第5話

 俺は買ってきた食材を使い、簡単な昼飯を二人分作って八島に出す。


「ほら、お待たせ」


「ん……ありがとう」


 俺が食事を用意すると八島は布団から出てきた。

 出てきたのだが……。


「な、なんで裸なんだよ!!!」


 また裸だった。


「ん……家ではいつもこう」


「少しは隠せ馬鹿!!」


 そう言う八島は全裸で机の前にやってきた。 しかもまったく隠そうともしない。

 なんなんだこいつは……無口だし、全裸だし……。

 俺は八島に背を向けて尋ねる。


「お、お前なんで裸なんだよ! 服を着ろ!!」


「それは出来ない……」


「なんでだ!!」


「なんか気持ち悪い」


「意味が分からん!! お前は恥ずかしくないのか!」


「一回見られた、もう平気……」


「なんでそうなる!!」


「別に裸を見られても気にしない……最初は恥ずかしいけど……私、裸族だし……もぐもぐ」


「飯を食いながら話すな!」


 裸族って……じゃあ昨日俺がドアを開けたあれも事故じゃなくて必然!?

 てか、なんでこいつは羞恥心も無く、俺の作った飯を裸で食ってるんだよ!


「はぁ……お前さぁ……部屋は汚いし、裸族だし、無口だし……少しは女らしくしろよ」


「面倒くさい……」


「なんでそうなるんだ……」


 俺は八島に背を向け、食事を済ませる。

 食事を終えても、八島は相変わらず裸のままだった。

 

「お前……いつも飯はどうしてるんだ? 見たとこ、コンビニ弁当とかコンビニの袋ばっかりだけど」


「……いつもコンビニ」


「少しは栄養有る物食えよ……体壊すぞ」


 なんで俺はこいつにこんな世話を焼いてんだ?

 はぁ……もしかしてあれか?

 こいつが家の両親に似てるからか?

 俺の両親は仕事の関係で怠惰な生活を送っていた。

 食事は基本俺が作っていたし、洗濯なんかも俺がやっていた。

 うちの親は正直俺が居ないと何も出来ない。 とは言っても、生活くらいは出来るだろうが……。

 出張先では家政婦を雇うって言ってたし、大丈夫だと思うけど、俺は今でも少し心配だ。

「はぁ……悪いが俺はもう帰るぞ、皿はこのまま回収して行く」


「ん……ありがとう」


「おう。あ、インターホン押されてもそのまま出ていくなよ」


「大丈夫、流石に服着る……」


「じゃあ、今も着ろよ……あと、鍵はしっかり掛けておけよ」


「ん、わかった」


「それじゃあな……」

 

 俺は八島にそう言って、部屋を後にした。

 食事の辺りからあいつの顔をまったく見なかったが、きっといつもの無表情だったんだろうな……。


「はぁ……なんか疲れた」


 俺は食器を持って部屋に戻ってきた。

 何やってんだろ……俺。

 てか、なんであいつは部屋に男と二人の状況で裸なんだよ!

 というか裸族って何!?


「はぁ……本格カレーを作る予定だったのになぁ……」


 俺はそんな事を考えながら、食器を洗う。

 しかし、あいつにあんな一面があったなんて……。

 

「人間、学校と家では違うんだなぁ……」


 俺はそんな事を考えながら、食器を拭いて棚に並べて行く。





 翌朝、昨日の入学式が終わり、今日の午後には新入生と在校生の顔合わせ会がある。

 受業は無いが、昨日と違って一日学校に拘束されると思うと憂鬱だ。

 俺はそんな事を考えながら、昼食用の弁当を作る。


「よしっ! 出来た!」


 時間も言い時間なので、俺は作った昼食を持って部屋を出た。

 鍵を掛け、俺はアパートの廊下を歩く。

 そう言えば、八島はもう起きて学校に行っただろうか?

 俺はそんな事を考えながら、通学路を歩く。 まぁ、少し寝坊してたとしても大丈夫だろう、あのアパートか学校までは近いし……。

 

「よっ!」


「ん? あぁ強か……」


「部屋は片付いたのか?」


「まぁな……大体終わったぞ。お前らは放課後どっか言ったのか?」


「あれだよ、早乙女のバイト先……オカマのマスターが居る喫茶店」


「あぁ、あそこか……」


「何? 呼んだ?」


「おう早乙女、おはよう」


 いつもの三人が通学路で合流した。


「あら、あの子新入生かしら? カワイイわねぇ~」


「早乙女、くれぐれも手を出すなよ……あの子は男だ」


「分かってるわよ~」


「うぉ! なぁなぁ! あの子可愛くね!? 新入生かな?」


「強は無謀な恋はするなよ」


「その通りね」


「どう言う意味だ!!」


 そんな話しをしながら、俺たちは学校に向かう。


「なぁ、今日お前の新居に遊びに行っても良いか?」


「はぁ!? なんだよ急に!!」


「なんでそんなに慌てるのよ?」


 教室に着くなり強がそんな事を言ってきた。 いや、別に全然良いんだけど……八島が隣に住んでることがバレたらいろいろ面倒だしなぁ……。

 でも、あいつは部屋から出てこないし……大丈夫か?


「ま、まぁ良いけど……」


「じゃあ、新居祝い持って行ってやるよ」


「まじか! 何くれるんだ?」


「まぁまぁ、楽しみに待っとけよ!」


「じゃあ、私も何か持って行かなきゃねぇ~」


「おぉ! 早乙女もか!」


「よし、決まった! 今日の放課後、鞄置いたら琉唯の家行くわ」


「あぁ、良いぜ。準備して待ってるよ」

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