29,おしごとの帰りに
なんだかいつも以上に気疲れしたので藤沢駅で途中下車し、駅近くのアニメショップに寄ってラノベを2冊購入してから再び電車に乗った。いつも通り帰りは最後部から3両目の13号車。
車両最後部の4番ドアから乗車すると、向かって正面、海側ドア脇の左側に猫島くんが立っていた。パーテーションにはもたれ掛からず背を数センチ離していて、着席している人への配慮が窺える。右肩にベージュのトートバッグを掛けている。
「あ、どうも、こんばんは」
「あ、どうもこんばんは」
「どうもどうも」
「どうもどうも」
「お出かけの帰り?」
「港の見える丘公園辺りを散歩してきた帰り。森崎さんは仕事?」
「うん、職場は鎌倉だけど、藤沢でちょっと推し事してきた」
「鎌倉でお仕事して藤沢で推し事。うん、なるほど」
相変わらず掴みどころのわからない人だなぁ。わたしもか。
ドアが閉まってエアーの抜ける音が聞こえたので、わたしは左手で吊り手を掴んだ。出入口付近の吊り手は高く、少し掴まりにくい。
これといった会話もないまま茅ケ崎駅に到着。雑踏の音に突き上げられ『希望の轍』を浴びる、いつもの帰宅風景。
人混みに歩調を合わせ、狭いホームを階段へ向かってとぼとぼ歩く。階段付近は反対方面の電車を待つ人が溜まり、通行を妨げている。
「それじゃ、わたしはここに寄ってくから」
「あ、僕も」
どうやら猫島くんも同じ店に用があったみたい。
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