どれほどの地獄だったか

『今の私にそれを言う資格はないのですから』


そう申し上げた時、ビデオ通話で絵里奈さんもしみじみと語り始められました。


「私がいたクラスでも、そこまでじゃないかも知れませんが似たようなことはありました。


イジメられた子がそれに耐えかねてとうとう反抗したんです。それで何人かが怪我をして、でもそれはただの子供同士のケンカということで大きな騒ぎにはなりませんでした。


だけど、私も見てたんです。それがどんなに酷いイジメだったのか……


確かにそのイジメられてた子も、元々は少し態度が良くなくて意地悪で、私もその子のことは嫌ってました。それでクラスで結託してその子をイジメるようになったみたいです。


私はそれには参加しなかったつもりでしたけど、傍観者になることで結果的に協力してたんだと今は分かります。だから私も、星谷さんのことを責めたりできる立場じゃないって思います。


私が、傍観者だった自分が結果としてイジメに協力してたんだっていうのを認められるようになったのは大人になってからでした。高校生の星谷さんがそんな風に思えるのはすごく立派だと感じます。私にはできないことでしたから……


千早ちゃんのことは、いたるさんや沙奈子ちゃんや星谷さんに比べると私はよく知らないかもしれません。


千早ちゃんのお姉さんたちやお母さんがどんなことをしてきたのかも、教えてもらった範囲のことしか分かりません。そんな私があまり口出しするのも変かなって気がします。


でも、そういうことを抜きにしても、千早ちゃんがすごくいい子だっていうのは私も感じてます。沙奈子ちゃんの友達だからこそ幸せになってほしいって私も思ってます」


絵里奈さんのその言葉は、きっと彼女の本心だったのでしょう。それが伝わってくると感じました。


さらには、玲那さんからもメッセージが。


『私は、両親をはじめとした大人のことをずっと恨んでた。私をお金で売った実の父のことも、私をお金で買った人達のことも、そういう人達を放っておいて見逃してきた人達のことも。


だけど今は違う。絵里奈も沙奈子ちゃんもお父さんも、星谷さん達も私のことをちゃんと見てくれてるって実感あるんだ。


千早ちゃんもそうなんじゃないかな。みんなが自分のことをちゃんと見てくれてるって実感してるから、お姉さんたちやお母さんのことを冷静に見られるようになったんじゃないかな』


モニターに表示されたそれに、私は軽い衝撃を受けました。自身の過去をこれほどまでに赤裸々に明らかにする彼女の勇気に。


そう。私からはなるべく触れないようにしてきましたが、玲那さんは、実の両親から売春を強要されていたのです。しかも、僅か十歳の頃から。


それが幼い女の子にとってどれほどの地獄だったか、私には想像もつきません。それほどの目に遭った玲那さんが実の父親に復讐を望んでも私はそのことを責める気にはなれないのです。


なのに、事情を知らない、知ろうともしない世間は、彼女を<殺人未遂事件の加害者>として容赦なく責め立てたのでした。


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