第1章-プロローグ- 強引な出逢い
第1話 たとえ、その出逢いが強引だったとしても……
「ダン、ダン♪ ダンダン♪ ダン、ダン♪ ダンダン♪ さてさて、そろそろアナタの『答え』とやらを聞かせてはいただけますかね?」
「アンタは……この状況で俺に『断わる』って選択肢が残されてるって言うのかよ?」
俺は物語初っ端からラスボスさながらのBGMを背景に目の前にいる彼女と対峙し、睨み合っていた。そして俺達の周りには街の人達から野蛮なのに人畜
一体どうしてこんな状況に陥ってしまったのか……説明したい気持ちもまぁまぁあるのだが、ぶっちゃけ面倒なのでこれを読んでいる読者の
「いやいや、文字数稼ぎのためにもちゃんとイチから丁寧に説明して下さいよ。ワタシだって背景で流れるBGMをマイセリフとして口ずさみながら、頑張ってるんですからね! まぁほんとはアニメ化した際の
「まだ物語が始まって数行目だってのに、もう書籍化どころかアニメ化意識しやがってるんだよ……ってか俺のセリフじゃなくて、心の声(地の文)を勝手に
などと、目の前の少女に苦言を示しても何ら無意味かもしれない。そしてどうやらこの流れでは、これを読んでいる読者に対して、細かやな説明をせねばならないだろう……主に文字数稼ぎのためにな!!
それはほんの数分前の出来事だった。
「ふぁあ~っ。今日もダンジョンに行かなきゃなんねぇのかなぁ~? っとと、とりあえずいつもの所で朝飯でも食っていくか」
冒険者であるこの俺は憂鬱ながらに欠伸をし、日課であるダンジョン探索するその前に街の中心にあるレストランで朝食を食べようと足を向けた。
元々この街には何ら目立った産業も無いために重労働の基本儲からない農業ばかりの仕事しか無く、街の若者達は「仕事もなく、このままでは生活できない!」っと日々の糧を得るため都会の街へ出稼ぎに行ってしまい、人口は年々は減少するばかりだった。
だがそんなある日、突如として出現した
どうやらそのダンジョン出現の理由は、国を裏から牛耳っている『ギルド』共が地域活性化目的とこの街の人口減少を危惧し、本来なら敵である『魔王様』に直接お伺いを立て、街中央部に大規模なダンジョン・オブ・ジョイトイを誘致したらしい。またそれと同時に多額の支度金を『引越し費用』の名目で用意すると、魔王城からこちらのダンジョンへと住民票を移して引っ越すようにと、これまた魔王様に直接要請したとのこと。
『いやいや、それは二重の意味でダメだろ。そもそも街に敵方のボスを招いたら本末転倒じゃねぇかよ?』などと、今現在この物語を読んでる読者の方々は思われるだろうが、まぁぶっちゃけ俺達、名も無きモブ男にとっては人が来れば仕事が増え、延いては食べていけるだけの生活ができるのだ。そんな上の人間が考えるような些細な問題は眼中に無かった。
「……って、なんだよあの人だかりは?」
そんな説明文交じりに心の中で回想していると、いつものレストラン前に何故か茶色い動物の皮であしらった、迷彩服を着込んだ山賊らしき男達が十数人がただ突っ立っていた。一瞬、店が混んでいるため入れず行儀良く並んでいるのかとも思ったのだったが、どうにも様子がおかしい。
「何故ダメなのですか! ワタシはそんなの納得できませんからねっ!!」
「おい、女! そんな言い草はねぇだろ? 少しは礼儀ってモノをだな……」
どうやらあの中央で山賊達に取り囲まれ絡まれている少女が原因らしい。テンプレどおりならきっと何かしらの言いがかりを付け、金品ないし少女自身の身柄を要求しているのかもしれない。
「だからこうして
「はぁ? 何で俺達が馬鹿だっていうんだよ!!」
……いや、どうやら少女自身が山賊達に対して喧嘩を売っているのかもしれない。それは本来下げるべき頭を上げている時点でそうとしか思えない状況下であった。
「彼女はメイド……いや、魔法使いなのかな?」
「おいそこのてめえ? 何をさっきからジロジロ見てやがんだよ!? 喧嘩売ってんのか? ああん!?」
見ればその子は全身黒のメイド服に魔女が被るような大き目の帽子を被り、右手には
「あっ……いや俺は、そのぉ……」
(どうする? アイツに何て返答するよ、おい?)
『街のゴミ……いいえ、それはゴミに対して失礼でしたね。訂正いたします……では、あそこの
『いえいえ、
『つべこべ言わず、ただ黙って俺の
『山賊の仲間に加わり、お祭りに参加する』
(全然ロクな選択肢ねぇじゃねぇかよ!? 大体最初のはどこの
俺は何も答えぬまま、ただ黙って少女と山賊の間に強引に割り込むことにした。
「やれやれ、ほんっとに話が通じない方々ですね。ならば仕方ありません……もう話し合いはこれで終わりです。全員、このワンドの餌食にして差し上げますからね~っ!!」
ブンッ!!
