ほんへ

第5話:街らしき物に行けば、道は開かれよう




 『Ka-50』の離陸を無事終えた繋は、コックピットの防弾ガラス越しに外を眺めていた。高度計がゆっくりと右に回転して、防弾ガラス越しに見える地上の風景が徐々に小さくなってゆく。その中には『X-ジェット』の姿もあり……


 「……あっ」


 それを目にした繋は、ハッとした表情で『X-ジェット』を《消去》し忘れていたことを今頃思い出す。とは言え、今は『Ka-50』を操縦している真っ最中。下手に事故を起こすのも怖いので、ひとまず今度着陸した時にでも消しておこう、と考えて脳内に留めておくことにした。……え? それまでに覚えているのか……だって? そんなこと知らん!

 と言うかそれよりも深刻な問題が一つ。


 「……行く先、どうやって見つけよう?」


 『頭空っぽすっからかんだね君』とか言われそうだね、うん。こうして『Ka-50』を出すと言う指標までは決めても、そこから先は何も決めていなかったことが災いに転じてしまう結果になってしまった。“今度からは”ちゃんとそこらへんも考えないとななんて考えつつどうするか考えていると、一つの妙案が思い浮かぶ。


 「……そうか。GPSを使えばいいんだ」


 『どうして思いつかなかったのかなぁ(白目)』とか考えながら、繋は腕を『Ka-50』のコックピット正面に備え付けられたディスプレイへと伸ばす。そうして特にこれといった違和感もなく、ディスプレイに次々と表示されてゆく様々な設定を操作した。


 「おっ、ついた」


 ディスプレイに、Go〇gleMapで表示されるような緑や茶色の地面と思われるものに、灰色の線……道路と思われるものなどで構成されている地図画像が現れた。それは繋の乗る『Ka-50』を中心として表示されており、地図画像は『Ka-50』の動きに連動して動作している。


 「とりあえず人と会って、この辺りのことを知るのがベストでしょ。

 となると、問題は、人工物らしき物があるかどうかなんだけど……」


 お願いだからま、心配しなくても多分okok! ……慢心? 何です、それは?

 ディスプレイに表示された地図画像を拡大して、何か目立つ物……街などがないか確認する。


 「って、ん……?」


 灰色の線を目でなぞるように見ていると、ディスプレイ右上の端っこに散らばる、これまた灰色の点々を発見。『もしや?』と思った繋は、それを凝視する。


 「……これって、街じゃ!?」


 繋は嬉々とした表情でそう叫んだ。

 と、言うのも、灰色の点々……それらは皆一様に、大小形様々なれど直線的な線で構成されており、まばらではあってもある程度密集している。こんなものが幾ら何でも自然パワーで成し得るとは思えないし、じゃぁなんだって言われたら……もう街くらいしか選択肢はないだろう。実際行って見ないことにはわからないが、街でなくても何らかの人工物である可能性は高い。


 「ま、為せば成るとか言うし……」


 どうせ行く道すらないんだし……こんな機会、逃すわけがないよなぁ? たとえ人がいなくても——ま、其の時は其の時だ! ね!


 「よしっ!れっちごー!」




 ……——




 「……残りは?」


 どことなく旧大英帝国ブリテン陸軍風味のある軍服を着た士官らしき男は、カーキ色の短ジャケットに皿形のヘルメット、背中には背嚢やSten Gun*にも似た銃を背負った、兵士らしき男に尋ねる。

 一方の尋ねられた兵士らしき男は、ドラム缶や木箱などと言った物資が置かれた場所の中から、一つのジェリカンを手に取りつつ、感情を一切感じさせない表情で答えた。


 「ここにあるものが全てです。あとは“焼却”すれば、ここでの任務は完了ですね」


 その兵士らしき男は、そう答えると同時に、山のように積まれた『人のような何か』の側でジェリカンの蓋を開く。そして、中に入った液体を勢いよくそれらにぶちまけた。かけられた液体は、山のように積まれた『人のような何か』の着る布にじっくりと染み込んでゆく。

 それと同様の行動を、その周りで複数の兵士が行なっていた。そこに迷いはなく、ただただ黙々と作業しているように見える。


 「そうか……ようやく、ここでの“駆除”も終わりか」


 どことなく達成感に満ちたかのような表情、そして口調で、後ろのものを見つめる。

 背後にあるのは、何やら砲撃されたかのような跡が残る、未舗装の通りに沿って作られた家々。それらは皆一様に黒い炭と化しており、その原型を一切留めていない。また、それらからは、全くと言っていいほど煙が出ていないことから、燃やされたのは随分と前であることが伺える。


 「とはいえ、ここで“駆除”した数はスズメの涙程度……“夢”には、まだまだ程遠い」


 少し暗い表情で、思いにふける。


 (だが、これは全て“夢”の為……。この世界から、“憎しみ”の根源足り得るもの全てを絶やし尽くすことが、我々の使命。あの出来事・・・・・を二度と繰り返さないために、我々の命が・・、存在する……)


 『退避』や『点火準備』と言った声が上がる中、小さく呟いた。


 「全ては“真の世界平和”の為……。あの出来事・・・・・を二度と繰り返さないため、の……」


 その時、山のように積まれた『人のような何か』に、火が灯った。それは急速に燃え広がり、あっという間に火の玉と化す。それと同時に、あたり一面に鼻をつくような匂い・・・・・・・・・が充満し始めた。

 それが燃え尽きることを確認するよりも早く、士官らしき男は指示を下す。


 「ここでの任務は完了した! 撤収準備が完了次第、次の対象地域に向かう!」


 『了解!!』


 その声と共に、兵士らしき男達は慌ただしく動いて、ドラム缶やら木箱やらを担いで、『23rd E.P.U』との文字が車体横に白色で書かれた、複数台のトラックへと積み込んでゆく。

