第23話 冒険者、王都を守る

「どういう事だ?」



 マルクス王子がドラゴンたちの様子を見て呟く。ドラゴンは少し距離が離れたところで一斉に止まり、そのうち一匹がこちらへと向かってきた。



「僕がやろう」



 ロイドが剣に魔力を込め、ドラゴンに向かって行く。私たちは下手に近づいてドラゴンの注意がこちらに向けば足手纏いになると思い、向こうで止まっているドラゴンに注意を向けた。



「はあぁぁぁ!」



 ロイドの聖剣が赤い光の筋を伴ってドラゴンの首を刎ねた。すると、次は2匹のドラゴンがこちらへ飛んできた。



「まるで遊ばれているようじゃな」


「そうですね。ですが父上、これは私たちにとっては好都合です」



 マルクス王子の言う通り、少しでも時間を稼がなければならない私たちからすれば好都合だ。ドラゴンを生かしたまま時間を稼ぐほど余裕はないが、それでも一匹ずつ増えるのなら時間を稼げる。私たちは覚悟を決め、武器を握りしめた。





「ヴァン!」


「くっ!」



 ドラゴンの吐く炎を避けるために空中へと回避したヴァンの元へ、他のドラゴンが飛んでくる。咄嗟に足場を作ろうとするが……。



「魔力がっ!」



 私は向かってきているドラゴンの目の前に雷の魔法を放つ。攻撃のためのものではなく、バランスを崩すためのものだ。狙い通りドラゴンは体勢を崩し、ヴァンをかすめる。そのまま空中で態勢を整えて再び空へと飛んでいく。



「すま……ない……」


「いえ、気にしないで下さい!」



 そう答えて私はすぐに戦いへと戻る。向こうでは陛下と王子が息を切らせていた。今こちらへ来ているドラゴンは5匹。そのうち生きているのが3匹だ。内一匹を勇者が、一匹を陛下たち城の騎士、兵士、魔導士が相手をしている。残り一匹は私たちが相手をしていた。陛下たちの方を見ると、ほとんどがぐったりとしている。特に魔法で空中にいるドラゴンに攻撃していた魔導士はかなり疲労している。複数人で発動させる魔法はかなり消耗するらしい。



「持ってきたぞ!」



 王都へポーションを取りに戻っていた冒険者たちが戻ってくる。



「な、なぜ……」



 そこには冒険者だけではなく、孤児院のみんなや王都の戦闘のできない人も数多くいた。



「考えるのは後だ。陛下たちは先に回復へ行ってきてくれ」


「助かる」



 ドラゴンを倒したロイドが、陛下たちが相手をしていたドラゴンを代わりに相手をする。私は戦いながらみんなの状態を確認する。皆の支援に徹していた私と、地上へと落としたドラゴンの相手だけしていたゼルはもう少し持ちそうだが、支援魔法をかけ続けていたユニと空中にいるドラゴンの相手をしていたヴァンの消耗が激しい。



「ヴァンは回復に行ってきて!」


「っ、すぐに戻る」



 自分の状態をよく分かっているのか、少し悔しそうにはしていたが先に回復に行ってくれた。後はロイドが相手をしているドラゴンと私たちが相手をしているドラゴンだ。



「ゼル、私がドラゴンを落とすからその後お願い! ユニは目くらましをお願い!」


「「了解!」」



 私はできうる限りの魔力を集める。向こうのドラゴンはロイドが相手をしてくれているから、こいつを倒せばロイドが相手をしている間は大丈夫だ。出し惜しみ無しの一撃。



「ゼナ!」



 ユニが私に合図をする。ドラゴンが目を眩ませた瞬間に直径1メートルほどの炎の球をドラゴンに向かって飛ばす。



「ゼル!」



 私は膝をつき、息を荒げる。ゼルも私の意図を察したのか、剣に込められている魔力が今までよりもずっと多い。多分一撃で決めるつもりなのだろう。すでにかなりのダメージを与えているから大丈夫だと思う。



