第20話 天才魔法使い、弟子同士の戦いを観戦する

「相変わらず凄いことしてますね……」


「師匠だからなぁ」



 その反応にも慣れたものだ。もう何の違和感も感じない。

 そんな悲しみに一人明け暮れていると、ふいに声を掛けられた。



「リク、そろそろストビー王国に戻してもらえますか?」


「分かりました。先に戻りますか?」


「リクは戻らないのですか?」


「僕は街に遊びに行ってる皆を待ってから戻ります」


「そういうことなら私も残りますよ」



 なんか申し訳ないな……。

 そんな僕の悩みは知らないとばかりに、陛下が声を掛けてきた。



「それでリク殿達は何の話をしておったのじゃ?」


「僕の旅の話を少し」



 あえてアルたちとの話をしていたとは言わない。



「では後でゼルたちから聞こうかのう」


「分かりました」



 弟子たちの仕事を少し増やしてしまった。

 その後無駄話をしていると他の皆が帰ってきたので、ストビー王国に戻ることになった。ゼルたちに約束は取り付けたので、一応アルたちに報告しておく。



「よしっ!」



 何でそんなに対抗心を燃やしているのかは分からないが、別に本人のやる気を折る理由もないので黙っておこう。



「私、魔法の練習もっと頑張ります」



 初めて会った時よりも生き生きとした目をしている気がする。後は体系か。貴族のもとにいたときは一日二食の最低限の食事だったらしいのでみんな体のラインが異常に細い。

 伝えたいことは伝えたので、夕食へと向かった。



「主様よ、兵士たちの訓練が終わったら次はどこに行くのじゃ?」


「リントブル聖王国」


「あそこですか……」ボソッ


「エリン、何か言った?」


「いえ、何も言ってませんよ」



 気のせいか。



「それまではデルガンダ王国と同じ感じの日々になるから」


「魔法の練習をしながら堕落した生活をするってこと?」



 ルカの口から「堕落」なんて言葉が出てきたことに驚きが隠せない。



「……馬鹿にしてる?」


「してないよ。ルカは頭がいいなと思って」


「やっぱり馬鹿にしてるでしょ!」



 そんなに頬を膨らませて抗議しなくてもいいと思うんだけど。が、それを面白がる者が二人いた。



「ルカが堕落っていう単語を知っているなんて驚いた」


「知識の偏り方が面白いですね」



 アイラは平常運転として、エリンの煽りスキルはどこに行っても健在である。矛先が僕に向かないことを切に願う。



「うぅ……」


「二人とも言い過ぎなのじゃ」


「シエラさん……」



 珍しくシエラがカバーに入る。が、やはりシエラはシエラである。



「毎回そんなことを言っておっては霧がないのじゃ」


「「確かに」」


「……ぐすん」



 ルカ、三方向からの攻撃で見事陥落。

 翌日からはデルガンダ王国と同じ生活が始まった。違う所と言えば僕の魔法の練習の場所に移動するのが楽になったということと、食べ物ぐらい。何故か分からないが、この国の果物は柑橘系が多い。市場で買ったのはそうでもなかったが、城にあるものは以上に甘かった。





「これで終わりです。ありがとうございました」


「頭を上げてください。僕もそれなりの待遇してもらってますから」



 全ての兵士の訓練が終わった時、ラエル王女がお礼を言いに来てくれた。



「今日すぐに出るのですか?」


「後一泊だけお願いできますか?」


「それはいいですけど、何かあるのですか?」



 コテンと首を傾げるラエル王女に答えようとしたとき、後ろから声が掛かった。



「兄ちゃん!」


「準備できました」



 そこには背中に長さの違う二本の剣を背負ったアルと大きな杖を両手でぎゅっと握りしめたフェリアの姿があった。

 なぜか二人とも初日以外は僕のいないところで練習していたので、僕はには二人の実力は分からない。



「これは?」


「えっとですね、実は――」





 お昼過ぎ、僕らはデルガンダ王国の訓練場にいた。前日にゼルたちには連絡をしに行ったので準備はしてくれていた。



「ラエル王女が付いて来るとは思いませんでした」



 リエル様が付いて来るのはともかく、ラエル王女はこういう事は興味ないと思っていた。



「リクから才能があると聞いていたのであの二人の実力は一度見てみたかったんですよ」



 そういえばそんな話もした気がする。



「リクが才能があるというのは楽しみだな」


「そ、そうですね。私も楽しみです」



 リエル様はマルクス王子の隣にいるだけで楽しそうである。



「王女にも黙っていたのか。昨日突然訓練場を空けて欲しいと言われて驚いたぞ。こんな面白そうなこと、先に言ってくれればもっと盛り上げたのじゃが……」


「だからお兄ちゃんも言わなかったんじゃない?」



 その通りなんだけど、そういうことを言うのは止めて欲しい。



「アイラ、デザートばかりでなく肉を――」


「ご飯はもう食べたからダメ」


「要らないのなら私が貰いますね」


「落ち着け羽虫、要らぬと言っておらんじゃろ」



 中心で向かい合っている6人は至って真面目だが、観客席はこんな感じで随分賑やかである。話を聞きつけて時間が経つにつれ人が増えている。

 少しずつ周りが静かになってきた。中心の方を見ると、アルとフェリア、ゼルとユニが武器を手に取って向かい合っている。どうやら2対2にしたらしい。

 静まり返ったその場所に、審判の声が響いた。



「はじめっ!」



 ゼルとアルが同時に前に出て剣を交える。それと同時にユニが魔法を使おうとするが、フェリアの手元から魔力を球にしたようなものが飛んでいき、それが当たったユニの手元から魔力がはじけ飛ぶ。それによって、ユニの魔法は不発となった。



