隣の部屋の裸族さん

Joker

第1話

 裸族と言う言葉を知っているだろうか?

 裸族とは、自宅やホテルなどのプライベート空間で裸、もしくは裸に近い格好で過ごす人たちの俗称を言う。

 もちろん、俺は裸族じゃないし、裸族の知り合いなんて居ない。

 それに、早々裸族なんて居ないと思っている。

 しかし……なぜか……俺の目の前には、自分の部屋で服を一切身に纏っていない女性が一人立っている。


「あ……え!?」


「………」


 そもそもなんでこんな状況になっているかを説明しよう。

 俺の名前は木川琉唯(きかわ るい)、この春、親の都合で一人暮らしを始めた高校二年生だ。

 俺は引っ越しを済ませ、お隣に挨拶をするために隣のこの全裸の女の子の部屋にやってきたのだ。


「す、すいません!!」


 俺は咄嗟に背を向けて扉を閉める。


「な、なんだったんだ……」


 偶然開いていた扉を開けてしまった事が、俺の間違いだった。

 そりゃあ、インターホンを押して返答が無いんだ。

 出られない状態なのか、居ないかのどちらかに決まってる。

 

「ミスったなぁ……」


 俺はため息を吐きながら、これからの一人暮らしの事を考える。


「最悪の第一印象だよなぁ……」


 そんな事を考えながら、俺は自分の部屋に戻って行った。

 綺麗な白い肌、細長い手足、そして高校二年生には刺激が強すぎる大きな胸……。

 

「デカかったなぁ……」


 そんな事を部屋で考える俺。

 俺の息子も今日は元気いっぱいの様子だ。

 

「タイミングが悪かったな……うん、そうに違いない」


 今度ちゃんと謝りに行こう。

 インターホンを鳴らしたとはいえ、勝手に部屋に入ったのはまずかった。

 それに、向こうも気にしているかもしれない。

 美味しいケーキでも持って謝りにいこう。

 俺がそんな事を考えながら、部屋のダンボースを開けて荷ほどきを始める。


「しかし……可愛い子だったなぁ……」


 あのスタイルであの容姿……絶対に彼氏が居るよなぁ……。

 隣に若くて綺麗な人が住んでいればラッキーだとは思ったが……まさか若くて綺麗な全裸の女の子と出会えるとは……。


ピンポーン


「ん? 誰だ?」


 俺がそんなことを考えていると、部屋のインターホンが鳴った。

 一体誰だろうか?

 先日頼んだカラーボックスがもう来たのだろうか?

 俺はそんな事を考えながら、部屋のドアを開ける。


「はーい!?」


 俺はドアを開け、インターホンを押した人物を見た瞬間驚いた。

 なんと、先程隣の部屋で全裸になっていた女の子が立っていたからだ。

 もちろん、今は服を着ているが……。

 い、一体何の用だろうか?

 も、もしかして……訴えるとか言い出すんじゃ……。


「これ」


 そう言って彼女は俺に何かを渡してきた。


「え?」


「落とした」


 彼女は短くそう言うと、俺にペンを渡してきた。

 そう言えばポケットに入れていたペンが無くなっている。

 先程、この女の子の家で落としてしまったようだ。


「す、すいません、ありがとうございます……」


 目が合わせられない……。

 さっきまで裸だった女の子を目の前にするのは緊張する。

 謝った方がいいよなぁ……。


「あ、あの……先程はその……」


「……別に良い、気にして無い」


 彼女はそう言うと、無表情のままその場を去って行った。


「……はぁ……ビックリした……」


 俺はため息を吐きながら、一人になった玄関先でそう呟く。

 しかし、近くで見るとますます可愛い子だったな。

 ショートカットで背も低い、おまけにあの胸……。

 

「ロリ巨乳って……実際居るんだ……」


 俺は今日一日、その事で頭がいっぱいだった。





 一人暮らしになったと言っても、別に転校した訳では無い。

 両親が仕事の都合で海外に行ってしまった為、俺は一人暮らしをすることになってしまったのだ。

 家族で住んでいたマンションは俺一人には大きすぎるのと、家賃が無駄だということで引き払い、新しいマンションに俺は一人で越してきたという訳だ。


「よし、さて行くか!」


 今日は高校の始業式だ。

 俺は制服に着替えて、部屋を出る。

 慣れない通学路だからと早めに出たのは良いが、いつもより早く学校についてしまいそうだ。


「よぉ、琉唯」


「ん? なんだ向井田か」


「何だとは何だよ」


 通学途中の俺に話し掛けてきたのは、向井田強(むかいだ つよし)。

 小学校からの腐れ縁で、基本的にいつも一緒に居るやつだ。


「引っ越し終わったんだろ? どうだよ、夢の一人暮らしは」


「まぁ、前から親は家にあんまり帰って来なかったからなぁ……住む場所が変わっただけって感じかな?」


「それだけか? 一人暮らしだぞ!? 何をやってもバレないんだぞ!」


「じゃあ、お前は一人暮らしをしたら、部屋で一人で誰にも知られずに何をするんだ?」


「エロゲー」


「しょうもな……」


「うるせぇ! こっちは両親と姉貴から隠れてこそこそプレイしてるんだよ! 堂々と出来るとか、どんだけ良いんだよ!!」


「俺はやらないから分からん」


 俺と強がそんな話しをしていると、今度は誰かが俺の肩をトントンと叩いてきた。


「おはよう、私も混ぜて頂戴」


「あぁ、おはようごろ……」


「五朗って呼ばないで!!」


「あぁ……はいはい」


 話し掛けてきたのは、早乙女五朗(さおとめ ごろう)。

 オネェっぽいイケメンだ。

 早乙女は自分の名前の五朗が嫌いらしく、名前で呼ぶと怒る。

 たまに視線が怖いが、基本的には世話焼きの良い奴だ。 

 たまにトイレの個室に誘って来るが、良い奴だ。


「なに話してたのん?」


「こいつ、昨日一人暮らしの部屋に引っ越しただろ? だからその話しをしてたんだ」


「あら良いわね、お隣さんにはもうあいさつした?」


 早乙女にそう言われた瞬間、俺は昨日のあの出来事を思い出す。


「あ、あぁ……ちょっと……早速隣人トラブルがな……」


「あらま、それは大変ねぇ~。何かあったの?」


「いや……なんと言うか……」


 言っても信じないだろうなぁ……。

 ドアを開けたら、全裸の美少女がいたなんて……。

 

「まぁ、なんていうか……見てはいけないものを見てしまったんだ……」


「なんだよそれ? もしかして、ドアを開けたら、裸の女の子が居た、なんて言うんじゃないよな?」


「もう、強ちゃんったら何言ってるのよぉ~、強ちゃんが好きなエロゲーじゃないんだからぁ~!」


「それもそうだよな? そんなの現実であるわけないよな?」


 あるんだよ……それが。

 そりゃそうだよな。

 それが普通の反応だわ……。 


「は、はは……そ、そうだよなぁ……」


 俺が苦い笑みを浮かべながら、そんな事を話していると、学校の校門が見えてきた。

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