「はぁっ!」



 ドラゴンの腹部を切りつけた。そこからは大量の血と内臓が噴出し、ドラゴンはそのまま息絶えた。





「皆、王都を見捨てる気はないそうじゃ」



 陛下が諦め顔でそう話す。全員が残っているわけではないそうなので、私たちは時間稼ぎを続行することになった。



「もう少しで次が来るぞ!」



 その声に向こうを向くと、ドラゴンを倒したロイドがこちらに向かって来ていた。



「冒険者はこちらに集まってくれ」



 ギルドマスターによってドラゴンと戦うグループが作成される。だが、どう考えてもドラゴン相手にしては過少戦力だった。それでもここにいる冒険者たちは誰も文句を言わなかった。それぞれが覚悟を決めているのだろう。



1、ロイド

2、陛下と城の兵士、魔導士

3、マルクス王子と城の兵士、魔導士

4、ゼナ、ゼル、ユニ、ヴァン

5、残りの冒険者の半分

6、残りの冒険者の半分



 ドラゴンとの戦いにおける戦力の分布はこうなった。正直言って、師匠から教えてもらった技術がなければ勇者以外の者はドラゴンに傷をつけることすらできずに、既に全滅していたと思う。だからこそ、私たちは出来るだけ早くドラゴンを倒して他の助力に回らなければならない。ドラゴンを倒すのが厳しいと思われる冒険者たちは私たちが援護に行くまでの時間稼ぎが目的だ。





 ポーションや回復魔法である程度回復はしたが、みんな満身創痍だった。師匠のように折れた骨まで修復するような魔法なんて使える人はいないし、ポーションを使っても魔力が完全に回復するわけではなかった。それでも私たちは自分が担当するドラゴンを倒して、すぐに冒険者たちの助力へと向かった。



「皆さん下がってください!」


「相手はこっちだ!」



 ドラゴンの皮膚にヴァンの矢が刺さり、悲鳴が上がる。辺りには気を失っている者や、かなりの深手を負った者がほとんどだった。もう片方も同じような状態だったが、それでも諦めずドラゴンの注意を引いていた。



「急ぐぞ!」



 ヴァンの一声に頷き、私たちはこちらに飛んでくるドラゴンに向かって駆けだした。私たちの次に早く倒せそうなのはロイドだが、私たちのように4人に気を散らして死角を突くということが出来ないため、私たちと比べて時間がかかる。それでも一人で相手に出来ているだけでも大きな戦力であることには違いない。今ここに居る中で一人でドラゴンを相手取れるのは彼ぐらいだ。



「ユニ!」


「分かってる」



 ユニの手から光が発せられ、最初にドラゴンを倒したのと同じようにヴァンが空中へと飛ぼうとするが……。



「うわっ」



 もう一匹のドラゴンがこちらへと向かってきたので、ドラゴンの方ではなく地上に向かってヴァンは空中を蹴った。さっきまで注意を引いていた冒険者たちは皆、地面に伏せていた。二匹同時になんてどうすればいいのか。私は必死に考えるが、どうしても答えが出てこない。ロイドの方とちらりと見るが、もう少しかかりそうだ。それに、陛下とマルクス王子の方も翼を傷つけ、地上には落とせたものの苦戦をしているようだった。二匹は私たちを挟み、空中で口の中に炎を滾らせる。



「皆掴まって!」



 炎が私たちに向かって吐き出されるが、私たちを抱えてヴァンが真上へと飛ぶ。さっきまで私たちがいた地面は広範囲が焼き焦げている。それを確認したのもつかの間、空中にいる私たちに向かって二匹のドラゴンが口を開けて迫ってくる。



「くそっ、避けられねぇ……」



 私たちが諦めかけたとき、閃光と共に轟音が辺りに響き渡る。思わず瞑った目を開けると、ドラゴンがいたはずの場所から魔石が私たちと共に真下へと落下していた。そして、戦っていた人たちを眩い光が包み込み、その光が収まった時にはすべての傷が治っていた。

 私たちはブラッドウルフに囲まれたときに似たよな経験をしたのを思い出す。こんなことができる人に私たちは心当たりがあった。辺りを見渡すと、南西の方向から白銀の鱗をしたドラゴン。その隣に二人の女の子を抱えて空を走ってくる人影が見えた。その様子を見て怯える人がほとんどだったが、私たちは安堵していた。

 その人影は近づくにつれ、鮮明に目に映る。汚れ一つない真っ白なコートに、腰に刀を差した姿。抱えているのは青髪の子と頭から耳を生やした獣人だ。

 私たちは一気に緊張の糸が切れて、その場にへたり込んだ。

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