我慢の限界だったのか、少女は持っていた聖杖を振り翳すと重々しい音と共に山賊のリーダーらしき男に殴りかかったのだ。
「おい、そこのオマエら!! その子、嫌がってるのが分からねぇのか? いい加減彼女から離れやが……ぶふぉあふっ!?」
だがしかし、運悪く俺が間に割り込んでしまったため、少女が振るうワンドで背中を思いっきり強打されてしまった。
「あいててーっ、って!? そ、そのワンド……魔力を増幅し伝える媒体じゃなくて近接用の武器だったのかよ!?」
俺は痛みから前のめりになりながら、強打された背中を右手で抑え少女に対して、苦情を示す言葉を言い放った。
「……アナタなんですか? 話をしているのに急に割り込んできて……馬鹿なのですか? もしかしてドMなのですかぁ?」
「……オマエなにしてんだよ? 人が話してんのに……アホぉぅなのか? 俺と同じく殴られるのが趣味なのかよ?」
そして何故か知らないが少女と山賊リーダーは意思の疎通ができているのか、二人して助けに入った俺を馬鹿にしている。
「いやいや、助けに入ってその言い草はねぇだろ!? ってかアンタら仲良しなのかよ!?」
あまりのシンクロ率に対して痛みも忘れ、スクっと立ち上がると更に強い口調で二人を言葉責めた。
「仲良しではありませんよ。ね?」
「仲良しじゃねぇぞ。な?」
目の前の美少女もまた山賊のリーダーらしき男も何食わぬ顔で仲良しアピールをしている。俺は「どこがだよ! てめえら、声ハモりまくじゃねぇかよっ!!」とは心の中で思っても一切口に出さず、このクソ野郎共が争っていた原因とやらを聞くことで、どうにか物語を進めることにする。
「……で、アンタらが争っていた原因は何なんだよ?」
「そんなのアナタには関係ありませんよね? 大体
「っんなのオマエには関係ねぇだろうがっ? この
(ええいチクショー共めっ! 何でそんな仲良しアピールしやがってんだよ!?)
どうやら飛び入り参加(俺)からの物言いに対してご不満があるようだ。ってかあんまモブモブ言うんじゃねぇよ……なんだかすっげぇ悲しくなっちまうじゃねぇかよ。
ちなみに『モブA』は第一村人で「ここは○○村だ」などと街や村の名前を紹介する役割で、そして『モブB』は「武器は装備しないと意味が無いぞ」など、ある意味誰でも知っている事を改めて教えてくれる役割である。しかもそれは命尽きるまで永遠にそのような『役割』『セリフのみ』しか喋れることができないのだ。それなのに『モブC』なんて言ったら……きっとそこらにただ突っ立っているだけの役柄であろう。
「はぁーっ……それでここにお集まりの方々は如何様で?」
主人公であるこの俺は大きな溜め息をつき、このままでは物語が進まないからと仕方なしに謙るような口調でその原因とやらを訪ねることにした。すると山賊リーダーの脇にいた俺と同じ顔も名も無きモブ山賊が補足説明をしてくれた。
「実はよぉ~、この姉ちゃんがここのレストランの新しいオーナーだって言うんだよ。別にそれに対して俺達客がよ、とやかく言う筋合いはねぇけどな。でもな、この姉ちゃんがさ、『ナポリタン』しか料理ができねぇって言いやがるんだよ。考えられるか? ナポリタンだぞ、ナポリタン。トマトにゃ~毒がありやがる上に、本場ナポリじゃそんな料理がねぇってのに『ナポリタン』って名前の
「はぁーっ……そうだったんですか……」
俺は気のない返事でしながら話を聞いた。どうやら揉め事の原因は、店のメニューが一つしかないことに対する苦情とみてとれる。
まぁ尤も山賊達の言い分も分からないでもなかった。この地域ではナポリタンに使われるトマトは『毒がある』と言われ、みな観賞用としては育てても誰も食べ物として認識せず見向きもされていない。またみな名前は知っていても本場ナポリではそのような料理はないので、山賊達も余計不信になってるのかもしれない。人は話を聞いただけでは信用せず、実際にその身で体験してこそ物事を信じるものなのかもしれない。
「あ~もう、ほんっとめんどくせぇヤツらですね! いいから黙ってコレを食いやがれです!!」
ジューッ。少女は問答が面倒になったのか、左手に持ちソースが跳ねるほど熱せられた鉄皿の上に乗ったナポリタンを、フォーク代わりだと言わんばかり右手のワンドに巻きつけると近くにいた山賊の口へ強引に捻じ込んでいた。
「もがもがっ……あつーっ!? そしてウマーーッ!!」
パタリッ。火傷による延焼効果なのか、それとも口に
「いやいやいや、そのナポリタン怖すぎだろうがっ! 何でダメージ判定になってやがんだよ!?」
「あっ、ほんとだ。何ででしょうね? きっとナポリタンが美味しかったから……とか、ですかね??? ほら最後「ウマーッ!!」って言ってますしねぇ~。まさかお馬さんを呼んでいるだけではないでしょう(笑)」
「そもそも美味しいからダメージになるってどんなんだよ。普通逆じゃねぇのかよ……。いや、まぁほんとは逆でもねぇんだけどさ……」
「ぬぉ~~っ。死ぬほど美味いぃ~~っ、って美味しさを表現したい魂の叫びじゃねぇですかね~♪ で、文字通り死んだ
「そして最後のその漢字は果たして合っているのか……誤字とかじゃなくて? 読者から感想欄にクレームとか来ない?」
少女は不思議そうな顔で可愛らしく首を傾げると、『美味しさダメージ』という新しい分野の言葉を築こうと画策していた。
俺は読者から来るかもしれないクレームに対し、やや恐れ
「いや、たぶんそのワンドのせいだろうが。もはや近接用武器どころか、気軽に
俺は呆れながらにそう口にするだけで精一杯になっていた。
目の前のイートインコーナーに恐怖をしつつ、お話は第2話につづく
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