ヤキモチ
「む~っ! ピカお姉ちゃんは私のだよ! ヒロ坊にはあげない!」
イチコ達がヒロ坊くんのことで私を冷かしていると、千早が口を尖らせて拗ねたようにそう言いつつ、私の腕に抱きついてきました。ほんのりと桜色に染まり、しっとりとした感触の千早の肌が触れます。私はそれに、ホッとするものを感じました。
なぜなら、以前は、食習慣、生活習慣、ストレス等々の影響故か、千早の肌は子供とは思えないくらいに荒れていて、キメも荒く、今のようななめらかさがなかったのです。それがすっかり改善され、子供らしいみずみずしい肌を取り戻したことは、私にとっても何よりでした。
そんな千早がヤキモチを妬く姿も、私にとってはむしろ喜びです。彼女が素直に私に甘えてくれるのは、それだけ信頼してくれている証拠でしょうから。
「ありがとう、千早。あなたのその気持ちは私にとって励みです」
『ヒロ坊にはあげない!』
千早はそう言いますが、それは彼女の本心も含んだものでもあるのは分かりますが、しかし同時に、私の彼に対する気持ちを否定するものでもないことは、彼女の普段の様子からも分かるのです。
彼女はただ、実の母親に甘えられなかった分を私で取り戻そうとしているのだということが。
だから彼女の言う『ヒロ坊にはあげない!』は、自分の母親を取られそうだと感じている子供のヤキモチに近いものだと感じます。なにしろ、海に行った時には、ヒロ坊くんに声を掛けた女性達に、
『ヒロはピカお姉ちゃんのなの!』
と言ってくださったのですから。私と彼のことは認めてくださっているのです。それでも、私と離れたくないのでしょう。
そんな気持ちを私に向けてくれていることが、何より嬉しい。
『ありがとう』と言った私に、千早はさらにぎゅうっと抱きついてきました。
「大丈夫ですよ。私はどこにも行きません。たとえヒロ坊くんと結ばれても、あなたの傍にいます……」
「……」
私の言葉に反応し、千早の腕にまた力がこもるを感じたのです。
などと、私達がそうやって賑やかにしている様子を、絵里奈さん、玲那さん、沙奈子さんが楽し気に見ているのが分かりました。
「申し訳ありません。ゆっくりできないですね」
いささか騒々しくしすぎたかもしれないと感じてそうお詫びさせていただいた私に、絵里奈さんは、
「いいええ、こういうのは楽しい方がいいと思います」
と満面の笑みを返してくださいました。とても美しい笑顔だと思いました。
さすがにお風呂の中にまではスマホを持ち込めなかった玲那さんが、絵里奈さんと並び、やはりにっこりと笑顔を浮かべてくださいます。
お二人に比べて沙奈子さんの表情ははっきりとした笑顔ではありませんでしたが、それでもとても穏やかで、リラックスしてらっしゃるのが分かりました。
このお三人も、本当に素晴らしい方です。この方々が幸せになれないような社会は間違っていると、私は改めて思うのでした。
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