第52話



 結局俺が高石を送っていくことになってしまった。

 なんで俺がこんなことを……。


「悪いね、送ってもらっちゃって」


「お前の差し金だろうが……」


 まさかこんな風にあの券を使うとは……。

 これからの俺の学園生活は一体どうなる事やら……。


「あ、ここが私の家だから」


「そうか、じゃあ俺はこれで……」


「さぁ、上がって」


「待て」


 高石は俺の手を取って自分の家に入れようとする。


「なんでそうなる」


「疲れてるでしょ? 上がって休憩していかない?」


「家の人は?」


「今日は遅くなるって」


「危険を感じるので遠慮します」


 俺は高石の手を振りほどき距離を取る。


「あん、残念。じゃあ今日はあきらめてあげる」


「ずっと諦めてくれよ」


「ウフフ、嫌よ~じゃあまた来週学校でね」


「あぁ……」


 俺は高石にそう言い、高石の家を後にした。

 

「はぁ、疲れた……」


 俺は荷物を持って自分の住んでいるマンションに向かって歩き始めた。

 八島との登校から始まり、最後は高石との下校で終わるとは……。

 いろいろな事があった研修合宿だったがそれももう終わりだ。

 明日はとりあえず休みだし、ゆっくりしていよう……。

 俺はそんな事を考えながら、マンションの自分の部屋に帰った。


「ただいまー……まぁ、誰も居ないけど……そういえば八島は帰ってきてるのか?」


 俺は荷物を置き、隣の八島の家のチャイムを鳴らす。

 

「はーい」


「ん?」


 俺は違和感を感じた。

 いつもの八島ならこんなチャイムを鳴らしても返事なんてしない。

 少しまって無言で鍵を開ける。

 しかし、今日は珍しく返事が返ってきた。

 だが、この声は八島では無いような……。

 俺がそんな事を思っていると、八島の部屋のドアが開いた。


「あ、やっぱり琉唯君か!」


「……なんでお前がここに居る……」


 八島の部屋から出てきたのは上屋敷だった。

 

「いやぁ~うちの親がなんか急用で親戚のおばさんの家に行っちゃってさ~、家に入れなくて困ってたら、絢葉ちゃんがうちに来いって」


「あぁ……そういうことな……」


 マジかよ、じゃあ今日の飯は一人分多く作らないと……はっ!

 なんで俺は八島と上屋敷の晩飯の心配までしてるんだ!?

 俺には関係のない話だろ!!

 

「んで、八島は?」


「えっと……その……寝てる」


「あぁ、疲れたのか。じゃああいつの部屋の掃除しながら起きるの待つわ」


「あぁ!! ダメダメ!!」


「ん? なんでだ?」


「いや……その……絢葉ちゃん……今……は、裸で寝てるから……」


「あぁ、いつもの事だから問題ない」


「へ?」


 何かと思えば、そんなことここ数週間毎日だったから慣れてしまった。

 俺は部屋に上がり、八島の部屋の掃除を始める。


「たく、どうやったらここまで汚く出来るんだよ」


「え、えっと……る、琉唯君って……絢葉ちゃんがその……」


「あぁ、裸族って話だろ? お前も家に上げてもらったってことは聞いたんだろ?」


 少し前に八島は言っていた。

 自分が部屋に居れるのは、自分が裸族をだと言うことを知られてもいい人か知っている人だけだと。

 だから、上屋敷が出てきた瞬間、八島が上屋敷にその事を話したのだろうと理解した。


「え! じゃ、じゃあ琉唯君も!?」


「知ってるよ……あいつ、俺が居ても全裸だから困ってんだよ」


「えぇ!? じゃ、じゃあ絢葉ちゃんのは……裸を!?」


「………見てない」


「いや、その間何!? 絶対見たでしょ! このエロ! スケベ!! 変態仮面!!」


「いや、変態仮面ではない……」


 俺は上屋敷にそう話た瞬間、しまったと思った。

 ここでぶっちゃけてしまえば、自動的に俺が八島の裸を見た事がバレてしまう。

 そりゃあ、女子がそんな話を聞いたら俺の事を罵倒してくるよな……。


「い、いや待て! し、仕方なかったんだよ! ひ、引っ越してきたばっかりで、ドアが勝手に開いて……それで……」


「うわぁ~……ここに性犯罪者がいる」


「ちげーよ!! 俺は何もしてねーよ!! 頼むからその眼をやめろ!」


 上屋敷はまるでゴミでも見るような目で俺をを見てきた。

 いや、確かに見てしまったのは悪かったと思うけど、何もしてないし……。


「何もしてないのも、男としてどうかと思う……絢葉ちゃん可愛いし、おっぱい大きいのに……木川君、本当に男?」


「じゃあ、どうしろって言うんだよ!!」


 上屋敷は俺を軽蔑しているのか、呼び方を戻していた。


「はぁ……まぁでも確かに……琉唯君がそんな事をするとも思えないし……事故ってことなんだろうけど……」


「し、信じてくれよ……」


「いや、全然信じるけど……それでも裸の女子が寝てる部屋に入るのはダメでしょ?」


「こいつは起きてても裸なんだよ……それにこいつが寝てる間に部屋を片付けないと、片付けて早々にこいつは部屋を汚し始める」


「あぁ、そういう事……」


 上屋敷は部屋の状況を見て、俺の説明に納得をしてくれたようだ。

 てか、昨日は家に居なかったはずなのに、なんでもう出発した日よりもゴミが散乱してるんだよ!

 俺はため息を吐きながら、上屋敷と共に部屋の清掃を始めた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る