ふたりの秘密

彩夏

花火

 その暑い夏の日、私はクーラーのきいた涼しい部屋で、いつもと同じようにぼんやりと窓の外を眺めていた。

 そこに君が駆け込んできて、言ったんだ。


「花火を見に行こう」、と。



―――――

――――――――――…



「ね、ねぇ、バレないかな?」

「大丈夫だって!誰にも話してないしな!」

「うーん、でも…」

「いい加減、覚悟決めろって!」

「今そういうセリフ言うほどの状況じゃないと思う…」


 そんなとりとめのない会話をひそひそ声で交わしながら進む私がいるのは、花火大会の会場。あと五分もしないうちに花火が始まる、いつもなら外にいるはずのない時間。これでも一応、抜け出してきているのだ。のんきに辺りを見渡している幼馴染み、瀬戸川せとがわ 海斗かいとの横顔をじとっと睨むけれど、気付いてないみたい。


 ふいにどんっと大きな音がして、思わず肩が揺れる。それを見て、海斗がにやりと笑った。少しムカッとする。


「…なに」

「いやー?…あ、上見てみろよ」

「むぅ……わ」


 そこでは、キレイな炎の花が咲いていた。マンガとかで見たことはあったけど、実物はやっぱりすごいなぁ…初めて見たからか、胸がどきどきと高鳴っている。

 …けど、きっとこれは、花火を見たからってだけじゃない。


 

 きっとこれは、海斗がいるから、なんだろうな。




 十五分くらいで花火は終わったけど、私はわずかな時間だったように感じた。そのあとは屋台を冷やかして回り、遅くなり過ぎないように、大人にバレないように、そっと元いた部屋に戻った。

 にかっと朗らかな笑みを浮かべながら去っていく海斗に手を振りながら、私は今日のことをふたりの秘密にしよう、誰にも話さないでおこう、と心に決めた。

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