第3話

「おい、早く帰ろうぜ~」


「どこかによっていく?」


「そうだな、早乙女おすすめの喫茶店にでも行こうぜ~」


「あら良いわね、お腹も空いたし、早く行きましょう」


「あ、悪い……俺はちょっと用事が……」


「用事? 珍しいな」


「あぁ……引っ越したばっかりで何かと入り用でな……」


「なるほどね、片付けとか買い物とかまだ終わってないのね」


「あぁ、そうなんだ早乙女……だから俺は今日はこれで……」


「まぁ、それは仕方ないな……部屋を片付けないと自家発電も出来ないもんな!」


「お前はそればっかだな……」


「男の子なんだから仕方ないわよねぇ~」


「早乙女、お前も男だろ……」


 二人に事情を説明し、俺は二人を見送り教室に戻った。

 後は八島のところに行って謝るだけだが……許してくれるだろうか?

 とりあえず土下座だろうな……なんとしても許して貰わないと、そうしないと俺の学園生活は終わってしまう!!

 

「くそっ! 昨日、不用意にドアを開けなければ!!」


 俺は昨日の自分を責めながら、教室に戻り八島を探す。

 しかし、八島は既に教室に居なかった。


「あれ? 居ない?」


 もう放課後と言うこともあり、既に教室に人は残って居なかった。

 うわっ……もしかしてもう帰った後だったりするか?

 だとすると、またインターホンを鳴らして……部屋で謝るしかないか……コンクリの上での土下座は少し痛いが……。

 俺はそんな事を考えながら、教室を後にし新居であるアパートに戻って行った。

 

「居るかな?」


 俺の部屋は302号室、八島の部屋は303号室で角部屋だ。

 俺は一旦部屋に鞄を置き、八島の部屋のインターホンを鳴らす。


『はい』


 昨日とは違い、今日はちゃんとインターホンに出た八島。

 俺は一瞬驚いた後、インターホンに向かって話す。


「あぁーあの……隣の部屋の木川なんだけど……」


 俺がそう言うとドアの向こうから足音が聞こえてきた。

 次第に足音は大きくなり、足音が消えた瞬間、ドアが開いた。


「……何?」


「あ……いや……昨日の事なんだけど……」


 わずかに開いた扉から、八島が俺の顔を見ていた。

 俺は顔を反らしながら話しを進める。


「あの……本当に昨日はごめん! 謝るから! どうか学校の奴にはバラさないでくれ!!」


 俺がそう言って頭を下げると、八島は無言だった。

 早くなにか言ってくれないだろうか?

 頭を上げるタイミングを完全に逃してしまった。


「あ、あの……八島さん?」


「……別に言わない」


「え!? ま、マジ!?」


 良かった!

 とりあえず一安心だ!

 これで俺の学園生活は守られた!


「じゃ、じゃあ俺はそれだけだからこれで……」


 俺はそう言ってドアを閉めようとした。

 しかし、そんな俺を彼女の細い腕が止めた。

「待って……」


「え?」


 八島はドアの隙間から俺の腕を掴み、俺が自宅に戻るのを止める。


「な、なんだ?」


「私の事も……言わないで」


「え?」


 私の事も言わないで?

 一体何の事だ?

 

「な、何の事だ?」


「……見たでしょ?」


「はい?」


 え?

 本当に一体何の事?

 全然分からないぞ……なんだ?

 何か俺見たか?

 まぁ、この子の裸は見たが……。


「な、何の事か分からんが、俺は君の何かを誰かに話すようなことはしないぞ?」


「………そう……なら良い」


「あ……」


 彼女はそう言うと掴んでいた俺の腕を放し、ドアを閉めた。


「変な奴だなぁ……」


 俺はそんな事を考えながら、自分の部屋に戻る。

 しかし、これでようやく肩の荷が下りた。

 これでようやく俺の新生活が始まる!!

 そうだ、そう言えば買い物に行かないと今晩の飯も無かったんだ!

 俺は冷蔵庫の中が空だということに気がつき、スーパーに向かった。

 昔から両親の帰りが遅かったこともあり、俺は料理は得意な方だ。

 最近は食べたい物をネットで見つけて、自分で作って食べるのが趣味のようになっていた。

 

「一人だからこんなもんで良いか……」


 俺は買い物を済ませ、自宅に帰ってきた。

 昼食は少し凝ったカレーでも作ってみようなんて考えながら、俺は部屋の鍵を開ける。


バゴン!!


「ん? なんだ?」


 鍵を開けて部屋に入ろうとしたところで、隣の八島の部屋から大きな音がした。


「大丈夫かなぁ……」


 すこし心配になってしまう。

 まぁ、恐らくベッドから落ちたとか、何かを落としたとかだろうけど……。

 そんな事を考えながら、俺は部屋に入って冷蔵庫に購入した食材を仕舞っていく。


バゴン!!


「またか……」


 またしても隣から大きな音が聞こえてくる。 一体どうしたんだ?

 まさか……強盗!?

 いや、そんな訳ないよな?

 でも……女子高生の一人くらいだし……。


ドゴン!!


 まただ……。

 も、もしかして本当に強盗とか泥棒とかか?

 

「あいつ……大丈夫かな?」


 知っている奴だからから、俺は少し心配になってきた。

 少し様子を見に行ってみるか?

 インターホン鳴らすくらいしてみるか?


ガタン!!


 考えているうちに、またしても大きな音が聞こえてきた。

 流石に俺は心配になり、部屋を出て隣の部屋に向かった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る