娯楽

芸人によるお笑いライブの後は、学校の吹奏楽部によるアニメソングメドレーでした。私でさえ聞いたことのある有名なアニメソングが流れ始めると、お笑いライブの時にはあまり興味もなさそうにしていた沙奈子さんもステージに意識を向けます。


毎日のようにヒロ坊くんや千早と一緒にPCでアニメを見ていることで、それが楽しいものであると認識するようになったのかもしれません。


なにしろ、以前はアニメにさえさほど関心を示さなかったそうですから。


という以前に、メディアを含めた<外からの情報>を拒んでいるかのようにさえ見えましたね。


玲那さんに比べれば性的な虐待はなかったらしいとはいえ、それでも苛烈な虐待を受けてきた沙奈子さんにとっては、むしろ恐怖でさえあったのかもしれません。


だから最初は目を背けてもいたとのこと。


でも、楽しそうにアニメを見るヒロ坊くんの様子を見ているうちに平気になり、やがて楽しめるようになっていったようですね。


これは、沙奈子さんからとても信頼されている山下さんでさえできなかったことです。山下さん自身がアニメを含む<番組>に興味がなかったこともあるのでしょうが、同じ<子供>だからこその距離感も影響した可能性がある気がします。


しかも沙奈子さんだけではなくて、千早もそうだったのです。


千早は、どちらかと言えばテレビの中で誰かを<笑いもの>にするタイプの番組は好きでよく視ていたそうですが、アニメはそれほど好きでもなかったそうです。


いえ、厳密には、


『誰かを笑いものにする番組が好き』


なのであって、それ以外には興味がなかったと言うべきでしょうか。


人を蔑み、笑いものにすることを、<娯楽>と捉えていたようです。


そうすることで、


『自分より下の人間がいる』


と考え、それによって安心感を得ていたのだと思われます。


子供がそのようにして自分の心を守らなければいけない状況に置かれているという事態に対処できないようなら、大人などいる価値もないのかもしれないと私は感じてしまいました。


幸い、今ではヒロ坊くんやお義父さんのところにいる時間を作ることで他人を笑いものにして自身の心を守る必要もなくなったのでしょう。逆にその種の番組にあまり興味がなくなったそうです。


千早も沙奈子さんも、ヒロ坊くんによって救われたという一面もある気がします。もちろん、沙奈子さんの場合には山下さんや絵里奈さん、玲那さんの存在が一番大きかったのは確かですが、ヒロ坊くんと一緒にいることで、


『安心してアニメを視て楽しめる』


ようになったのもあるのではないでしょうか。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る