第7話 週末(一)
その週末、私は約束どおりDr. クレインの自宅を訪問した。Dr.クレインと私の遺伝子を受け継ぐ我が子、ルーナに会うためだ。
既に十五才で第四エリアの最終カリキュラムに入っているルーナは、週末は自宅に戻る許可を得ている。Dr.クレイン―イーサンの在宅の日に限られるが......。
イーサンの車を降りると、年頃の我が子が走り寄ってきた。
「マム!」
「久しぶりね、ルーナ。なんて綺麗になったの。ハグしてもいいかしら?」
「勿論!」
ルーナは私の首に抱きつき、私はルーナを抱き締めた。
ルーナは、私とイーサンの卵子と精子を体外受精させて、医療機関の育成施設のカプセルで人工的に出産月齢まで育てた。
これは、ラウディスでは珍しいことではなく、特にイーサンのような生粋のエリートのラウディアン―ラウディス人には当たり前のことだ。
性別が未分化なラウディアンや私達は、卵子も精子も共に持っている。それを政府の管理機関に一定数保管して、両者からの申し出、合意があれば、結合させて生命を産み出すのだ。
基本的に精子を提供した者が父親、卵子を提供した者が母親と記される。
ルーナの場合は、イーサンが精子を、私が卵子を提供した。イーサンの希望だった。
当然、産まれた子どもは国の子どもとして扱われるが、希望があれば両親が養育と責任の一部を担う。
私は卵子を提供するにあたって、きちんと両親の名前を伝え、顔を見せること。イーサンの要望での受精だったので、日常的にイーサンが父親として養育の責任を担うことを求め、彼は同意した。
かと言って、私も放置していたわけではない。スタディ-エリアの第一エリアに入るまでは、私が養育にあたった。
ラウディスではあまりしないことだが、母乳を与え、時間を見てあやしたり、寝かしつけた。
乳児の免疫力を高めるためには母乳が最適だし、スキンシップ、コミュニケーションは脳の活性化、ベース-エネルギーの安定を促す。
ラウディスの上層階級は性的に未分化であるため、子どもに対しても性的な色合いのある接触を避ける。
一般的には、スタディ-エリアの第四エリア卒業後、どういう進路を選択するか、の際に政府に説明を受け、同意ならば書類にサインをするだけ。
出自を明確にするのは、精子や卵子を提供した人間の責任と同時に彼らの生活の保障に関わるからだ。専門分野に進ませ、功績を上げれば、政府から与えられる階級も上がり、特権も増える。
だから、一般的には、より能力の高い家系の遺伝子を求めるし、大枚を払って同意を得る。
旧家の出のイーサンが亡命者、他所の星の出身の私に卵子の提供を求めたのは、ある意味、酔狂な話だった。
「大きくなったわね~。それに、本当に綺麗になった。成績も素晴らしいって聞いてるわ」
肩を抱くと、ほとんど背丈は私と変わらない。フェリー星では一般的な私の体格は、この星ではあまり大きくはない。
ルーナは、イーサンに似て長身で、金色の髪をしているが、肌は私に似て、やや白い。金の斑紋も少なからずあるが、イーサンほど目立たない。瞳も菫色だ。
「じゃあ、マム。ご褒美にディナーの後にプディングが、食べたい!」
「ちゃあんと作ってあげるわよ。」
「まったく。名医で名高いDr. シノンにデザートを作らせるなんて、君くらいだよ。ルーナ」
私の会話に苦笑いしながらイーサンが言うと、ルーナが口を尖らせる。
「ギルモアもローランドも作ってもらってるじゃない。この前は、大きなパウンドケーキを食べたって言ってた」
今度は私が苦笑いする番だった。同じスタディ-エリアにいる子ども達には交流がある。既にルーナと私の他の子ども達......ディートリヒとの間の息子達を引き合わせてある。
両親が同じでない兄弟は、この星では珍しくはない。互いに親の顔を知らず、成人してから特権を巡ってトラブルが発生するケースもある。
私は、双方とも両親の顔をきちんと見せて、小さい頃から交流させておいたほうがトラブルも少ないし、助け合うこともできる、と思っている。
「ねぇ、マム」
クレイン家の料理人......アンドロイドだが、シャルケの作った鴨のローストを頬張りながら、ルーナが言った。
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