死季折々

yushi

「アイスクリーム」

 田舎に帰省した僕は田んぼの畦道を彼女と並んで歩いていた。なるべく明るく自分の近況を伝えようとする僕に対して彼女の顔は悲痛なままだ。もう随分と歩いたが、田舎道は中々終わらない。長く続く退屈な道で沈黙を嫌うように僕は喋り続けた。

 しばらくして彼女がぽつりぽつりと独り言のように喋りだす。それは僕と彼女の遠い記憶。一年は前だろうか。今と同じように二人並んでアイスクリームを食べながらこの道を歩いた。僕がその時のお小遣いを全部使って買った二人分のアイスだった。

 彼女はその想い出を語りながら、涙を土に落とす。溶けたアイスのように地面に吸い込まれていく涙が何だかとても悲しくて、また僕は彼女に語りかける。しかし、他愛もない話はすぐに尽きてしまって僕も彼女と同じように視線を落とす。彼女の手に握られた花束が僕の目に映った。あの時のアイスとは比べ物にならない値段の、僕のための、花束。

 八月十四日。セミの声が遠くに聞こえた。

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