ブレイクスルー その3

千早さんのお姉さんのしたことは、間違いなく咎められるべき、咎められなくてはいけないことだと思います。


でも、同時に思ってしまうのです。


『もし、千早さんのお姉さんが今の千早さんと同じ歳の頃に私と出逢っていたら、今回のことは起こっただろうか……?』


と。


今の千早さんと同じように、<守られる側>だったのではないだろうか?


と。


千早さんが私と出逢ったのは単なる偶然のようなものです。本人の努力とかの問題ではないと思います。


そう考えると、憐れにも思えてきます。


しかも、私という後ろ盾を得た今の千早さんは、そういうものを持たないであろうお姉さんとは比べ物にならないくらいの大きな力を持っているのです。


もしその力を笠に着てお姉さんに今までの仕返しをしようとすれば、千早さんはそういう、他人の力に頼った生き方しかできない人になってしまうかも知れません。それが好ましいとは私には思えません。


千早さんのお姉さんに対して言った、


『私が警察に言えば動いてくれる』


というのは、実は嘘でもはったりでもありません。


今の警察署長は私の父とは昵懇の仲なので、少なくとも今なら本当に動いてくれるでしょう。


けれど私はもう、個人的な都合でそういうことをしていいとは思っていません。


だから、抜き打ち訓練という元々予定されてたものがあった警備会社の方を使わせていただいたわけですし。それでもまさかあれほどの絶妙のタイミングになるとは私も内心驚いていましたが。


『千早さん。今はまだ納得できないかもしれませんけど、いつか分かっていただけるまで私は何度でもお話させていただきます。何しろ他ならない私自身が、まさか自分がこういう考え方をするようになるとはほんの数か月前までは思ってもいなかったという実例として、ここにいるのですから……』


でも、もし……


「でももしお姉さんがまた理不尽な意地悪をしてきた時には、私に相談してください。たぶんあのお姉さんについては大丈夫だとは思いますけど、もう一人のお姉さんのこともありますからね」


そう言ってウインクさせていただくと、千早さんは、


「うん…!」


と大きく頷いたのでした。




その後はまたみんなでルーレットゲームをして遊んで、五時に解散となりました。


千早さんを家まで送り届け、改めて私の存在をお姉さんに認識させてから、名残惜しそうにいつまでも手を振る千早さんに応えつつ姿が見えなくなったところでタクシーを手配したついでに、事故になりかけた件についてタクシー会社に説明させていただき、いつもの場所でタクシーを待つために歩きました。


『しかしそれにしても今日は、いろんなことがあった気がしますね……』


昼過ぎからここまでだけで、何日も過ぎたような気さえします。


特に、千早さんとの関係がこんな風になるなんて、全くの想定外でした。なのに今の私は、とても心地良い倦怠感を感じていたのです。自分が何か一つ壁のようなものを破れたように感じていたのでした。


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