第26話 ギルド加入の最終判断

 王都に戻り宿の部屋に入ると、椅子に腰かける。


 (よし、これで目標の金貨30枚は達成したな)


 カイルは翌日ギルドへ行って話を聞き最終判断をすることを決めると早めに就寝した。


 ――翌朝、ギルドの建物がある場所へ向かった。


 (ギルド マグロック)


 それがここのギルドの名前である。


 ギルド長の名前がマグロックなので、長の名前がそのままギルド名になっているのだろう。


 建物の中に入り受付の人へ訪問の目的を伝える。


 しばらく椅子に座って待っていると、奥の部屋へ案内された。


 部屋に入ると机を挟んで奥にマグロックが座っている。


「おー、君は先日話を聞きに来てくれたカイルさんだな。どうだ? あれから何か進展はあったか?」


「はい、候補をしぼりました。それで今日は最終決断のために話を伺いたいと思い訪問しました」


「そうか! 気になることは何でも聞いてくれ。もちろん中には答えられないこともあるがな」


「いえ、聞きたいことはもう先日全部聞けました」


「ならウチに決めてくれたってことか?」


「はい、半分は」


「なんだはっきりしねーな。最後の踏ん切りがつかねーってところか?」


「はい、このまま行商人を続けるか、ギルドに所属するか……まだ迷っています」


「それは自分が今後どうしたいかだな……ワシから言えるのは大きな仕事をしたいなら、ギルドに所属する経験は無駄にならねえってことだ」


 それはアイリスの父親からも聞いており、カイルもそこに魅力を感じていた。


「逆にギルドに所属しなかった場合を考えてみたらどうだ?」


 (ギルドに所属しない場合か)


 所属しなければ、毎月定額報酬がなく、大きな仕事も経験できない。


 所属する際に負うリスクは、主に加入金と行動の制限である。


 加入金は用意してあるし、仮に全額失っても今のカイルであればやり直しはできる。


 考えを整理すると、今のカイルにとってギルドへ所属する利点の方が大きいと判断した。


「……決めました……ギルド マグロックに加入させてください」


「おー! そいつは歓迎だが、さっきまで悩んでたと思ったら急にどうしたんだ?」


「あなたの言葉を聞いて今、自分の考えが整理できました」


「納得したってことだな。わかった歓迎するぜ! これからよろしくな!」


 カイルはマグロックと固い握手を交わした。


 その後、正式契約を結ぶための書類に記入した。


 初仕事は五日後にあるので、その際に再度ここへ来ることになる。


 契約を結び部屋を出て玄関に向かう。


 玄関受付まで来たところ、どこかで見たことのある男性と目が合った。


 目が合った男性がカイルへ近づいてくる。


「お前、先日依頼受付所の掲示板にいたな。所属ギルド探してただろ?」


「あー、あの時のな」


「お前もこのギルドに入ったのか?」


「あぁ。ということはお前もか?」


「そうだ。俺はレスタ。同じギルドメンバーになったが、慣れあうつもりはねーからな」


「カイルだ。よろしく」


 レスタは掲示板の前で会話した時の馴れ馴れしさとは雰囲気が異なり、突き放すような印象だった。


 そう告げると彼は玄関から外へ出て行き、カイルもその少し後に同じく外へ出た。


 このギルドでは仕事がないときは自由に行動することができる。


 (まずはアイリスの父親に報告しに行くか)


 カイルはアイリスの父親に一言礼を言っておきたかった。


 店の営業終了後に訪問することにした。


 訪問すると前回と同じくアイリスの母親が出迎えてくれた。


「あら、カイルさん今日はどうしたの?」


「お父さんにお礼と報告がしたくて来ました」


 カイルは家の中へ案内されると二階へ上がった。


「ギルド加入金の情報はだいぶ集まったかい?」


「はい。それに所属するギルドも決めました」


「お! もう決めたのか」


「はい。調べているうちに魅力に感じてきて、判断材料が揃うとすぐ決めました」


「はは! それはめでたいことだ! アイリスにはもう報告したのかい?」


「いえ、まだです」


「アイリスはちょうど今外出していてね。娘も聞いたらきっと喜ぶ」


「今度会ったときに報告しようと思います」


 アイリスの父親はカイルを夕食に誘ったが、先日もご馳走になったので丁重に断ってから家を離れた。


 (アイリスにも報告したかったが……しばらく王都で活動するから改めてまた来よう)


 ギルドでの初仕事まで期間があるので、カイルはその間にできることをやっておいた。


 あと一つ依頼を達成することでFランクからEランクに上がる。


 翌日、依頼受付所で即日達成できる依頼を探したところ、運搬依頼を見つけた。


 王都には図書館が複数あり、依頼内容は蔵書を王都内の別図書館へ移動させるものである。


 (これならすぐにできるな)


 依頼受注後、馬車に乗って指定の図書館へ行く。


 図書館の受付に依頼受注の説明をすると書庫に案内された。


 書庫内には本棚が並んでおり、本が隙間なく詰められている。


 床にも本の束があり、それらは数冊から数十冊単位で紐を使って縛られていた。


 今回運搬するのは紐で縛られている本の束である。


 カイルは一旦馬車へ台車を取りに行き、書庫の前まで運んできた。


 その台車へ本の束を一つずつ載せていく。


 カイルは文字が読めるので束になっている本の題名を見るが、何について書かれている本かさっぱりわからなかった。


 (この中にもアイリスが探している情報があるのだろうか)


 そんなことを考えながら、黙々と作業をこなしていく。


 書庫と馬車の荷台を数回往復すると積み込みは完了した。


 運搬先は王都内なので、馬車で移動すると数十分ほどで到着する。


 本の束の積み下ろしも順調に終了して依頼は完了した。


 Fランクに相応しい依頼だったが、馬車を使えるからこそ受注できるものだったので報酬は若干高額である。


 依頼受付所に戻り報告を行った後、受注できる依頼がEランクまでになった。

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