第10話

 俺は晩飯を作りながら、八島が風呂から上がってくるのを待った。

 なんだろうか……クラスの女子が自分の家の風呂に入っていると思うと……少しドキドキするな……。


「はぁ……何ドキドキしてんだ俺……」


 俺はカレーの具材を切りながら、チラチラと風呂場の方を確認してしまう。

 別に覗きに行こうなんて考えては居ないが、なんでか気になってしまう。


「そう言えばあいつ……飯食ったのか?」


 あいつ……いつもコンビニの弁当ばっかり食べてるっぽいしなぁ……どうせ今夜もコンビニ弁当だろうな……。


「具材……もう少し切るか……」


 俺は冷蔵庫に仕舞った食材を再び取り出して切り始めた。

 すると、風呂場の方からドアを開ける音が聞こえてきた。


「……上がった」


「おう、そうか。おまえ飯は……ってなんで裸なんだよ!! 着替え持って行っただろ!」


「……家と間違えた」


「俺の部屋では服を着ろ!!」


 俺がそう言うと八島は風呂場の方に戻って行った。

 男と一緒だっていう自覚ないのか?

 それとも俺は男として見られていないのだろうか?


「はぁ……心臓に悪いぞ……」


「……お待たせ」


「出来れば今度からは気を付けてくれ」


「うん……」


「はぁ……給湯器はいつ治るんだ?」


「二週間後……」


「そうか、ならそれまでは俺の部屋の風呂を使えよ。それと……お前今日の晩飯は?」


「……コンビニの新作カップ麺」


 そう言って八島はどこからかカップ麺を取り出し、俺に見せてくる。

 カップ麺には『激盛り!! 豚骨醤油味噌バターマヨコーンラーメン』と書かれていた。

「カロリーの化け物みたいなもん食ってるな……」


「美味しい……」


 見た目に似合わず、以外と食ってる物はガッツリ系なんだな……。

 

「そんなんばっかり食ってるのか?」


「ん……まぁ……そんな感じ」


「はぁ……そんなんばっか食ってると体壊すぞ? 飯作れ無いなら、もっとバランス良く栄養を取れるように、スーパーでお惣菜とか買ってこいよ」


「面倒……」


「お前なぁ……カレー作り過ぎて困ってたんだが……食うか?」


「……良いの?」


「どうせ作り過ぎたんだ。それに、そんな体に悪そうな食べ物よりは良いと思うぜ」


「ん……じゃあ食べる」


 八島の親はなんで八島に一人暮らしをさせてるんだ?

 全裸で男の前に出てくるし、飯はカップ麺やコンビニ弁当ばっかり。

 親は八島のこの現状を知ってるのか?


「なぁ、八島はなんで一人暮らししてるんだ?」


「ん……うちの家庭……複雑」


「そうか、家庭の事情か……うちも似たようなもんだ」


 俺は八島と向かい合ってカレーを食べながら、そんな話しをしていた。

 家の事情だったら、言えないことなのかもしれないな。

 あんまり深く聞いても迷惑だろう。


「おかわり……」


「お前結構食うのな。まぁ、作った俺からしたら嬉しい限りだけど……」


 家族以外に食事を作るなんて、あまり経験が無かったが、美味しそうに食べて貰えると嬉しいもんだな。


「ん……美味しい」


「そうか? まぁ、結構食材とかこだわってるからな」


「良いお嫁さんになる」


「いや、俺は嫁を貰う側なんだわ……」


 そんな話しをしている間に、八島と俺の皿は綺麗に空になっていた。


「ふー、今回のはなかなかだったなぁー」


「ご馳走様……」


「上手かったか?」


「……うん」


「それは良かった」


「ねぇ……」


「ん? なんだ?」


「なんで……私によくしてくれるの?」


「え?」


 考えてみれば確かにそうだな……。

 別に俺が八島を世話する理由なんて無いのだが……。

 やっぱりあれだからかな?

 うちの両親と八島が似てるから、放っておけないのか?


「まぁ、細かい事は良いだろ? それより明日も学校だし、そろそろ部屋に戻れ」


 もう夜の20時だ。

 俺も洗濯したり、明日の準備をしたりしないといけない。


「ん……ありがとう」


「気にするな、じゃあまた明日な」


「うん……ねぇ……」


「ん? なんだ?」


「………ゴキブリ」


「ゴキブリがどうかしたか?」


「……また出たら……お願い」


 帰る間際、八島は玄関先で俺にそう言ってきた。

 いや、普通に定期的に部屋を掃除をしてくれればゴキブリは出ないはずなのだが……。


「出ない事を祈るよ。じゃあな」


「うん……お休み……」


「おう」


 八島は俺に別れを告げると、俺の部屋を後にして、自分の部屋に戻って行った。


「さて……俺も風呂に入るか」


 俺はそのまま風呂に入ろうと浴室に向かう。

「ん? なんだこれ?」


 風呂に入ろうと服を脱いでいると、俺は風呂場に何かが落ちているの発見してしまった。

「なんだこれ? 青い布? ……ってこれ!?」


 俺は手に取った瞬間、それが何なのか一瞬で理解した。

 俺はそれを持って急いで八島の部屋に向かった。


「八島! 忘れちゃいけないもん忘れてるぞ!!」


「……なに?」


 俺がドアを叩きながら、八島の部屋に向かってそう言うと、八島は直ぐに出てきた。


「ほ、ほら……こ、これ忘れたぞ……」


「ん? ……あぁ……私のパンツ……」


「広げるな! 良いから仕舞え!!」


「………エッチ」


「全裸で男の目の前に出てきた奴に言われたくねーよ!!」

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