第08話 天才魔法使い、弟子が増える
<ドンッ>
扉が勢いよく開けられる。なんか前にもこんなことあった気がするが気のせいだろうか。
「おはよっ! お兄ちゃんっ!」
「あぁ、おはよう」
よく朝からそんな元気出るな。若さゆえってやつかな。僕もまだ若いはずなのだが、朝からルカみたいな元気は出ない。
「じゃあ、おやすみ」
二度寝すべく僕は布団の中へと戻る。昨日一日のイベントが濃すぎて疲れているのだ。睡眠ぐらいゆっくりとりたい。
「お~き~ろ~」
ルカに布団を取り上げられた。……寒い。アイラも寒かったのか僕に抱き着いてくる。アイラの体温が心地いい。僕の意識は再び夢の世界へと飛び立とうとしていたのだが……
「「ぐうぇ」」
ルカが僕らと十字になるようにダイブしてきた。もうちょっとましな起こし方をしてほしい。こういうところが、なんちゃってお姫様たる所以なんだろう。
「ねぇ、お兄ちゃん。なんでアイラと一緒のベッドで寝てるの?」ニコッ
あれ? そういえばなんでだっけ。旅の途中ずっと同じ布団にアイラが入ってきてたから慣れて疑問すら抱かなくなってた。
「慣れ?」
「慣れだね」
「ちょっと、二人で納得しないでよ!」
ルカに説明してから着替えを済まし、僕らはルカの案内のもと訓練場に向かった。
☆
訓練場は昨日決闘した場所だった。
「……僕の想像してた人数じゃないんだけど」
「すまない。昨日のことを見ていた城の兵士たちがリクに修行を付けてもらえることを何故か知っていてな。気付いたらこの人数だった」
「まぁ、よいではないか」
「……なぜ陛下も?」
お暇なんですかね?(失礼)
「無詠唱の魔法なんて学べる機会はなかなかないからのう」
「なかなかじゃなくてお兄ちゃんぐらいしか教えれる人いないんじゃない? お城の魔導士に聞いても誰も知らなかったし。お兄ちゃんに教えてもらえるようになってみんなに自慢したのよ!」
おぉ、みんなに自慢するくらい楽しみにしていてくれたのか。……ちょっと待て。
「ルカ、お城のみんなになんて自慢したの?」
「へ? 今日の午前中、お兄ちゃんに訓練場で無詠唱の魔法教えてもらうんだって」
お前かよ。僕の観光の時間が減るのもルカのせいか。そうかそうか。
「お兄ちゃん? ちょっと待って、私何も悪いことしてないよね?」
僕が笑顔を作った瞬間、ルカが頬を両手で守って後ずさる。アイラが後ろに回って手を引きはがしてくれたので遠慮なく頬を引っ張る。
「
「なんちゃってお姫様はこれだから。自覚が無いなんて余計たちが悪い」
「兄貴、私悪いこと何もしてないよね?」
「そうだね。ルカは悪いことなんてしてないよ。」ニコニコ
「ほら、兄貴だってこう言ってるじゃない!」
このシスコンは……。僕はこのやり取りを見てふと思った。ルカの性格はシスコン王子のせいではなかろうか。見るだけで止めようとしない陛下も原因の一つだろう。
閑話休題。
「まず詠唱の説明から。詠唱って言うのは……」
弟子4人組にしたのと同じ説明をみんなにした。目の前には城の兵士50人くらいとアイラと王族3人だ。兵士の方は実力者が集まっているそう。城の警備大丈夫なのだろうかと思ったのだが、陛下の寛大な気遣いによって許されてしまった。
説明が終わってからルカが質問してきた。
「お兄ちゃん、その魔力の流れを感じ取るのってどうするの?」
「僕が体に魔力を感じ取れる強さで流す。やった方が早いかな。ルカ、ちょっとこっち来て両手出して」
弟子にやったのと同じことをルカにもしてやる。ルカは普通に成功した。かなり疲れたようで、にやにやしながら横になっている。
「これでアイラに追いついた」
「今のはリク様に手伝ってもらってたから。一人でやるのはもっと難しい」
「リク、魔法の方は分かったが武器の方はどうやるんだ?」
あぁ、そっちの説明忘れてた。
「魔力を武器に流すんですよ」
実演をするために的になる大きな岩を魔法で作る。あ、木の枝がない。どうするかな。
「リク様、小石を作って使うとかは無理?」
