黒歴史 その2

私を知る人が殆どいなかったことでクラス委員長に選出されなかった私は、<手駒>を確保することで実質的な影響力を行使する方向へと思考をシフトしました。


その手始めとして委員長に選出された御手洗みたらいさんをまず、懐柔することとしたのです。


「副委員長として力になりたいと思います。何でもおっしゃってくださいね」


笑顔で話しかけた私に、御手洗さんも、


「ありがとう。一緒に頑張りましょうね」


と言ってくださいました。


『これは思った以上に早々に落とせそうですね』


そういう手応えを感じつつ、同時に、彼女の友人らにも声を掛け、


「何か困ってることがあったらおっしゃってください。相談に乗りますよ」


と言わせてもらったのです。そうすると、さっそく、


「私のお姉ちゃんがストーカーにつきまとわれて困ってるんだ…」


などと漏らした人がいらっしゃいましたので、父の知人の弁護士に相談し、そのストーカーに対して内容証明郵便による警告と、ストーカーの勤め先に対して、


「御社の従業員が好ましくない振る舞いをしています。これが表沙汰になれば御社にも少なくない影響が出ることと思われますので、ここは一つ協力していただけないでしょうか」


という形で圧力を掛け、つきまといをやめさせることに成功したのでした。


これが功を奏し、御手洗さんの友人達は一様に私を頼るようになってくれました。そしてその友人達が、言ってくれたのです。


「トイも星谷ひかりたにさんにいろいろ相談したらいいよ」


<トイ>とは、御手洗さんのあだ名のようですね。『御手洗=トイレット→トイ』ということのようですが、そのようなあだ名をつけている時点でどのような関係か察しがついてしまうというものでしょう。


上辺では仲のいいふりをしつつ、本人のいないところでは互いに悪口の言い合いというのが実態であり、しかもそれが『普通』だと思っているような人達でした。


そういう人達は、結局、メリットでしか付き合う相手を選ばないのです。だから、御手洗さんと付き合う以上のメリットを提供できれば、容易く私になびいてきます。


「あ…うん、そうだね……」


自分の友人だった人達が完全に私の影響下に落ちたことで、その空気を読まなくてはならなくなった御手洗さんは、これでもう、私の意向を無視できないでしょう。


そうして私は、一ヶ月ほどで実質的なクラスのリーダー的な存在になることができたのでした。


『所詮は下流の人達が通う学校です。やはり私のような優秀な人間が導いてあげなくてはダメだということですね』


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