第3話:ESCAPE FROM FOREST




——

—……




 【——……Re rqedafrgjyt vrz mdxeo je ykn oryn dm Ed.135098. Cgnrzn yat yd mjv jy.】


 【——……Adlna ykry. yat mjvjel.】




……—

——




 「これで森から脱出する準備は整ったんだけど……」


 繋はつい先ほど《実体化》した『X-ジェット』を前に、心配げな表情でボソッと一言。と言うのも、ドヤ顔で宣言したはいいが、繋の脳内には2つ心配な事があったからだ。

 それ即ち、右手に握っている『AF2011-A1』と、左手で抱えた『Pad』についてである。


 「『AF2011-A1』に関しては《削除》っていう項目でどうにかできるんだろうけど……Padはなぁ」


 もしかしたらPadでバックパックを出せるかも……なんて考えが湧き出るが、先ほどPadで物色していた際には兵器しか掲載されていなかった。色々試しても兵器しか表示されていなかったので……兵器以外は出せないという事だろう。と言うことでこの案は却下。じゃあ足に挟んで飛行するかとか考えるが、それはそれで色々やばそうなのでやめておこう。じゃ、どうすんの?(思考放棄)


 「う〜〜〜ん……」


 繋は困った様子で唸る。なんかこう……考えただけでパッと消えたり出したりできるのなら楽なのだが……。


 「どうし……んっ!?」


 その瞬間、繋は左腕の感触に違和感を覚える。


 「き、消えてるッ——!!!」


 今、脳内で:thinking:の顔文字が回転してる。うん。

 何を隠そう、彼の左腕に先ほどまで収まっていたはずのPadが、跡形もなく消滅しているではないか。地面に落とした形跡もないし、猿に持って行かれたかなとかそんな想像をするが……


 「まさか、『Padよ現れろ!!』って考えたりしたら……」


 そうやって念じてみれば、左腕に先ほどのPadを持っていた時の感覚が戻る。見てみれば、そこにはすっぽりとPadが収まっていた。


 「え、あ……うん。はい」


 もうPadに関して考えるのはやめよう、と言いたげな口調で呟く。

 と……とにもかくにも! これでPadと『AF2011-A1』に関しての問題は解決したということで! 良かったねあっはっは!!! はは……


 「と、とりあえず『AF2011-A1』を《削除》したら乗ろうか……」


 右手に持つ『AF2011-A1』を地面に置くと、Padに持ち替える。

 ホームボタンを押し、Padを起動。その画面は『X-ジェット』の画像を表示した。どうやら先ほど『X-ジェット』のページを開いたままの状態だったようだ。その画面を閉じて、兵器が画面上で大量に陳列された元の状態へと戻る。


 「『AF2011-A1』は……えーっと」


 画面をスクロールし、『AF2011-A1』を探す。『検索履歴使えYO!』と言う声が聞こえてきそうなものだが、このPad、何故か検索履歴を見る事ができない。もっと言ってしまえば、そもそもそんな項目自体存在しない。この手の検索ソフトやらにはあって当然のようなものなのだが……。という事で、残念ながら手動で探すほかない。

 画面を指でスライドしていると、陳列されたロマン兵器の中で一際目立つまともな見た目をした銃を見つける。


 「あっ、これか」


 その銃……『AF2011-A1』を繋はタップし、《実体化》と《削除》の2つの項目が画面に表示。Pad上には『AF2011-A1』の立体画像が投影されているが……それは気にしないでおこう。そもそも関係ないしね!

 繋は画面上の《削除》の項目をタップして、案の定画面は切り替わる。


 「えーっと、なになに……」


 切り替わった画面に表示された文章の羅列曰く『個数指定して削除しろOK?』だそうだ。それを示すように中心に真っ白い空欄が、左下には《キャンセル》、右下には《実行》と言う文字が表示されている。


 「多分、さっきと同じでこの空欄をタップすれば……」


 そう呟きながら空欄をタップ。画面下からニュルッとキーボードが現れる。どうやら先ほど『AF2011-A1』を《実体化》した際と、その操作方法は変わらないようだ。キーボードを用いて白い空欄の中に“1”と打ち込み、《実行》をタップする。


 「おっ!?」


 足元に置かれた『AF2011-A1』が、青い粒子を纏わせながら次第に消えてゆく。それはまるで、この銃AF2011-A1を《実体化》した時、発生した現象を逆再生していくかのように。

