避難場所
去年の六月に転校してきたのですが、正直申し上げて、千早の時以上に不安を感じてしまったのも事実です。
それは、彼をめぐってのライバルになるかもしれないという以上に、彼女が抱えている家庭の問題が彼に影響を与えないかという部分でした。
沙奈子さんの家庭は、一言では説明が難しいほどの『訳あり』と言えたでしょう。
その背景も含めて調べるには私の力では到底足りませんでしたので、興信所、いわゆる<探偵>を雇い詳しく調べてもらうことにしたのでした。
そうしている間にも次々と事件が起きて、私は彼女について目を離すことができなくなっていったのです。
彼女が抱えている背景は、それほどのものとも言えるかもしれません。
ですが、それらの<事件>については、私の口から詳しく語るのは憚られますので詳しくは触れませんが、千早の家庭環境を上回るほどの大きな問題が起こっていたのは事実と言っていいと思われます。
それでも彼女は、血縁上の叔父である方の下で現在は幸せにしていて、彼女自身、自らの辛い過去にことさら振り回されることなく、歪むことなく、懸命に生きてらっしゃるのは確かでした。
だからそんな彼女を彼が放っておけないのは当然のことだったのでしょうね。
そして以前の私なら、千早の時のように沙奈子さんのことを警戒し右往左往したでしょうが、イチコと友人になるきっかけになった件をはじめとした一連の経験を経た私は、そのような形で狼狽えずに済んでいました。
軽挙妄動がいかに愚かしいことかを身をもって味わった私はもう、あの頃の私とはすっかり別人のようだと自ら感じます。
「こんにちは。今日はどうでしたか?」
私から詳細を述べることはしませんが、沙奈子さんは今、学校が終わるとそのまま
しかもそこには、千早もいるのです。
実は、千早自身が、お姉さん達と一緒にいることを拒み、夕食もお風呂も山仁さんのところで済ませた上で、ただ寝る為に家に帰るという毎日を送っています。
小学生の子供にとってそれは決して好ましくないことは承知の上で、それでもなお、お姉さん達による心理的な影響を考慮したことによって始まった対応でした。
しかも、それについてお姉さん方はおろか、千早のお母さんでさえ、『負担が減る』、いえ、『面倒が減る』と喜んでいる始末です。
千早や沙奈子さんのような子供達が、まるで救いを求めるかのように山仁さんのところに集まってくるのは、むしろ自然なことのように私には思えたのでした。
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