お願いHELP! その3

『まさか誘拐…!?』


自分で言った言葉に、私は身震いしました。まさか、そんなことが…!? ああでも…!


「そうですよ。彼みたいに愛らしい少年だときっと需要があるに違いありません! 最近は男の子を狙った犯罪も多いと聞きます。もしや彼の魅力に目をつけた何者かが…!?」


不安を具体的に口にした途端、次から次へと悪い予感が込み上げて、私の体はわなわなと震えだしてしまいます。なのにイチコはそれでも、焦る様子すらありません。


「まだ十五分だよ。小さな子だったらそのくらい別に普通だって。確かに約束の時間に遅れたのはあとでお説教ものだけど、心配しすぎだって。


って言うか<需要>って何?」


どこまでも危機意識に乏しいイチコの言葉はもうほとんど私の耳には届いていませんでした。


「そうです。こうしてはいられません! 警察に捜索願を…!」


こんなところでいくら気を揉んでいても彼を見付けられるはずはありません。こういう時こそ迅速に対処しなければいけません。そのための警察組織のはずです。一刻も早く彼を救い出してもらわなければ!!


スマホを取り出し110番をコールしようとするのですが、焦りからか上手く操作ができません。しかもイチコが、


「こらこら、まだ早いって。もう、あんたは過保護ママか!」


と手を出して邪魔をしてきます。私にはそれが理解できませんでした。


『何故邪魔をするんです!? 彼のことが心配じゃないんですか!? 彼はあなたにとっても大切な家族のはずでしょう!? その帰りがこんなに遅いのに、どうしてそんなに呑気にしてられるんですか!?』


頭に血が上り、カッとなりかけたその時、


「ただ~いま~」


と、聞き慣れた声が私の耳に届いてきました。それは私が求めていた声でした。その声が聞こえた瞬間、私はスマホの存在さえ忘れて放り出し、梯子のような急な階段を有り得ないスピードで駆け下りていました。階段を降りきった先の玄関にいたのは、まぎれもなくあの愛おしい彼の姿だったのです。


良かった。無事だった。彼が帰ってきてくれた。私のもとに!


たまらない安堵感で崩れそうな体を支えながら私はほとんど叫ぶように声を出していました。


「お帰りなさい! 心配してたんですよ!」


そしてもう自分でも何をやってるのか分からない状態で思わず彼に抱き付こうとした私は、だけど開いたままの扉の向こうにいたもう一人の人影に気付いた瞬間、フリーズしたかのように動きを止めてしまいました。


『まさか……!?』


それは、見覚えのある顔でした。いえ、忘れようと思っても忘れられない顔でした。でも、なぜ、あなたがここに…!?


「あーっ!! あの時の不審者!!」


私を指差し叫ぶその人影は、まぎれもなくあの女、石生蔵千早いそくらちはやだったのでした。


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