守る為にこそ

「うわーっ、きゃーっっ♡」


イルカのショーが始まり、水飛沫が飛んでくるたびに、千早が歓声を上げます。そんな姿も、かつては見られないものだったそうです。だけど今では、当たり前のように彼女ははしゃぐことができています。


そんな千早と一緒に、ヒロ坊くんも笑顔でショーに見入っていました。


当然、イチコやカナやフミも、


「おーっ♡」


「すげーっ!」


「きゃーっ♡」


などと歓声を上げながら楽しんでいました。


さらには、玲那さんも。


先にも申しあげたとおり、玲那さんは今、声を出すことができません。だからその分、大きく手をたたいたりして歓声の代わりにしていました。


また、沙奈子さんも、大きな歓声は上げないものの、


「わあ…♡」


といった感じで、小さく声を上げたりもしていました。


そしてそんな玲那さんや沙奈子さんを、山下さんと絵里奈さんが嬉しそうに見守っています。


これは私も同じだったでしょう。


もちろん、ショーも楽しかったですが、私はそれ以上に、ヒロ坊くんをはじめとした皆が楽しんでいる様子が嬉しくて心が満たされるのを感じていました。


『ああ…こうして皆で出かけて良かった……』


とても心が満たされています。


辛く苦しい状況にあっても、人はこうして笑顔になることもできるのだと改めて教わった気もします。


それに寄与できたことが嬉しいのです。


かつての私は、自らを優秀と称して、他者を支配し操ることこそが正しい在り方だと考えていました。だからそうなるように、他者を支配し操る者として相応しくあろうと尊大に振る舞っても来ました。


だけどそれによって得たものは、今の私が感じているものに比べればはるかに味気なく、無味乾燥としたものだったように思います。


もちろん、私がかつて求めていたものにこそ価値を見出して、それを得ることで充足感を味わえる方もいらっしゃるでしょう。私が心地好く感じてるものこそが正しく、価値のあるものだと押し付けるつもりはありません。


ただ、私にとっては今のこれこそが心地好いというだけのことなのです。


そしてそれは、ヒロ坊くんが心地好いと感じているものと同じなのだと思います。


それがたまらなく嬉しいのです。


心が満たされるのを実感するのです。


なんという愛おしい時間……


イチコ達と出逢わなければ、私はこれを知ることもなく過ごしていたであろうと思うと、背筋が寒くなる気さえします。


だからこそ私は、この時間と空気感を守る為にこそ自らの力を発揮したいと改めて思うのでした。


そんな私に、


「すごね、ピカちゃん!」


と、彼が笑いかけてくれていました。


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