 ——そんな時だった。


 「……ん?」


 ある一人の兵士らしき男が、物資運搬の手を止める。周囲の人間も、それにつられるように手を止めた。


 「……なんだ? この音は」


 空一面に響く、どこかレシプロ機の音に聞こえるそれ。音が徐々に大きくなっていることから、こちらに向かっているのだろうか。


 「——お、おいッ! あれッ!!!」


 ある一人の兵士らしき男が、声を荒げて右方向を指差す。その場にいる全員が、つられるようにその方向に顔を向けた。


 「あ、あれは……航空機?」


 その視線の先に存在したのは、航空機のような“ナニカ”。ただ、彼らの見慣れる航空機とは打って変わり、本来機首に付いているはずのプロペラが上部に、それも2つも付いている。更に言えば、彼らにとって航空機には絶対ついているはずの、主翼と呼べるものが見当たらない。

 その奇妙な見た目に、一同は首をかしげた。


 (新型機……? いや、そもそもこんな場所を空軍が、何の情報通達もなしに飛行しているはずがない……)


 一方の士官らしき男も、他と同様に首をかしげ……いや、正確には“困惑”していた。

 と言うのも、既にこの地域に展開していた敵はそのほぼ全てを先遣部隊が制圧していて、その戦力は前線に投入されているはず。前線の防空網も厚く、並大抵の航空戦力での突破は困難と聞く。まれに友軍の連絡機が飛行したりはするが、それは事前に空軍から通知がある。だが、今回それは無かったし、そもそもあんな形の航空機、見たことすらない。

 本来あるはずの情報を求めて士官らしき男は通信兵を呼ぶ。


 「空軍から何か情報は?」


 「い、いえ……特に何も」


 だが、当の通信兵も『何が何だかさっぱり』と言いたげな表情で答える。この様子から見るに、どうやら通信兵もあれに関して知らないようだ。

 そうして通信兵を呼んだりしている間にも、あの航空機らしきものは、確実にそのシルエットを大きくしている。すなわち、明らかにこちらに向けて飛行している、ということ……。士官らしき男はどうするか決断を迫られる。

 ……だが、やはり空軍が構築した厚い前線の防空網を突破。そして、他にもここと同じことが行われている・・・・・・・・・・・・・・中、何もわざわざここを狙うとは考え難い。それに、他の部隊からこれと言った会敵報告がないが……。

 士官らしき男は、ふと周囲を見渡した。

 見渡す限り目に入るものは、燃え盛る炎に、あちこちへと置かれた物資やトラック。そして、人。それらを一通り見て、熟考する。


 (ここからの撤収には時間が必要だ……。とは言え、“アレ”が敵であった場合、対空火器も碌にない我々では蹂躙されて終わることは目に見えている)


 思考をどれだけ張り巡らせても、魔法のようにそれが実現することはない。ただただ、今この場で選べる道は、二つに一つ。“戦う”か、“逃げる”か、のみ。


 「…………いかがされますか」


 ある一人の兵士らしき男が、そう尋ねた。その顔には、覚悟を決めたかのような表情が現れている。周りの者達は皆、一様にその顔をしていた。

 士官らしき男はそれを見て、“戦う”と言う選択肢を選ぶことを決める。そこに、人間としての感情……『生きたい』と言う欲望、そして感情は存在しない。おそらく、この場にいる誰もがそうだろう。

 彼は……いや、周りにいる誰もが、理解している。この命は世界に一つしかないことが。死んだらどうなるか、それは彼らにもわからない。それでも、彼らは“戦うと言う選択肢この道”を選ぶ。

 ここで我々が命を失おうと、必ず『真の世界平和』と言う理想を継ぐ者は、現れる・・・。そう信じている。

 命は、各々に時間が違えど、必ず絶える死ぬ。例えここで死なずとしても、いつかは死ぬ。その命をどう使うかが、全て。彼らはその命を、『真の世界平和理想の未来』へと託す道を選んだ。それだけである。

 それに、全員が死ぬ、と決まったわけではない。きっと、誰かは生き残る。そこからまた、『理想』までの道を紡いで行けばいい。何なら、誰一人死なないかもしれないのだから……。


 「——総員、戦闘に備えろ。……全ては『真の世界平和』の為に」


 『『真の世界平和』の為にッ!!』


 くして彼らは、決死の覚悟で来たるべき戦闘に臨む。




______

 そのうち挿絵もぶち込みたい。と言うことでペンタブを買ったものの、時間がないおかげで描けねぇ!ってかそもそもデジ絵は練習してないから画力が……!


*Sten Gun:第二次世界大戦初期、ダンケルク撤退戦でクソほど兵器を失ったイギリスが『エンフィールド工廠くん、支給、安価で大量生産できる武器くれや』とか言ったら出来た超安価サブマシンガン。その価格、驚異の7ドル60セント。当時アメリカがこれと同じ感じで採用したM3グリースガンが22ドルと考えると、如何に安いか想像できる。

 名前は2人の技師の頭文字(Sさん、Tさん)と、エンフィールド造兵廠の頭文字(EN)に由来。

 その安さや設計の簡素さから、軍需工場はもちろん自転車部品メーカーに装身具メーカー、果ては醸造所に至るまでの町工場やカナダなど英連邦の兵器工場とかもうお前銃かよと言わんばかりに、至る場所で量産された。Mk2では200万挺以上が生産されたり、レジスタンスにこれでもかと言わんばかりにばら撒いてナチスをいじめたりと、まぁ“簡略化しすぎてMk3、不具合発生したやつお前だよ”以外を見れば概ね傑作。救国の救世主ここに爆誕!!

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