 その青い粒子はあっという間に『AF2011-A1』を包み込み、やがて跡形もなく消え去った。そこに、『AF2011-A1』の姿はない。本当に《削除》されたのだろう。


 「これが削除……なんだかあっけないな」


 それを見て繋は小さく呟く。別に爆発して粉々に粉砕されるとかそんなことは期待してはいなかったが……まぁ、何はともあれ平穏に済んでよろしいと言うことにしておく。


 「……とりあえず『X-ジェット』に乗って上まで飛んでみようっと」


 2つの問題が無事(?)解決したので、『Padよ消えろ』と念じてPadを消去。そうして繋は『X-ジェット』に乗り込んで、先ほどと同じように慣れた手つきで機器類を操作。エンジンを始動。あたり一面にクソほどうるさい騒音がこれでもかと撒き散らされ始める。それを少し我慢しつつ、エンジンのスロットルレバーを操作、エンジンの出力を上げる。そうして離陸体制を整えてゆっくりと離陸し、そのまま上へと上昇を開始した。



 

 _数分後 森林上空




 「おーっ……いい景色——な訳ないね!!!」


 エンジンの放つ騒音が辺り一面を包み込む中、繋は『X-ジェット』でホバリングしつつ周囲を見渡す。だがその見る果て隅々までに緑の大地が広がっていて、当然ながら人工物らしきものは一切見当たらない。ま、大体想像は出来てたことだけども……。

 出来るものならせめて何か人工物でも見つけたかったのだが、それが無い以上森の範囲外までひたすら飛行、そこから更に効率よく人工物を探すために何らかの航空機に乗り換える必要がある。

 ともなれば、問題は森の外部までの距離。つまるところがこの森がどこまで広がっているかだが、航続距離の問題に関しては暫くの間は大丈夫だろう。

 と言うのも、この『X-ジェット』は記録上では3機生産されているし、似たようなコンセプトで作られた物は幾つか存在するんだもんね! それらを用いて『ブラックバック作戦*』よろしくリレー飛行をすればいいだけの話だよ、うん!

 ……まぁ、その実態と言えば、あの紅茶全開珍作戦のように空中給油を繰り返すわけでもなく、どこか手頃な場所に着陸して乗り換えるだけなのだが。繋くんはまだ完全に紅茶に染まり切るには至っていないようで。

 それに、そもそもがこの手段は保険に近い。もっと踏み込んで言ってしまえば、最終手段。この『X-ジェット』で都合よく着陸出来る場所を探すのはもちろん必要だし、そもそもの話『X-ジェット』以外の機体はだいたいアレで……その。まぁ、率先して使わない*に越したことはない。それでもどうしてもという時は……覚悟を決めるほかないだろう。真下でローターが高速回転して飛行するおかげで、一歩足を踏み外せば無事ミXチになるような機体に乗りたいなんて言う輩はいない、そうでしょ? ……そうだよね? つまり『X-ジェット』は比較的マシな兵器なのだ。みんなも是非使おう!(おい待て)。


 「少し高度上げたら何か見えるかな」


 『X-ジェット』のエンジンが更なる高音を撒き散らし始めると同時に機体が上昇を始める。

 数分後、高度計は現在高度を約100m程と示していた。


 「ふぉ……ふぉぉ……」


 予想よりも体感高く感じるその高度に、繋は若干怖気付く。これがガラス越しならまだ良かったのだが、よりにもよってこんな機体に……いや選択肢なんてあってなかったようなもんだけどね!!!


 「どっちに向けて飛ぶべきか……」


 繋はその感情を押し殺し、どの方向に向けて飛ぶか考える。何か気になるものでもあればいいのだが……。

 しばらく地平線を見つめていると、あることに気づく。


 「あれは……なんだろう……」


 霞んでよくわからないが、自分から見て左側、その地平線が、うっすらと黄緑がかっている。まさか……。


 「草原……?」


 もしそうなのであれば、これから取り得る選択肢は大きく広がる。Fi156シュトルヒ*で遊覧飛行をするもよし、ICBMを打ち上げるもよし。もっと言えば、“ホテル”と称して艦艇大和ホテルを《実体化》するもよし。どの手段を取ろうと構わないが、現状はどうせ向かう宛先もないので向かってみることとしよう。

 機体の安定を崩さないよう、慎重に『X-ジェット』の向きを西側へと向ける。そのまま前傾姿勢になり、飛行を開始した。


 「燃料、足りるといいけどなぁ……」


 繋の顔に、これからの行く先最終手段使用の是非に対する若干の不安が含まれていたことは言うまでもない。




 _数十分後




 「や……やっぱりだ!」


 眼下でひたすら続いていた森。それは遂に終わりを迎え、一面の大草原が大地を染めていた。燃料はと言えば……。


 「残りの燃料は……ギリギリじゃん!」


 燃料計の針は、ほぼほぼ端を指している。もし草原までの飛行距離がもう少し長かったなら?