何も言ってないのに分かってくれるアイラ。1か月の付き合いとは思えないな。そんなアイラに感謝しつつ僕は手元に手のひらサイズの小石と的になる岩を作る。魔力を込めて青い光を纏わせてからみんなに見せた。
「魔力を武器の表面に流すとこういう風になります。で、威力のほどはというと……」
小石を岩に向かって投げる。小石は岩を貫通して向こう側で転がって止まる。見ていたみんなの目が点になっている。
「まぁ、こんな感じです。で、上手くできてないとですね……」
もう一度小石を作って魔力を流す。小石を赤い光が纏い、はじけ飛んだ。
「赤く光って魔力を流したものは壊れます。なので、自分の武器に使うのは青い光を纏わせられるようになってからにすることをお勧めします」
「ちょっと待ってくれ、あの勇者の聖剣って赤く光ってたよな?」
マルクス王子が質問してくる。よく覚えてらっしゃることで。
「僕の見た感じですが、あの聖剣はこの作業を手助けしてくれるような仕組みになってるんじゃないですかね。武器が壊れなかった理由や、あの勇者にしか使えないところとか分からないことだらけですが」
「リクくらいに魔力を流せるようになればあの聖剣を壊せるのか?」
「あのくらいなら難しくないかと」
……やばい。なんか剣を持っている兵士たちの目がギラリとしだした。なんか勇者に恨みでもあるんですかね。まぁ、何となく想像は付くけど。その後、みんなに魔力を流して感知できるようにさせるのに1時間以上かかった。ほとんどに人がぐったりしていたので今日はここまでにした。僕の観光もあるので、授業は午前中だけだ。よし、早めに終わったし街を見に行こう。そう思ったとき、後ろから声が掛かった。
「リク、こんな感じか?」
マルクス王子の手には青い光を纏った小石があった。……マジですか。ちょっと早すぎませんかね。
「それができるなら武器に流しても大丈夫だと思いますよ」
普通に自分の剣に青い光を纏わせたマルクス王子。周りの兵士からは称賛の声が聞こえてくる。
「マルクス、一戦どうかの?」
振り向くと自分の武器に青い光を纏わせた陛下の姿があった。この血筋は天才なのか? まさかと思い、僕はルカの方に目をやった。
「ぐすん。なんで兄貴もお父さんもそんな簡単にできるのよ……」
「やっぱり私に追いついたなんて気のせいだった」
知ってた。ルカだもんね。なんちゃってお姫様だもんね。涙目のルカにアイラが追い打ちをかける。これでいつぞやの宣言通り泣かせたと言う訳ですか。いや、泣かせたのは陛下とマルクス王子か。
「ルカ、あの二人がすごいだけでルカができてない訳じゃないんだぞ」
「お兄ちゃん……えぐっ、慰めてくれるんだね……ぐすん。ありがとう」
ふいに後ろから金属音が鳴り響く。そこには陛下とマルクス王子が剣を交える姿があった。……陛下、見た目は50くらいなんだけどな。なにその動き。マルクス王子にも引けを取らないレベルなんですけど。
「甘いわ!」
「ぐっ!」
マルクス王子が上に剣を構えた瞬間、陛下の蹴りが腹にクリーンヒットして飛んでいく。……二人とも本気でやってますよね? さすがにやりすぎだと思うんですけど。マルクス王子が立ち上がった瞬間に合わせて陛下が剣をふるう。マルクス王子がそれを剣で右側に受け流して勢いそのまま回し蹴りを決める。が、手で受け止められてそのままバランスを崩される。すぐに首筋に剣を突き付けられ決着となった。
「まだまだだな、マルクス」
「くっ。まだ敵わないとは……」
陛下、現役時代どんだけ強かったんだよ。戦い終わった二人の周りからは称賛の拍手が送られる。離れた場所ではルカとアイラを何人かの兵士がほほえまし気な目で見守っている。人を集める才能があるから王族なのか王族だから人が集まるのか……。そんなくだらないことを考えながら、僕は午後の観光に思いを馳せた。
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