイスとモンドに出会う。



「ロイド! 戻ってきたのね!」


「今戻ったのかい?」


「あぁ、今戻ったところだ。久しぶりだね、二人とも」


「もう少し早ければ助かったんだけどね……」



 そう言ってロイドを出迎えたのは同じ勇者であるレイスとモンドである。ロイドは急いでいたが、モンドの最後の言葉が気になり、話を聞くべく近くの喫茶店に入ることにした。



「……何かあったのか?」


「実は――」



 レイス達はロイドがいない間に起こった出来事を話した。子供の魔族が突如一人で近くの森の中に現れたこと、二人が他の手慣れと一緒にその魔族を庇った何者かに返り討ちにされたこと、その者が国の研究員であろうこと、白銀の鱗を身に纏ったドラゴンに乗ってメノード島の方向へと逃げて行ったこと。



「それで、あんたの方は何があったの?」


「気持ち悪いぐらいの豹変をしているんだから、余程の事があったのだろう? 最も、その変化についてはむしろ正解だと思うけどね」



 そんな二人の面白いものでも見るような表情に、不満の表情を見せつつも自分の経験したことを話し出した。





「あんたが剣術で負けたの!? あんたが!?」


「手紙に書いただろ?」


「いや、そうたけど……」


「ロイドに剣術で圧勝して僕らに魔法でも勝てるなんて……」



 二人が落ち着いたのを確認してから、ロイドは本題に入る。



「ルトイロ教皇に説明して宣戦布告を取り消してもらおうと思う。手伝ってくれないか? リクが戦闘に対して積極でないことも、敵対するような相手でもないことも僕が保証する」


「私は良いわよ。正直、あんなの勝てる気がしないし」


「僕も手伝うよ。ロイドがそこまで言うのなら正しいのだろう。君は素行こそ褒められたものじゃなかったが、嘘はつかないし正義感だけは無駄に強かったからね」



 モンドの言葉に不満そうな顔を浮かべたロイドだったが。二人は真面目な顔に戻って話を続ける。



「ドラゴンの大群が来て勝てるかどうかはともかく、一撃で消し飛ばせるような魔法、私たちは使えないし、そんな魔法に対抗する手段なんて持っていない。戦わなくてすむのならそれに越したことはないわ」


「それにロイドの話だと害はなさそうだし、あんな実力を持っているなら仲良くした方がメリットが大きそうだしね。問題は教皇様を納得させられるかどうかだね」


「僕の話を聞いて考えが変わると良いんだが……」


「そればっかりは言ってみないと分かんないわね」


「もう既に一度返り討ちに合っているし、多少は考えてくれるんじゃないかな」



 話が決まると、三人は教皇のもとへと足を進めた。



「そう言えばレイス、なんでリクがこの国の研究員だと思ったんだ?」


「あぁ、それは――」



 それを聞いてロイドは一気に青ざめる。ロイドは聞いていたのだ。陛下やギルドマスターから。リクがストビー王国で何をしたのかを。そこで何があったのかを。勿論、魔法を無効化されたことも含めて。

 そして、ロイドは二人に話した。自分の国を疑うようなことはしたくなかったが、言わない訳にはいかなかった。もしこれが事実ならば、リントブル聖王国は――。

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