「おぉ、そんな使い方あったんだ」


「お兄ちゃん、何があったの?」



 皆の方を見ると不思議そうな顔をしている。言われてみれば体の外の魔力を感知できないと何が起こったのか分からないのか。当然、攻撃を受けたユニも不思議そうな顔をしている。

 取り敢えず皆に軽く説明をした。



「なるほど。その発想は私もありませんでした」



 そんな会話をしている間にも戦いは続く。アルは絶え間なく攻撃し続けるが、ゼルにすべて受け流されている。また、ユニはフェリアの仕業だとすぐに気づき、前に出ている二人を盾にして魔法を発動させる。フェリアの方はそのまま魔法を使えば二人のどちらかに当たるので移動するが、それに合わせてユニも移動している。身体能力に関しては今まで貴族の屋敷で働いていただけだったのでさほど高くないのだろう。すでに肩で息をしている。



「凄いのう、あの二刀流。我流じゃろうが相当な攻撃じゃ」


「防いでいるゼルの方も凄いですね」



 陛下とマルクス王子からもそんな素直な意見が飛ぶ。だが、前に出ている二人は最初は均衡していたが徐々にゼルが優勢になり始めた。ずっと二本の剣に魔力を流し続けているアルに対して、ゼルは当たる瞬間だけ、それも当たる部分にだけ魔力を込めている。魔力の消費量を比べれば圧倒的である。

 後方組の方は時々ユニから様々な属性の魔法が飛んでくるのを、フェリアが全て魔法で受け止めている。



「二人とも凄いですね。あんなに多くの種類の属性、なかなか使えませんよ」


「瞬時に判断して有利な属性を使って対応しているのも凄いですね。あの速度で魔法を出すのは難しいです」



 しかし、二人も魔力の量に差が現れ始める。フェリアが全て魔法で相殺しているのに対して、ユニは攻撃の方向を予測して避けたりしている。これまでの経験ゆえの技術だろう。もちろん、フェリアの方が魔力の消費は大きい。ここまで持ったのはフェリアの持っている魔力量のお陰だ。だが、それも限界が現れ始める。

 スタミナの問題で徐々に勢いを失っていく二人を見逃さず、ゼルとユニは攻撃を仕掛け、それを防ぎきれなかったアルとフェリアの負けとなった。周りからは惜しみのない拍手が送られた。

 終わったので僕らはみんなの元へと向かった。



「お疲れ」


「師匠の言ってた通り、二人とも凄かった、です。魔法が不発したときは、驚き、ました」


「やっぱりあれその子の攻撃だったの?」



 ゼナは薄々勘付いていたらしい。



「私たちもお兄ちゃんに言われるまで全く気付かなかった」


「僕もあんな魔力の使い方初めて見たよ」


「でも負けた……」



 ずいぶん悔しがっているが、魔法を学んで一週間であれはどう考えても異常である。寧ろ誇るべきだと思う。



「僕、二刀流のあんな猛攻初めて受けました」


「遠距離が主な攻撃の俺が受けたら絶対流しきれなかったぜ」


「あんな最小限の動きで攻撃を流されるとは思わなかった……」


「魔力を流す場所も最小限だったよね」


「師匠と違って僕の魔力量は大したことないので」



 そんな感じで皆でさっきの戦いのこと話し合って、戦いの膜は閉じるのだろう。そう思っていたが、さっきの戦いで観客席の方に移動していた兵士たちが随分とやる気になったらしく、すぐに模擬戦が至る所で始まった。



「君はアルでよかったかの?」


「? 兄ちゃん、この人は?」


「陛下だよ」



 僕の言葉を聞いたアルが随分とかくついた動きになる。



「あの、その、はい、そうです」



 すごく緊張しているアルを気にせず、陛下は熱意のこもった視線をアルに向けながら言葉を放つ。



「儂とも一戦どうじゃ?」


「え?」



 こちらを向いてどうすれば……みたいな顔をしてきたので頷いておいた。



「ぼ、僕でよろしければ……」


「父上、僕が先です!」


「落ち着けマルクス。お主には公務が残っておるじゃろう」


「それは父上も同じではないですか!」



 よく似た親子だなぁ。この国の大臣たちはこれからも大変そうである。



「フェリアちゃん」


「な、何でしょうか」


「ちょっと私と魔法についてのお話ししない?」グイッ


「わ、私でよければ」



 二人とも大変そうだなぁ。



「リク様、この子達はどうする?」



 アイラが連れてきたのはアルやフェリアと一緒に貴族の屋敷にいた子供たちだ。二人だけ連れて行くのもあれだったので連れてきたのだ。



「どうしようか。別に暫くこの街で遊んでてもいいんだけど」



 だが、子供たちは首を横に振った。なので、先にストビー王国に一緒に付いて来ていた大臣たちと一緒に戻した。二人の戦いぶりを見たせいか、「早く戻って訓練したいです」「もっと強くなりたいんです」そんな戦闘狂じみた発言も聞こえた気がしたが、僕は聞かなかったことにした。



「あれ、シエラとエリンは?」


「あそこ」



 アイラが指さした先にはデザートの乗った皿を間に何やら言い合っている二人の姿があった。そんな賑やかな一日を過ごしながら、翌日出発して向かう次に国に期待を膨らませるのだった。

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