天才魔法使いは自由気ままに旅をする
背伸びした猫
第一章 旅の始まり
第01話 天才魔法使い、旅に出る
誰かの叫び声が聞こえる。そちらに目をやると腰まで伸びた蒼色の髪に同じく蒼い目をした少女が魔物を引き連れてこちらに逃げてきていた。12,3歳くらいだろうか。胸の大きさが残念なのはまだ成長期だからに違いない。僕は右手の人差し指を上に向け、スッと下におろす。次の瞬間。
<<<ドガーン>>>
雷が落ち、少女を追いかけていた
右の腰に提げた袋に入りきらなかった分は『アイテムボックス』に入れた。『アイテムボックス』は魔法のひとつで倉庫のようなものだ。手で触れているものをいれることができる。生き物以外なら入れられるし、荷物がかさばらないので便利だ。人によって大きさが違うらしいが、僕はまだ限界を感じたことはない。ちなみにわざわざ袋を持っているのはそっちの方がなんかかっこいいから。特に意味はない。
「え~と、あの……」
「えっと、何かな?」
声をかけられてハッとした。決して魔石を拾うのに夢中になって忘れていたわけではない。
「助けてくれてありがとう」
「僕は魔石が欲しくてやっただけだから気にしなくていいよ」
僕がこんなにお金を欲しているのは、手元に街に入るためのお金しかないからだ。両親は僕が生まれてすぐに亡くなったらしく、僕は村でたらい回しにされていた。村長の慈悲のお陰で、奴隷として売られることはなかったが、村の人たちにはいい顔をされなかった。あんまり裕福な村じゃなかったから仕方ない。
ある日、川に水を汲みに行った帰りに魔物に襲われた。その村の周辺はめったに魔物なんて出ないのだが、運がなかったのだろう。無我夢中で魔物から逃げているとき、無意識に魔法が発動した。咄嗟に魔物に向けて右手のひらを向けたときに突風が吹き魔物を切り刻んだ。体の中を魔力が流れる感覚に少し戸惑ったが、それからは一人になるたびに魔法の練習をした。「魔法の練習なんてしてる暇があったら働け」と大人たちに言われたせいで一人でこっそり練習せざるをえなかったのだ。村を出て一人で生きていけるだけの実力をつけるために僕は必死に頑張った。それが3年前。
18歳になった今日、僕が村を出たいから最低限の装備と持ち物が欲しいといったところ、村の大人たちは嬉々としてナイフと袋、お金を渡してくれた。お金が通行料分しかないのに気が付いた時にはすでに村から離れた時だった。ちゃんと中身を確認しなかった僕も悪いが、彼らも大概だと思う。そんな訳で、僕にはお金に換えられる魔石が必要なのだ。
「僕は街まで行くんだけど一緒に来る?」
「うん!」
こんなところに子供を一人にしておくほど僕は鬼ではない。街に着いたら誰かに押し付け……じゃなくて預けよう。街の兵士とかなら保護してくれるかな?
「私はルカっていうの。お兄ちゃんの名前は?」
「リクだよ」
「お兄ちゃんは何をしに街に行くの?」
「う~ん、観光かな」
旅人とか憧れてたんだよね。たまに村に来る旅人のいろんな地方の話を聞くのが僕はとても好きだった。特に目的地もないし、いろんなところを見て回りたい。そのためには道具がいろいろ足りないので、手に入れた魔石を換金して街で買いそろえる予定だ。そんな話をルカにすると、目をキラキラさせながら聞いてくれた。
「ふぅ、やっと着いた。後お腹空いた」
「ルカも~」
空をふと見上げると、きれいな夕焼けが見えた。門の前に居る兵士の人に通行料を払おうとしてルカの分がないことに気付いて焦ったが、その心配は必要なかった。なぜなら……
「なぜルカ様がこんなところに!」
……様? まぁいいや。理由は知らないけど兵士の反応を見る限りお偉いさんの親族とかだろう。僕は自分の分のお金を払って何食わぬ顔で街に入っていった。あれ、ここの街ってもっと人が多かった気がするんだけどな。何かあったのかな。前に用があって来た時とはもっと人が多かったはずなんだけど。すぐにでもご飯を食べたかったが、そのお金がないので冒険者ギルドに向かう。とりあえず魔石の換金だ。それにしてもすごい人数だな。街中とは反対に冒険者ギルドには人がひしめき合っていた。
「すみません、魔石の換金ってどこでやってますか?」
「あぁ、あそこだよ」
優しそうなお兄さんに場所を聞いてそちらに向かう。
「魔石の換金をお願いしたいんですけど……」
「分かりました」
そういって受付のお姉さんが僕の差し出した袋を受け取る。お姉さんが確認している間に気になることを聞いてみた。
「なんか前来た時より人が多いんですけど、何かあったんですか?」
「スタンピードが起きたんですよ。獣の森から
獣の森というのはここから南に行ったところにある森で、魔獣が数多く生息していることが名前の由来だ。その森まではここから真っすぐ道が伸びており、途中の十字の分かれ道を東に向かって歩くと僕のいた村に着く。そういえばルカが魔物から逃げてきたのってこの街と森の間だったような……。
そんなことよりも、今日の晩御飯は何にしよう。この街はシートルという名前で北側が海に面しており、魚介類を使った料理で有名なのだ。もちろん前来た時にはそんなお金などなく食べられなかったので、余計に楽しみだ。そんなことを考えていると、お姉さんがお金を持ってきてくれた。
「はい、どうぞ。これだけの魔石を持ってくるなんて、見かけによらず強いんですね。」
最後の一言必要ですかね? ふむ、10万ゴールドか。しばらく贅沢できそうだ。僕は少し浮かれた気分で街へと繰り出した。
☆
「うっま……」
なんだこれ。一食5000ゴールドとか書いてたから馬鹿じゃねぇのと思っていた過去の自分を殴りたい。手元に大金があるので、自分の好奇心に任せて買ってみたのだがこれは正解だった。ご飯の上には新鮮な刺身とぷりぷりの海老やホタテ、プチプチ触感のイクラがこれでもかとばかり乗せられていた。勢いあまっておかわりをしてしまった。育ち盛りだし、これぐらいは仕方ないと思う。
その後、お店の人に宿の場所を聞いてその場を後にした。
「二泊お願いします」
「二泊だね。6000ゴールドだよ」
お腹周りがふくよかな女将さんにお金を渡して部屋の鍵をもらうと、僕はすぐにベッドに倒れこんだ。一日でこれだけのお金を使ったのは初めてだ。そういえば『アイテムボックス』の中の魔石売ってないな。お金が無くなってからでいいか。
明日は観光ついでに旅に必要な道具をそろえて、街を出るのは明後日にしよう。そんなことを考えながら僕は意識を手放した。
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