第157話 勇者対放浪者
「まず彼とはほとんど話が噛み合わない。加えて彼の仲間の女の子を……その……殺めてしまった」
「悲しむのは後にしましょう」
「あぁ……意味不明かと思うが聞いてくれ。後15分ほどで武器と鎧が手に入る」
「よくわかりませんが、わかりました。その後は二人で仕掛けると」
「話が早くて助かる。だが、その後はできるだけ交渉に持ち込みたい」
「私、どうも相手の神経を逆なでしてしまうようで……戦闘中、火に油を注ぐかもしれません」
「あなたの最善を尽くしてくれればいい。それと最後に一つ」
「ん?」
「相手は手強い。気を抜いたらやられる。十分注意してくれ」
「忠告感謝します」
「作戦タイムは終わったかぁ? あんまり戦闘が続くと間延びするから好きな展開じゃないんだけどなぁ」
先ほどまで激昂していたヤファスは一旦冷静さを取り戻し、退屈そうに腕を組みながら呼びかける。
「それだけ俺たちも必死なんだ」
「俺は美味しい汁だけちゅちゅっとインスタントにコンスタントに頂きたいわけよ」
「誰がなんと言おうが思おうが、これだけは絶対に譲れない!」
「絶対に譲れないっ! ってお前なぁ……。それ騎士の後ろに隠れながら村人が粋がってる構図にしか見えねぇぞ。まぁ、それでも姫とか女騎士が言ってたらなぁ、まだよかったんだけどなぁ」
(なぜ話し合いに一切応じてくれないんだ? わざと聞き流しているのか?)
サークリーゼがヤファスへ向かってゆっくりと歩き出し、カイルは後方に下がりヤファスから距離を取る。
「お待たせいたしました。待って頂けるなんて随分余裕なんですね?」
「お前も呑気なもんだなぁ。まぁそっちの方が、後でどんな表情に変化するのか楽しみだけどな!」
「慢心は身を滅ぼしますよ」
「はははは! ……絶対殺す!!」
ヤファスが聖剣を構えると急加速し、サークリーゼとの距離を詰めていく。
彼が繰り出す疾風怒濤の連撃にサークリーゼは落ち着きはらった剣さばきで冷静に対応する。
「ほー、魔法使いでしたか」
宙に浮かびながら斬撃を繰り出すヤファスへ若干驚きながら反応した。
「違う! 勇者だ!」
強撃で仕掛けるがサークリーゼの身体を捉えることはできない。
「勇者って他人から与えられる称号かと思ってたんですが、最近は自己申告制になったんですね」
「意味不明なこと言ってんじゃねーぞ!」
聖剣イヴァルダーとリバル・フィンの剣身が激しくぶつかると、冷たくも澄み切った音が広い空間に反響する。
「ほー、これは本気が出せそうですね」
「主人公みたいなセリフ言いやがって!!」
両者は互いに牽制しつつ、空中を縦横無尽に舞いながら斬撃の応酬を繰り広げる。
ヤファスは先ほどのカイル戦の要領で斬撃と体術を組み合わせて攻撃を組み立てるが、サークリーゼへ決定打を叩きこむことができない。
一旦間合いをとって地面に着地すると、続けてサークリーゼも着地した。
「うーん、なんか違和感がありますね」
「違和感? まぁ、それも無理ねーがな。なんせ異世界を二つも救った勇者であり、かつ別の星から来た人間だからな!」
「そうなんですね」
サークリーゼは淡々と言葉を返した。
「お前、リアクション薄すぎだろ……。そこは二つの異世界を救ったぁ!? 別の星から来た人間!? す、すげー!! ……ぐらい言えよ」
「いえ、違和感はそこではなく具体的にはですね……素人が装備だけ一流品を揃えたような感じ、動きは剣術の達人のそれを形だけ真似たように感じます」
「は? 俺はステータスカンストしてるんだぞ!」
「ん? ステータスカンストとは?」
「はぁ……またそこから説明かよ」
ヤファスはサークリーゼが内容を理解できるよう簡潔に説明する。
「適当にそれっぽい数字並べてるだけじゃないですか?」
「そんなわけあるか! ステータス中の一つ一つのパラメーターにはしっかり意味がある」
「なら数値を盛ってるかもしれないですね」
「数値は正確だ! それにステータスだけじゃねー、スキルだって大量に獲得してる」
ヤファスはスキルウィンドウを表示し、サークリーゼの正面へ展開させる。
「これが俺の獲得しているスキルだ!」
「自分から手の内を見せてしまってもいいのですか?」
「ははははは! これでも俺の全獲得スキルのたった一部だからなぁ」
ウィンドウにはヤファスの所持するスキルが数十個並んでいる。
「スキルや資格だけ取って実務経験ないんじゃないですか?」
「スキルは獲得すりゃできるようになる! そういうもんなんだよ!」
(なんなんだよ、こいつの洞察力は! 異世界人みたいに頭空っぽにしてすげー! すげー! してりゃーいいんだよ!)
「あなたが、なかなかのファッションセンスをお持ちであることは理解できました」
「あぁん? どういう意味だ?」
「ん? 高価なアクセサリーをじゃらじゃらとたくさん身に着ければいいということではないと言う意味ですが」
「バカが! 強いスキルがたくさんついてるほどいいんだよ!」
「それなら経歴詐称では?」
「憶測で語るなぁ! お前の物言い、くっそ腹立つわぁぁ!!」
ヤファスは剣術と体術にギフトを組み合わせて攻撃を仕掛ける。
「当たるとそれなりに強力そうですね」
「ならばお望み通り当ててやる!」
「期待していますよ」
「減らず口がぁ!!」
ヤファスは空中へ浮かび上がると、人一人が軽く飲み込まれるほどの大きさの火球を生成する。
「炭くずと化せやぁ!!」
火球を地上へ投下すると、サークリーゼはプロテクションスフィアを詠唱した。
着弾した火球は魔法障壁を破壊し、障壁内にいるサークリーゼを焼き尽くそうとする。
業火の勢いが弱まっていき、サークリーゼの状況を露わにしていく。
(炭すら残らなかったか……。いや……いない!?)
直後、ヤファスの背後からささやきが聞こえてきた。
「何かズルしてませんか、あなた?」
(何!? 俺のチートがバレてる? いやいやいや、そんなはずはない! こいつは当てずっぽうで言ってるだけだ)
「俺の背後に気安く立つなぁ!」
背後のサークリーゼと正対するように回転しながら斬撃を繰り出す。
サークリーゼは攻撃を予想していたかの如く、剣身を当てて対応する。
「おや? 先ほどと比べて剣にブレがありますね。動揺されているのでしょうか?」
(落ち着け……落ち着け。万が一、チートがバレていたとしてそれがどうした? 最終的に勝ちゃいんだよ、勝ちゃ。勝者こそ正義!)
ヤファスは宙に浮いたままサークリーゼから距離を取る。
(くそ! こいつと戦ってるとペースを乱される……そうだ!)
ヤファスは二人から離れて戦いの行方を見守るカイルへ視線を向ける。
(そこにいたのかカイルよぉ……ったく戦いを見守るヒロイン枠かよ)
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