第12話

「大丈夫! 買うのは下着だから!」


「余計ダメだわ」


 胸を張って言う彼女に俺はため息を吐く。

 知り合って少しして気がついたが、上屋敷は少しアホな気がする。


「流石に下着売り場に付いてこいとは言わないよぉ~」


「当たり前だ……はぁ……まぁ良いか……」


「良し! じゃあ行こう!」


 上屋敷に言われるまま、俺たちはショッピングモール内のアパレルショップに向かった。

「じゃ、俺はメンズコーナーに」


「そうね」


「……何故付いてくる」


「まぁまぁ、お気になさらずに~」


「気にするわ! 自分の見てこいよ……」


「良いじゃ無い。男子がどういう風に服を選ぶのか気になるし」


「別に普通だよ、それに今日買うのは下着なんだが……」


「別に良いじゃ無い、女子じゃ無いんだし」


「いや、嫌だよ」


「大丈夫大丈夫、私は気にしないから」


「俺が気にするんだよ。良いからお前は自分の下着を買いに行け」


「なんだよー冷たいなー」


「なんでだよ」


 俺がそう言うと、上屋敷ブーブー言いながらレディースコーナーに向かっていった。


「あいつも変わってるよな」


 上屋敷が離れたのを確認し、俺は自分の下着を選び始める。

 選ぶのにはあまり時間は掛からなかった。

 会計を済ませ、店の外のベンチで上屋敷を待つ。


「お待たせー!」


「おう、買ってきたのか?」


「うん、ピンクのやつ!」


「言わんで良い……」


 それを聞いて俺にどんな反応を求めてるんだよ。

 てか……ピンクか……って何想像してんだ俺は!?


「想像した?」


「してねーよ!」


 ニヤニヤ笑いながらそう言ってくる上屋敷。 こいつは人をからかうのも好きらしい。

 

「んで、次は何を買うつもりだったの?」


「まぁ、洗面用品だな……洗顔とかシャンプーとか……持ち物に書いてあったし」


「あ、私も新しい化粧水買おっと」


「あとは……まぁ新しいバックだな」


「無いの?」


「あぁ、引っ越した時に捨てちまってさ」


「そうなの? てか、引っ越したの?」


「あぁ、この春からな」


 そう言えば上屋敷には言ってなかったな。 まぁ、聞かれもしなかったんだが……。

 てか、よく考えると……俺、今こいつとデートしてるのか?

 男と女が一緒に買い物をするのはデートだって、強も言ってたしな……。


「ねぇ、どうしたの? 考え事?」


「ん? あぁ、まぁな……それより化粧水買うんだろ?」


「あ、そうだった! じゃあちょっと言ってきまーす」


「はいよ」


 その間に俺は隣の店で鞄を見るか。

 旅行用だし、少し大きめのやつが良いんだが……。


「うーん、これはなんかデザインがな……」


「あら、それじゃあこれなんか良いんじゃ無い?」


「あ、確かに良いな……って、早乙女!?」


「偶然ね! 私も買い物に来たのよん!」


「何を買いに来たんだ?」


「ん? 新しいファンデーション」


「お前……ついに化粧まで……」


「前からしてるじゃない?」


「買いに来るまでになってるとは思ってなかったよ」


「まぁ、昔は母さんのお下がりをとかを使ってたからね……今はバイトしてお金があるから」


「なるほどな……」


「琉唯ちゃんはバックを買いに来たの?」


「そんなところ……まぁ一人じゃないけど……」


「あら? そうなの?」


 早乙女とそんな話しをしていると、丁度タイミング良く、袋を持った上屋敷が俺たちのところにやってきた。


「お待たせーって……誰?」


「あら? 琉唯ちゃん、もしかしてデート? 妬けちゃうわねぇ~」


「え? 誰? もしかしてオカマさん!?」


「そうよ、何か悪い?」


 上屋敷の質問に早乙女は強気で答える。

 こういう質問を早乙女は今まで何度もされてきた。

 その度にバカにされてきたから、早乙女はこの質問が嫌いだった。

 これはまずいかもしれないな……早く上屋敷を早乙女から離した方が良いかもしれない。 そうじゃないと、早乙女を傷つけてしまうかもしれない……。


「おい、上屋敷……」


「あ! もしかしてあれでしょ! メチャクチャメイクが上手いっていう男子!」


「男じゃないの! 女なの!」


「ねぇねぇ! 私にも教えてよ! 男の子なのに凄いね!」


「だから男じゃないって言ってるでしょ! それに何? 貴方のそのメイク……全然なってないわ!」


「え? ダメ?」


「デートならもっと気合い入れなさい! 何よその薄い化粧は!」


「うーん、元々今日は一人の予定だったし……」


「日常では何が起こるか分からないのよ! 外出するときはフルメイク! これを覚えておきなさい!」


「分かりました! 先生!」


「物分かりが良いわね! 弟子にして上げるわ!」


「ありがとうございます!!」


 いや、なんでだよ!

 まぁ、俺が予想してた事態になれなくて良かったか……。

 上屋敷がそう言うのに抵抗無いやつで良かった。


「琉唯ちゃん、なかなか良い彼女ね」


「いや、彼女じゃねーし」


「あら? 違うの?」


「そうだよ? ただ仲が良いだけだよ!」


「いや、ただ委員会が一緒なだけ」


「え! 仲良いじゃない!?」


 俺がそう言うと、上屋敷は驚いた様子で自分にそう言う。

 まぁ、俺と上屋敷の関係はギリギリ友人関係ってところだろ。

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