 「——そ、そんなことより……着陸。そう、着陸しなきゃ……」


 今も油断できないよね落ちたらどうすんのとかそう言う感情は全部押し殺し、エンジンの出力を下げて、ゆっくりと着陸態勢に入る。


 「慎重に……慎重に……」


 チラチラと下を見ながら、機体を慎重に操作。……そうして、何事もなく着陸に成功する。繋はエンジンを停止させ、その足を地へと降ろした。


 「……はぁぁぁぁぁぁ」


 繋はそのまま脱力するかのように地へと倒れ込んだ。飛行するだけで横風の影響もろに受けたらどうなるかなだとか、落ちたらどうしようだとか考えてしまうくらいには精神面でよろしくない機体だということは身を以て感じたのは言うまでも無いだろう。いや、感じざるを得ない。ヘリもこんな感じなのかなとか考えつつ、大空をぼーっと見つめる。


 「……今度は、何に乗るか決めないとな」


 周囲に広がる大草原。森から脱出した次の段階に踏み込んだ現在、これからどうするかを繋は少し思慮するのだった。


 


______

 ハーメルンの登場希望兵器アンケート、怒涛のホームガードウェポン率に草がは、生えますよ……。

 Pad機能の解説に関してはどうしても似たような文章が増えてしまうのは仕方ない……仕方ないよね?(威圧)


 *ブラックバック作戦:ありそうでなかった夢の英国式渡洋爆撃作戦。その概要は、当時発生していたフォークランド紛争において英国と戦争状態にあるアルゼンチン。その国が占領したフォークランド諸島に存在する唯一ジェット戦闘機の運用できる空港を叩くべく、当時英国の保有していた3Vボマーの一つ、ヴァルカン爆撃機で爆撃しようぜというもの。とは言えフォークランド諸島までは最寄りの航空基地から見ても6000km離れており、最大飛行距離約6000kmのヴァルカン爆撃機では迫真片道爆撃しかできず、かと言って空母で攻撃しようにも……まぁ、その。ハリアーで航空基地に突っ込むなんて……ね?

 つまるところ、詰んでいた。でも航空基地は叩きたいし……せや!空中給油で爆撃機持って行ってやろ!と言うことで、最大航続距離3700kmのヴィクター給油機10機を投入。島に辿り着くまでの過程で『空中給油した空中給油機で空中給油した空中給油機で空中給油した空中給油 機で空中給油した空中給油機で空中給油』することでバルカン爆撃機を無理やり飛ばし、航空基地を爆撃したよっていうのがこの作戦の全容。これは一度限りではなく、中止も含めば7回、実際には5回が実施された。英国は最高、はっきりわかんだね。


 *率先して使わない:例を挙げるとすれば、『HZ-1』や『VZ-8 エアジープ』、『VZ-1 パウニー』等々。この中でも特に危険なのが『HZ-1』。足元で飛行用のブレードが高速回転してるから落ちたらミンチとなることは言うまでもないね!……あっ、言っちゃった。

 ま、まぁ……うん。そ、それで、『VZ-1 パウニー』や『VZ-8 エアジープ』など、頭文字にVZが付いているもの。これはVTOL機の研究として開発された機体に付いてて、そのシリーズは全て合わせて12種類。

 試行錯誤をしまくった結果かは知らないが、他はちゃんと航空機してる(動詞)にも関わらずこの『VZ-1 パウニー』や『VZ-8 エアジープ』は航空機していない。現実は小説よりも奇なりってね。


 *Fi156シュトルヒ:1937年、ドイツで負傷兵輸送や弾着観測、偵察といった任務のために開発されたSTOL短距離離着陸機。時速50km/hで飛行できるとか離陸のために要する距離が45m、着陸に関しては滑走距離が僅か18mしか必要ないとか色々すこすこスペック。ムッソリーニが幽閉されていたグランサッソへの襲撃にも使われたぞ! ……え?『XF5U』?あれは“航空機の形をした”パンケーキだからノーカン!

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